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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第17話 猪突高速猛進

「これがボスゲートか……」


 時刻は9時。

 俺とゴルム、アドリア、そしてショウマ達6人パーティはようやくボスゲートに到着していた。

 大きなゲートは青く染まっていて、入口の部分は空間が揺らいでいる。

 あそこからボスとの戦闘ゾーンにワープできるんだろう。

 ボスゲート付近は安全地帯になっているらしく全員で固まって座り込む。


「まさか空を飛ぶなんていう荒業で発見できるなんて……」


「まぁ正攻法がわからないんだしこれでもいいだろ。このゲームから出られるんなら卑怯な技だろうとバグだろうと何でも利用するぞ……」


 卑怯な手だろうとゲームから出られるならそれに越したことはない。

 こんな状況になったからには後ろ指を指されようとゲームから出たもの勝ちだ。


「んで、お前らは3人だけで挑戦するってことでいいのか?」


 ショウマの声で思考が中断される。


「そだねー、元々少人数で挑戦したら楽になるかどうかって挑戦だし」


「そうですね。……とりあえず、ボスについて説明しますね」





 ボスは巨大なイノシシ。

 体高2mの巨体で突進してくる。

 大きな牙があり突進が直撃すればほぼ一撃死。

 攻撃できるチャンスは突進後の隙だが振り返りながらの牙での攻撃には注意。

 鼻が非常にいいので奇襲はほとんど効かない。

 アドリアの[隠密行動]も効果がなかったようだ。

 激昂状態はあるかどうか不明。


「前回の挑戦だとあまりダメージを与えられずに全滅してしまったので分かっていることはそこまで多くないですね」


「まぁこれだけ分かれば事前準備くらいはできるだろ」


 武器をもっているわけでもないので他の皆が装備の点検をしている間にアイテムボックスを眺めているとさっきガトリングホークから手に入った黒色火薬というアイテムが目に入る。

 ウィンドウから取り出してみると、まるで炭のような黒い塊だった。

 火薬と言うからには爆発するんだろうか。

 戻ったらラナに渡してみるとしよう。


「準備ができたら出発しましょうか。ショウマさん達が先に戦ってください」


「おう、了解だ」


「そんじゃなー頑張って」


 アドリア達が話しているのを聞き、何かの役に立つかもしれないと火薬をポケットに入れておきショウマと握手を交わす。


「頑張れよ。とっとと負けて死に戻りすんじゃないぞ?」


「はっ、言ってろ。そっちこそ俺らに先に討伐されても泣きつくんじゃねえぞ」


 意気揚々と6人がボスゾーンに入っていくのを見送るとゴルムの方を向く。


「んで、少数でやるって言ったって勝機はあんのか?」


「勝つのはそこまで期待してないけどとりあえずこのゲームのボスについてのことをもっと知りたいし、勝てないにしても情報収集はしていかないと」


「人数によってボスの強さは変わるのか、フィールドに違いはないか、あとはほかのパーティが戦闘しているときに入場するとどうなるか。いろいろ調べたいことはありますしね」


 なるほど。

 それでショウマ達を先に行かせたのか。


「あとは単純に人数が多すぎると柔軟に動けなくて突進で死ぬってのもある」


「まぁ何にせよ、ショウマ達が戦っているうちに入場しないといけないわけだしそろそろ行くぞ」


「はい。倒せないまでも痛い目にあわせてやりましょう」


「なはは。楽しい時間が始まるぞー」







 ボスゾーンに入ると同時に体が動かなくなると同時に視点が切り替わる。

 なぜ視点が変わったか分かるかというと、俺の目から広野に立つ俺の姿が見えているからである。

 かなり遠くに俺、ゴルム、アドリアが見え、その位置からだんだんと距離が縮まっていく。

 揺れる視界に加速する風景から察するに、かなりの速度で走る獣の視点のようだ。

 その視点が俺たちから20m程離れたところで止まると、同時に視点が俺達の下に戻ってくる。

 目の前に居たのは大きなイノシシだった。

 茶色い毛皮、太い脚、大きな鼻。そして特徴的な牙。

 体高2mのその大きさも相まってかなりの大きさであると言えた。


「ブォォォォォオ!!!」


 巨大イノシシが叫ぶとようやく体が動くようになる。

 今のはボスと相対した時のムービーのようなものだったのだろう。


「インスタンスエリア……か」


 周囲にショウマ達がいないことを確認すると呟く。


「ボスゲートに入る直前に選択肢が表示されたので選べるようですね。入ろうと思えばショウマさん達のエリアにも入れます」


 途中で加勢できるのは喜ばしいことだな。

 途中参加して少しだけ戦って報酬だけもらっていくなんてせこいことはできるんだろうか。

 今考えてもしょうがないが。

 目の前のイノシシを見据える。

 間違いなく格上との相手。

 午前に橙大蛇と戦った時のような感覚が体を包む。


「さて、始めようか」


「了解です!」


「おっしゃあ!」


 情報収集なんてどうでもいい。

 今はこの戦いを愉しんでやろう・






 俺、ゴルム、アドリアのパーティは突発的に組んだものだ。

 よって役割などは全く決まっていないし、このメンバーだと決める意味もない。。

 軽装で素手で戦う俺に、攻撃特化でさほど防御力がないアドリア。

 ゴルムは大剣を使いはするものの結局は回避型なので壁役がいない。。

 よって全員で攻撃して全員で攻撃を躱すという戦法になっていない戦法を取ることにした。

 まぁ全員がソロプレイヤーなこのメンバーではこれが一番合っているだろう。

 

 藍色の大剣を構えたゴルムがイノシシの正面に立つ。


「ふぅー」


 とりあえず序盤は俺が初見ということもあってローペースでいくことになっている。

 そのためにも最初はゴルムに粘ってもらわなければなれない。


「ふんっ!」


 早速ご自慢の突進を敢行してきたイノシシをゴルムが大剣でいなす。

 少し大剣に触れただけで、ガィン! と甲高い金属音が響く。

 確かに当たったら痛そうだ。

 だが怒り狂った橙大蛇程怖くはない。

 人間、それより強い比較対象を持っていると自然と冷静になれるものだ。


「よっ!」


 突進を終えて止まった瞬間を狙い肉薄する。


「あ、リュウ、それは……!」


「へっ?」


 アドリアの言葉に思わず声を上げた直後、イノシシがこちらを見もせずに後ろ脚を振り上げる。

 ギリギリで両手を交差させて顔面への強打は防いだが、それでも勢いを殺せずに軽々と吹き飛ぶ。。

 HPを3割ほど持っていかれた。


「話を聞いていなかったんですか……奇襲は効きませんって」


「……悪い、まさかここまでとは」


 呆れるアドリアを横に距離を取る。

 橙大蛇とはまるで違う攻撃パターンに戸惑うが、考えてみれば当然のことだ。

 こいつにはこいつの攻撃パターンがある。

 それを見極めさえすれば、攻撃を与えていくのはそう難しいことではないはずだ。


「どうやって攻撃したらいいんだ? こりゃ」


「突進のすれ違いざまに攻撃するのが一番現実的です。さっき話しましたけど忘れてませんよね?」


「あ、ああ、うん」


 心なしかアドリアに視線を向けられている右半身が急に寒気を感じてきている気がする。

 気のせいだよな?


「リュウ、来たよ」


「おう」


 さっき攻撃されかけたことで俺のヘイトが上がったのか突進をする構えを見せる。

 直撃すれば即死。

 牙も当たれば大ダメージは免れない、か。


「ブゴィ!」


 一声鳴くと突っ込んでくる。

 対する俺は左腕を前。

 右腕は腰だめに構える。

 正面から突っ込んでくるイノシシにとりあえず右側面に逃げてみるが、それで躱せるほど甘くはない。

 とりあえず走って逃げるだけでは逃れられないと判断した俺は――。


「ふんっ!」


 突っ込んでくるイノシシの向かって右の牙に左手を添え、そこを支点に相手の突進の勢いを利用して反時計回りに回転。

 予想以上の勢いに左手が吹き飛びそうになるがなんとかキープ。

 完全に躱したと思ったところで構えていた右手から全力の[チャージフィスト]を横っ腹に叩き込む。

 分厚い毛皮に守られてはいたが多少のダメージは通っただろう。


「よっし、なんとかいけそうだな」


 俺の攻撃と同時に攻撃していたアドリアとゴルムにアイコンタクトをして頷き合う。

 この調子でいけば激昂状態までいけるかもしれない。

 などという甘い考えは一瞬で打ち砕かれた。

 通り過ぎたと思ったイノシシがUターンして再び突っ込んできたからだ。


「っ!」


 慌てて[放撃]を発動させつつ全力で横に飛び退くが、完全に虚を突かれた。

 鈍い音と共に躱し切れていなかった右足に強い衝撃が走るが[放撃]のおかげもあってかそこまでダメージはくらっていない。

 バランスを崩した俺は背中から地面に叩きつけられた。


「何がなんとかいけそうだ……だよ」


 楽観視しすぎだろう、俺。

 自嘲気味に呟き慌てて立ち上がるがイノシシは今度こそ突進を終了していた。


「危ないな。これが10人全員が全滅した理由かよ」


「今のはリュウが油断しすぎていたせいだと思いますけどね」


「全く……何のためのアイコンタクトと頷きだったんだよ……」


 二人の言葉は聞こえないフリをして大イノシシに向き直る。。

 突進自体は集中していればなんとかなりそうだが、そっちに集中しすぎてるとそれ以外の攻撃を躱せないのが難題だ。

 全力の[チャージフィスト]を食らっても怯むどころか追撃さえしてきたんだから当然突進も要注意だが。


 アドリアの躱し方は中々に優雅なものだった。

 ゴルムのように弾くのでもなく、俺のように突進の力を利用するのでもなくただ単純に躱す。

 突進が彼女に直撃する寸前に、軽く身を捻るだけで躱してしまうのだ。

 しかも躱すと同時に相手の進行方向に鎌を置く始末。

 大イノシシはそのまま突っ込んで眉間を切られるわけだ。

 あれは俺には無理だろう。

 ゴルムもただ弾くだけではなく弾いた反動をそのまま回転させた大剣に乗せて斬っているようだ。

 俺ももっと自分のスキルを磨かなければいけないだろう。


 突進を主としているとはいえ、このイノシシの攻撃はそれ程パターン化されていない。

 突進をしてすり抜けたと思いきやUターンしてきた先ほどのように、真横で急停止して回転攻撃をしてきたり、ゴルムを狙っていると思ったら急に角度を変えて俺を狙ったり、全く予想できないことをしてくる。

 それでも殴ったり死にかけたりしながら、俺たちは着々とイノシシのHPを削っていくのだった。





「今どれくらい時間経った?」


 もう何度目かも分からない拳を叩き込みアドリアに尋ねる。


「知りませんよ。開始したのが20時過ぎですからウィンドウ開いて確認してみたらどうですか。まぁ死んでも知りませんけど」


 そう答えるアドリアの言葉にも若干の苛立ちが混じっている

 隙を見てウィンドウを開くと……21時を過ぎていた。

 同じことをする作業ではあるが、変則的であるが故に気が抜けない。

 そんな状況で1時間。

 普通なら俺やアドリアのようにイライラもしてくる物なのだろうが――。


「ほらほら! 二人共へばるの早すぎでしょ!」


「もう戦闘開始から1時間経ってんだよ! そん中で元気なお前がおかしいだろ!」


 ゴルムは元気に大剣を振り回している。

 そういえばあいつは中学3年間ずっと運動部だったか。

 精神的にも鍛えられているのかもしれない。


「こんな楽しい戦いで何言ってんだよ! じゃんじゃん攻撃していこうぜ!」


 うん、あいつは間違いなく戦闘狂(バトルジャンキー)だ。

 まぁ楽しいというのは否定できないかもしれない。

 攻撃するごとに何をしてくるかわからないから気が抜けないしボス戦独特の緊張感もある。

 それでもこれはあくまでゲームの脱出のための手段であって――。


「ブゴォォォァァァアア!!!」


「お!」


「わお」


 そんな考えはイノシシの叫び声で打ち消された。


「やっとここまで来たか」


 憤怒の形相で雄叫びをあげるイノシシ。

 これはまず間違いなく。


「激昂状態……」






「橙大蛇の時にも思いましたが、怒ると赤いオーラみたいなのを纏っていますよね」


 そんなアドリアの言葉に視線を集中させると確かに赤い衣を纏っている。


「なるほどね。あれが火事場の馬鹿力発動の印ってことか」


「ほら、集中集中!」


 アドリアと真面目に考察していると、全力でボス戦を愉しんでいるゴルムに怒られる。

 注意したくなる気持ちも分かるが気ぐらい抜かせてほしい。

 それ程怒りを露わにした大イノシシは怖いんだから。


 地面を掻くこと5回。

 橙大蛇はスピード上昇に毒液弾を使ってきたがイノシシはどんな攻撃パターンになるのかしっかり見極めないといけない。

 イノシシが何度も見た突進の構えを取る。

 それに合わせて俺たちもそれぞれの武器を構え突進を迎撃する構えを取り――。


 ザッ


 イノシシが消えた。

 それに気付くと同時に凄まじい風。

 後ろを向くと突進を終えた後の姿勢でイノシシが立っていた。

 俺の右隣にいたはずのアドリアの姿はなかった。


「は?」


 何が起きたのかさっぱり分からない。

 慌ててHPバーを見るとアドリアのそれは0になっていた。


「リュウ! 前!」


 気づくとイノシシが再び突進の構えを取っていた。


 次の瞬間、俺のHPはあっけなく0になり、俺は神殿へと送られた。


 

 

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