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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第16話 反動で空を飛ぶ

「何度見てもイライラすんなーこの景色」


「それには私も賛成です。とっととこんなエリアおさらばしましょう」


「そういえば俺はここ来たの初めてだな。イライラするとかまだ入り口だろ?」


「いーや、リュウもきっとすぐ俺らみたいになる。断言しよう」


「ふーん、ま、なるようになるか」


 ジュラス広原入口。

 目の前には見渡す限りの緑が広がっている。

 前方全てが地平線。

 ゲームでなければ中々お目にかかれない景色だ。

 後ろにそびえるのはカルカ城。

 この巨大な城が見えなくなる場所まで言って迷うと言うのだから、確かにイライラするのも仕方ないかもしれない。


「そういや、ここのモンスターって何が居るんだ? 来る気なかったから掲示板もよく見てないな」


「そうですね。リュウはもうゴルゴ山に行っているのでおかしいと思うかもしれませんがここはそこまでモンスターが多くありません。というか、ゴルゴ山が異常です」


 まぁあそこは天気がヘビ、時々晴れって感じだもんな。あれが普通なわけないか。


「入口付近はウサギ、イノシシが居ますね。ウサギはともかくイノシシは少し強めなので初心者が腕試しをするために居るような物なのかと。奥に行くと牛、ブタ、羊ですかね」


 なんだその食肉的ラインナップは。


「それ強いのか?」


「ここはフィールド自体が敵なのでモンスターはそこまで強くありませんね。料理系生産者は助かっているはずですよ」


「あー、あと一匹だけなんだけど強い奴がいるよ。ま、こいつは見てからのお楽しみでいいか」


 ゴルムが思わせぶりな口調で何かしらを匂わせる。

 まぁ橙大蛇の件からしても何かしらの強い相手が居ることは想像済みだが。


「とりあえず、リュウは初めてですしのんびり進むことにしましょうか」


「そだねー、どっちにしろ迷うんだし」


 そう決まって歩き出す。

 広くて何もないジュラス広原。あと何日有れば攻略できるだろうか。






 さて、ジュラス広原のモンスターについて説明しておこう。


 まずウサギ。ウサギである。これ以上何を言えばいいのか。

 弱い。一発殴れば死ぬくらい弱い。

 ドロップは皮と肉。


 次はイノシシ。恐らくこいつがボスの元となっているのだろう。細かい動作くらいならボスとも似ているかもしれない。

 主に突進、噛みつき、突進の後近づくと回転して牙を刺しにきたりする。

 結構反応範囲が広くて、何もないと思っていたら遠くからずんずん近づいて来たりする。その初撃が一番痛い。

 長く走って勢いもあるからなのだろうが結構ダメージを食らう。

 ドロップは肉、皮、牙。


 次に牛。牛と言ったら白黒の乳牛を想像するかもしれないが全然違う。

 バイソンと言えば分かりやすいだろうか。角を持つアレである。

 こいつは結構強い。角を使って巧みに攻撃をしてくる。

 貫通技も持っているらしく壁役を涙目にさせるモンスターらしい。

 ドロップは肉、稀に角。ミルクは出ない。


 次に羊。

 こいつはそこまで強くないが見かけによらず素早いので仕留めるのが面倒だったりする。

 ドロップは肉と羊毛。

 羊毛は裁縫の生産者が高く買い取ってくれるらしい。


 あとは豚だが、まだ俺たちは出会っていない。

 どうやらレアPOPなようだ。

 大して強くなく、高級な肉を落とすらしい。

 バナミルに旨く調理してもらいたいから早く見つかってほしいところだが。


 最後に、もう1匹強い奴がいるらしいが、まだ出会っていないどころかどんな奴かもわかっていない。

 きっと橙大蛇のような格付けなのだろう。


 とまあ、モンスターは大して強くない東エリア。

 敵はやはりフィールドになりそうだ。


「でだな、おい」


 レアPOPのブタ以外のモンスターは一通り狩っただろうというところで口を開く。


「薄々思ってたけど、やっぱり迷ってるよな、これ」


「迷ってるね、そりゃ、もちろん」


 俺の言葉に、ゴルムが当然とばかりに頷く。

 思わず呆気に取られるが、更にアドリアからの援護も入る。


「これがジュラス高原の攻略ですよ。同じ景色が無限に続く苦しみが少しは分かりましたかね」


「もう暗すぎて景色どころじゃないしな……」


 適当に歩きながら突っ込む。

 帰るに帰れないこの状況では、本当に自殺してカルカに帰還することになりかねない。


 OOのデスペナルティは、経験値の減少と所持アイテムの一部消失、装備品の耐久度減少だ。

 どれも致命的とは言いがたいが死なないに越したことはないと思うのだが。


「しかしホントにすごいエリアですよね。これだけの広さのフィールドなんて他のゲームでもお目にかかれませんよ」


「まーそうなんだがな。ここまで極端だと逆に何か仕掛けがないほうがおかしい」


 とは言っても全く仕掛けなど思い浮かばない。

 景色はさっぱり変わらないし家どころか木すらほとんどない。

 クエストをクリアしていないから通れないという可能性も考えたがアドリア達が偶然たどり着けている時点でこれはないだろう。


「ん……?」


 考え事をしながら歩いているとふと異変に気付く。


「何か聞こえないか? 銃声みたいな……」


「げ、銃声……」


 アドリアとゴルムが顔を引き攣らせる。


「何か心当たりがあるのか?」


「さっき言った強いモンスターだよ。銃を担いでて乱射してくる奴だ」


「銃って……」


 ファンタジーのモンスターが銃を担いでるっていうのは何ともシュールな光景ではなかろうか。


「でも結構遠いな。それに……何か上から聞こえるような?」


「当然ですね。相手は鳥ですから」


「そりゃなんとも……」


 上空から銃を撃ってくるとなると対策は難しい。

 上を見ても何も見えない夜となれば尚更だ。


「今のところ倒せた事がないね。目いいみたいだしこの距離でもバレてるだろうなー」


 空を飛んでいるモンスターにどうやって攻撃を当てればいいと言うのか。

 戦うにしても逃げるにしてもこの暗闇だと難しいだろう。


「距離は1キロくらいだ。さっきの銃声からして交戦してたんだろうな」


「ならそろそろ来るかな」


「どうせ今のところ大した収穫もありませんし戦ってみましょうか。倒し方がわからないと後々困りますし」


 アドリアの言葉に頷く。

 見えない以上聴覚を頼りに戦うしかないだろう。


「来たぞ!」


 俺が叫んだ瞬間、闇の中に軽やかな銃声が響き渡る。

 俺たちが横っ飛びに回避すると同時に元居た場所に複数の弾が着弾した。


 ジェット機めいた甲高い風切り音と共に上空を巨大な物体が過ぎ去っていく。


「銃声からして銃は二丁ですかね」


「結構高いところ飛んでるな。50mくらいか」


「うひゃー。全然届かないよ」


「とりあえず走るか。固まってたんじゃすぐ撃たれちまう」


 3人で頷き合い、鳥が飛んできた方向へ走り出す。


「くっそ。こんな暗くちゃ相手が何なのかすら見えねえよ」


「羽を広げた時に3mはあるそうです。恐らく(たか)をでかくしたような奴でしょうね」


「なるほど」


 銃を使う鷹なんて聞いたことがないが、獲物を捕るために急降下してきたりはしないのだろうか。

 ずっと上で撃ち続けてる限りチャンスはないだろう。

 

「うわわわわわ!」


 最後方を走るゴルムの背後に何発もの銃弾が突き刺さる。


「どうすんのリュウ!このまま走ってたらすぐに穴だらけにされるよ!」


「くっそ!」


 とりあえず全速力で走りつつ周囲を見渡す。

 たまに木が生えているがひょろひょろに細くて弾丸を防ぐことはできないし、3m程しかないので上って攻撃するのも無理だ。

 

 俺の唯一の遠距離攻撃手段である[矢投擲]についてたが[身体異常]のせいで矢を所持することができなかった。

 だから相手が放ってきた矢を掴まない限り使えないので今回はスルー。


「お前ら遠距離攻撃手段は持ってるか?」


 走りながら叫ぶが、


「私は持ってないです! 持ってたとしても50m上空に届く手段なんて限られるでしょうね!」


「遠距離!? 大剣投げるくらいが関の山だよ!」


 と口々に返されて内心で頭を抱える。

 迂闊だった。

 空を飛ばれているというだけでここまで手も足も出ないとは。

 

 と、しばらく走り続けたところで前方に数人の人影が見えてくる。


「お、おーいショウマ達じゃないか!」


 暗闇の中集まって話をしていたのは、先程俺が決闘でお世話になったショウマ達だ。

 6人で固まっていたショウマ達は何事かとこっちを見るとギョッと目を見開いて、俺たちと同じ方向へ走り出す。


「お前ら偉いな。こんな時間まで狩りとは。頭が下がるよ全く」


 重装三人組が居るショウマ達にとっとと追いつくと話しかける。

 重武装のプレイヤーを置いて行かないあたりがこいつらのチームワークを物語っているだろう。


「偉いなじゃねえよ! なんなんだこれは! お前ら人に迷惑かけてんじゃねえ!」


 当然の怒号。

 半ば以上ブーメランだが、ここでそれに突っ込むのは野暮だろう。

 そしてこいつらを巻き込んでしまった以上、やはりあいつはどうにかする必要がある。

 俺としてもあまり他人に迷惑をかけるつもりはないのだし。


「なぁ光線銃使い(ケイゴ)。お前の銃で届かないか?」


 問われたケイゴはちらりと後ろを見るがすぐに首を振る。


「駄目だな。俺の光線じゃあそこまで届かない。仮に当たったとしても今は夜だから大したダメージは与えられないな」


 そういえば太陽光がエネルギー源なのだったか。

 遠すぎて届かないとなると同じ理由で長弓使い(カリス)の矢も効果はないだろう。


「じゃあショウマは? [背後転移(バックワープ)]であそこまで届かないのかよ!?」


 駄目元で言ってみるがショウマにはアホかと一蹴された。


「50mも上に届くようなスキルなら遠距離職の意味がなくなるだろうが」


 ごもっともなセリフにはぐうの音も出ない。

 となるとショウマ側にも打つ手なしか。

 そろそろ追いつかれて蜂の巣にされそうだし、こうなったら一か八か賭けてみるしかないだろう。


「ゴルム! こうなったらやるぞ!」


 後ろを走るゴルムに呼びかける。


「え!? この状況でどうするんだよ!?」


 頭上にハテナマークを浮かべるゴルムにビシッと指をさしてそれを飛ぶ鷹に向ける。

 それだけで察したのかゴルムは顔を引き攣らせた。


「い、いや。ちょっと待って。ミスったら俺即死じゃん」


「このまま走ってたらどうせ全員死ぬんだ。やるぞ!」


 有無を言わせず技の構えをとる。

 標的はゴルムだ。


「分かったよ! やったるよ! どうなっても知らないからな!」


 ヤケクソ気味に叫ぶとゴルムも背中から大剣を下ろし構える。

 急なやり取りにアドリア達も走りながら静観している。


「行くぞ! [爆裂拳(ナックルエクスプロード)]!」


「おおおおおっ! [烈風斬(ウインドスラッシュ)]!」

 

 振り返りつつ放った俺の[爆裂拳(ナックルエクスプロード)]とゴルムの放った技が中心で激突。

 発生した衝撃と風が融合して爆風を生み、さらに[反動制御]によって限界まで大きくした反動でゴルムが上空へ吹き飛ぶ。


「だらああああああああっ!」


 吹き飛ばされたゴルムは体勢を立て直すと真下に向けて技を連発し、その反動で更に上へと上昇する。


「すごい……」


「滅茶苦茶だお前ら……」


 鷹は銃を乱射するが上昇するゴルムは技の反動を微調整して巧みに躱していく。

 そしてようやく鷹が飛ぶ位置に到達したゴルムが大剣を振りかぶる。


「もうかけっこはおしまい! 堕ちろおおおお!」


 雄叫びをあげながら大剣の切断部ではなく腹で小さい頭を全力で叩く。

 鈍い音が響き渡り、一瞬の停滞の後鷹が落下を始める。


「全員で総攻撃だ!」

 

 少し離れたところに落下した巨大な鷹を追いかけ、全員で全力攻撃。

 打撃攻撃を頭に当てると一定の確率で気絶(スタン)することがある。

 空中で一撃加えただけでは落下させるには至らないことを考えてゴルムは大剣の腹で攻撃したんだろう。


「せえええええい!!」


 ゴルムが落下の勢いを乗せてそのままぶった切る。

 落下した衝撃でゴルムのHPがごっそり減るがまだ死ぬ程ではない。

 

「キェエエエエ!」


「うっ!」


「くそっ!」


 あと少しで倒せるかというところで気絶(スタン)から回復した鷹が俺たちを吹き飛ばす。


「飛ばせるか!」


 大きく羽を広げた鷹にゴルムが大剣を投げつけるがギリギリで回避される。

 マズイ。

 このまままた50mまで飛ばれたら手出しできずに全員蜂の巣だ。

 さっきのゴルムの攻撃も今度はHPが足りないからできない。


 5mまで飛ばれ諦めかけたところで――


「はっ、残念だったな。この距離だったら届くんだよ!」


「ショウマ!」


 [背後転移(バックワープ)]で背後に出現したショウマによって、鷹は地面にめり込むことになるのだった。

 




△△△△

取得アイテム

 ガトリングホークの肉×8

 ガトリングホークの羽×50

 ガトリングホークの嘴×1

 黒色火薬×30




「今回は激昂状態はありませんでしたね」


 思い出したように言うアドリアに頷く。

 橙大蛇の時には苦労した激昂状態だったが今回はなかった。

 橙大蛇が特別なのかガトリングホークが弱かったのかは分からないが何にせよ倒せただけで御の字だろう。


「まぁ、倒し方はもっと考える必要がありそうですが」


「そうだよなぁ。毎度毎度あんなことしてられないし」


 今回は上手くいったが毎回成功するとも限らないだろうし、リスクがでかすぎる。

 アドリアがショウマ達と自己紹介をしているのを見ながら考える。

 高さ50mではまともな遠距離攻撃も届かない。

 向こうが遠距離攻撃手段を持っている以上降りてくることもないので近接攻撃もできない。

 これじゃあ[反動制御]みたいなスキルを持っていなければ攻撃ができないということにならないだろうか。

 ゲームである以上何かしらの解決策がなければおかしいと思うのだが。


「おーい、リュウ! アドリアさん! 朗報だぞー!」


 考えているところに投げた大剣を拾って戻ってきたゴルムが声をかけてくる。


「なんだ?」


「さっき空飛んだ時に見えた! ボスゲートがあったぞ!」


 既にテンションが上がっているゴルムがそう叫ぶ。


 そうして、俺の初めてのボス戦が始まるのだった。

 


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