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オリジナルオンライン−唯一無二のその力で−  作者: 井上狼牙
第一章 焼き尽くす炎の拳
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第13話 矢は掴むもの

 なんなんだ。なんなんだよこいつはっ!


 俺、カリスがショウマの誘いを受けたのは今朝だった。

 昨日、OOという未知のゲームに心を躍らせていた俺は、リリックとかいうふざけた奴にログアウトができないと宣言され、半ば自暴自棄になっていたところで、他のゲームでも一緒に遊んでいたショウマに誘われたのだった。

 弱い奴からアイテムを奪う。もし仮に止めに来るような奴がいたら、強引に決闘に持ち込んで多勢でリンチする。もちろんそいつからもアイテムを奪う。

 こうしていけばいずれ止めるような奴は居なくなるし、強い奴にはアイテムを貢がなければならない、というような暗黙の了解も生まれる。そうしていけば俺らは攻略組としてゲームを攻略していき、羨望の眼差しで見られることになる。アイテムも自然に手に入り、攻略を進めていけばいずれこのゲームからも出られる。


 そのショウマの言葉に、俺は少し迷ったが乗ることにした。アイテムを奪われる奴への罪悪感も多少あったが、俺たちがゲームを攻略することでそいつ等への助けになると思った。

 昼、俺の武器である弓を携えて集合場所に行くと、既に5人が集まっていた。フルPT6人で行うことにしたらしい。アイテムは山分けだとか。ちなみに全員知り合いだ。

 ショウマに渡された重武装を着込み、適当にターゲットを見繕い、ショウマが気の弱そうなガキに絡み始める。そこに止めに入ったのがリュウとかいう男だった。

 負けたらどうしようかと心配になっていたのだが、割り込んできた相手は初期装備で、武器も何も持たず、見るからに弱そうだった。その癖プライドは高く、ほとんど何も言うことはなく決闘を始めることになった。

 6対1。決闘はあっという間に終わると思っていた。だが、リュウは予想外の反撃をし、メイジのギリはHPを削りきられるという状況にまでなった。

 光線銃使いのケイゴと、[背後転移(バックワープ)]を持つショウマがいなかったらやばかったと思う。


 ケイゴが止めとばかりに銃を構えた。俺も弓を構えるが、内心使うことはないだろうと思っていた。ケイゴとリュウの距離は約10m。この超至近距離で光線を躱すことなどできるわけがないと思っていた。

 だがリュウは躱した。高速で発射された光線を。この超至近距離で。

 俺たち全員の顔が驚きに包まれ、リュウはケイゴを仕留めるべく走り出す。


 なんだよこいつは。なんでこの状況でまだ戦うんだよ。なんなんだよこいつはっ!


「カリス! 撃て! 足さえ止まれば俺が仕留める!」


 ケイゴが後ろに引っ込むべくバックステップをするのを見ながらショウマの声を聞き、無意識に矢を放つ。

 長弓初級技[ファストアロー]。

 威力は少し低いが速度は通常の2倍。

 躱せるわけがなかった。


 だがリュウはそれを狙っていたのだった。


 見ていた。矢がリュウの胸に吸い込まれようとしているのを。高速で移動しているはずの矢を全開まで見開いた目で追っていた。そして――。


「っ!」


 矢が胸に突き刺さる直前、リュウが右手を左下から右上へと振り上げる。

 音はなかった。そしてリュウの胸に矢が刺さってもいなかった。矢は振り上げたリュウの右手にあった。


「嘘だろ……」


 ショウマが呆然と呟く。

 掴み取ったのだ。

 俺の弓から放たれた矢を。

 高速で迫る点を。

 リュウの視線が一瞬視界の端へと移動する。

 それが新しいスキルを入手したことを意味する行為だと気付いた時にはもう遅かった。


「おおっ! [毒矢投擲(ポイズンスロー)]!」


 凄まじい風切り音ともにリュウの手から放たれた矢は俺……ではなくケイゴへと向かいその胸に突き刺さる。


「ぐっ!」


 まだリュウの足は止まらない。

 10mを駆け抜け連撃でケイゴに止めを刺す。


「くそっ!」


 切り札を倒されたショウマが怒りの声とともに大槌を振りかぶり、リュウに[背後転移(バックワープ)]。


「お前の弱点は相手の背後にしか移動できない、つまり移動してくる場所がわかってるってことだ」


 リュウは低い声でそう言うとくるりと振り返り大槌の一撃を躱しショウマに一撃を叩き込む。さらに一撃加えると同時にショウマが大槌を振りかぶり、三撃目と激突。


「んのヤロォ……」


「はっ、何怒ってんだよ。[背後転移(バックワープ)]がある限り俺には負けないんじゃなかったっけ?」


 拳と大槌を中心で交差させながら挑発するリュウ。


「調子に……ノンな!」


 ショウマは力を入れてリュウの拳を弾き飛ばすと同時に[背後転移(バックワープ)]。

 そのまま横なぎに大槌を振るう、が、リュウの拳に軽く()らされる


「だからもうそれは意味ないって」


 ズンッ!という鈍い音と共にリュウの拳がショウマにめり込む。そのまま吹っ飛ばされたショウマはHPを0にして倒れた。


「ショウマまで……!」


 刀剣使いのジローと大盾を長槍に持ち替えた伊達丸が前に出る。

 俺も弓を引き絞り矢を放つが、リュウは見てもいないのに軽く掴み取ってしまう。


聴こえて(・・・・)んだよ。貴重な矢をどうもありがとう、なっ!」


 そう言うと手に持つ矢を伊達丸へと投げる。高速で放たれた矢は伊達丸に深々と突き刺さり、盾を持ち替えた壁役はあっけなくHPを散らした。


「あと二人か。結構強いなこれ」


 リュウが能天気に手を眺めながら言う。

 矢も効かず奇襲も効かない。もう俺にできることなんて……。


「くそおおおっ!」


 ジローが盾を掲げながら接近する。だが先ほどの伊達丸のように盾ごと殴りつけられてあっけなくやられてしまった。


「さてと」


 リュウが俺を見る。あと一人、俺しかいない。急に目の前に居るこいつが死神のように見えた。

 しかしリュウは笑いながら言う。


「遠距離職とこのレベル差で1対1でやっても意味ないよな。ここらで終わりとしようぜ」


 その言い草に俺は多少イラッとくる。俺が話にならない程弱いみたいじゃないか。

 こうなったらやってやる。情けをかけられて攻撃すらされないなんてショウマや他の奴らに……。


[威圧(オーラ)]」


 瞬間、心臓を握りつぶされるような感覚とともに全身に強い衝撃。

 何が起こったのか分からない。何が起きるのか分からない。

 ただ、目の前の存在が途轍もない力を持っていることだけは感じ取れた。


「…っは! く、くそ…!」


 気づくと、ただ目の前にリュウが立っているだけ。だが俺は深い絶望にとらわれていた。

 こんな奴に勝てるわけがない。なんでこんな奴が初期装備でうろついてるんだ。なんなんだよこいつは。


「ま…参りました」


 その言葉を捻り出すのに、大した時間は要らなかった。






『WINNER リュウ』


 空中にその文字が表示されるとともに深いため息をつき全身から力を抜く。ようやく感覚が元通りになり周囲の歓声が聞こえるようになった。いつの間にギャラリーの人数も増えている。


「すげぇよ! あの人数に勝っちまった!」


「何者なんだあいつは! 最後何したんだ!?」


「矢を掴みやがったぞあいつ! どんな反射神経してんだよ!」


 ギャラリーの声を聞きながら、頭を捻る。

 既にある程度人が居る状態で決闘を始めたのだから、人が増えることは予想していた。

 しかし、それと歓声に答えるだけの度胸を持っているかどうかは別の話だ。

 人前に立つことになれていない俺は、曖昧な笑顔を返すことしかできない。


「……クソッ!」


 気づくとショウマを含めた5人が復活していた。


「おう、勝負は俺の勝ちでいいよな」


 聞くとショウマが苦い顔をする。

 さすがに負けるとは思っていなかったんだろう。


「チッ、わーったよ。俺らの負けだ。完敗だよ。アイテムでも何でも持っていきやがれ」


 言うとショウマはドカッと腰を下ろす。

 思わぬ諦めの良さになんでこんな事を始めたんだよと突っ込みたくなるが我慢する。

 そこまでは俺が首を突っ込むことでもないだろう。


「いや、アイテムはいらない。それをもらっちまったらお前らとやってることが一緒だしな。代わりに一つ条件だ」


「あ?」


「お前らはこれから攻略にしっかり貢献すること。お前らほどの強さがあれば攻略も捗ると思うんだよ。言っとくが、お前らに拒否権はないからな」


 あえて周りに聞こえるほどの声量で言う。

 ショウマはしばらく呆然としていたがふっ、と笑った


「なーにがお前らほどの強さがあれば、だ。それにお前は勝っちまったんだろ。あー。ま、仕方ねぇか」


 そう言ってショウマは立ち上がる。


「いいぜ。俺たちはこのふざけたゲームの攻略をすると誓おう。そんでいつかお前ともう一度戦うとするぜ」


 後ろの5人も大きく頷く。

 もともとこいつらもそこまで本気じゃなかったんだな。


「ああ、そん時は受けて立とう。返り討ちにしてやるよ」


 ショウマと握手を交わす。こいつらは強くなりそうだな。


「よし、そんじゃ一件落着だ。お前らにはさっそく東エリア攻略に向かってもらうぜ」


「ふん、覚えてやがれ。いつかほえ面かかせてやっかんな!」


 妙な捨て台詞を残して去っていくショウマ。残りの5人も一人ずつ握手を交わして去っていく。

 なんか……嵐のような奴らだったな。


「なんか忘れてるような気も……」


 違和感を感じてそう言ったところでギャラリーの中から一人の少年が歩いてきた。


「あ、あの……助けてくれてありがとうございました」


 そこまで聞いてやっと思い出す。ショウマ達にからまれてた少年か。

 一応ショウマ達と戦うことになったのはこの子から始まったんだっけか。忘れてたな。


「できれば、何かお礼をしたいんですが……」


「いや、礼は別にいいよ。君のために戦ったって訳でもないからな」


 あいつらが攻略の邪魔してるとかそういう理由のためだけに戦ってた訳だしな。実際この子のことも忘れてたし。


「そうですか……」


「俺に礼をしたいと思うんだったらこのゲームに対して、君のできることをしてくれ。攻略をするなりそのサポートをするなりな」


「このゲームに対して……僕ができること……」


「おう、そんじゃな」


 ギャラリーがギャーギャー騒いでるこの場所に長居するつもりもないのでとっとと立ち去る。

 いろいろと実りある決闘(たたかい)になったな。




[スキル名] [矢投擲]


[効果] 矢を投げることができるようになる。



[説明] 矢投げが可能になる。弓より威力は低いが命中力は高くなるだろう。



[取得条件] 相手の放った矢を掴みとる。




 素手だけしか攻撃方法がなかった俺からしてみればかなり便利なスキルだろう。

 威力は低いらしいが[身体異常]もあればそこそこの攻撃力を出せそうだ。

 問題は矢の入手方法かな。後でラナにでも作ってもらうか。


「ん?」


 そこまで考えてもう一つスキルを入手していることに気付く。



[スキル名] V.P.


[効果] Victory Pause



[説明] 勝利のポーズ! かっこよく決めよう!



[取得条件] プレイヤーとの決闘に勝利




「……」


 とりあえず無事現実に戻れたら開発者に苦情メール送ろう。

 大槌使い:ショウマ

 長弓使い:カリス

 光線銃使い:ケイゴ

 刀剣使い:ジロー

 大盾使い:伊達丸

 メイジ:ギリ


あ、全然覚えなくていいです


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