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第1話 波沢龍聖

「りゅーうせーい。いるかー?」


 そう俺を呼ぶのは俺と同じ高校2年生で同じクラスの友達、大宮要おおみやかなめだ。

 ちなみに俺の名前は波沢龍聖(なみさわりゅうせい)

 どこにでも居る普通の高校生だ。


「おう要。なんか用か?」


「用があるから呼んだんだよ。えーとなんだっけ。OOって知ってる?」


 OOとは近日発売されるVRゲーム、Original(オリジナル) Online(オンライン)の略で、その名前の通りプレイヤーの使えるスキルは一部を除き、すべてオリジナルスキルなんだそうだ。

  『自分だけが使いこなせる自分だけのキャラが作れる』という文句通り、自分だけのスタイルを確立し、誰にもまねできないプレイをすることができるという斬新さから、世のゲーマー達は発売を心待ちにしているんだとか。


「そりゃあ知らない方がおかしいだろ。CMもよくやってるし、発売間近の大注目ゲームなんだから」


 OOは普通のゲームと違い、二度プレイされることはゲームの実態に関わる、ということでβテストを行っていないという。

 その異常性と徹底ぶりから、テレビでもこのゲームが報道されることは多い。


「で、その予定超人気ゲームに何の用なんだ?」


「ふっふっふ聞いて驚け! 俺はOOの優先権を2枚入手することに成功したのだ!」


「ふーん……ってマジで?」


 俺はそこまでゲームをする方ではないが、これには驚いた。

 OOの初回発売を入手するためには最低でも1週間は列に並ぶ必要があると言われていたのだ。

 何度も予告などを見ているせいで少しOOに興味がわいていた俺だが、学生の身分である俺にそんな余裕はないので入手することは諦めていた。


「ってえ? 2枚?」


 突然のカミングアウトに思考停止していたが、聞き間違いでなければ今こいつは確かに――。


「おう、俺のいとこがゲーム会社やっててさ。なんか伝手で入手したらしくて。使わないから友達とでもいっしょにやれば? って言ってプレゼントしてくれたんだよ! ということでりゅう! 一緒にやろうぜ! OO!」


「伝手で入手……か。そんなことってホントにあるんだな。しかしいいのか? オークションにでも出せばかなり高値が付くぞ?」


 実際OOの優先権が数十万で売れた、という話も聞いたことがある。世のゲーマーは無茶するなぁなどと思っていたのだが。


「いやいや、貰い物だし売るつもりはないって。そんなことより俺はりゅうと広大な世界で冒険をしてみたいんだよ」


「……おう」


 照れ臭いが、真顔でそんなことを言われたら断る選択肢もなくなるというものだ。

 要はよくこんな風に自分の意志をまっすぐ相手に伝えてくる。

 とにかくもともとOOはやりたいと思っていたし、断る選択肢など最初からありえないだろう。


「そっちがいいなら俺はぜひともやりたいな。よろしく頼むよ」


「よっしゃー、りゅうならそう言ってくれると思ったぜ。じゃあ今日の放課後俺んち来てくれない? 色々話したいこともあるし」


「おう、じゃあ放課後な」


 ちょうど昼休みの終了を知らせる予鈴が鳴る。

 俺の心は早くも近々発売されるOOへと惹かれていくのだった。





 後日。


 とりあえず、俺がOOについて調べたことを述べて行こうと思う。


 まず第一に語らなければいけないのはやはりオリジナルスキルについてだろう。

 OOは武器スキルと生産スキル以外の全てのスキルがオリジナルスキルで、ほかに誰一人同じスキルを手に入れることができない。

 一定の条件を満たすことでスキルを手に入れることができ、それは街中で転ぶ、という行為でさえ例外ではないという。

 また、OOのスキルは派生型であり、ある程度レベルを上げる、ほかのスキルと組み合わせて発動する、などで違う効果に変化することもある。

 この部分だけでも心躍る話だが、OOが注目されているのは何もオリジナルスキルがあるからだけではない。

 広大なフィールド。

 様々なモンスター。

 幾万にも及ぶアイテムの数々に、それらを加工して作る武器防具の豊富さ。

 今までにない程超大規模なゲームだからこそ、日本どころか世界中の注目が集まっているわけだ。

 

 サービス開始は今度の日曜の午前八時。

 その一時間前からサーバーが開放され、キャラメイクを終えた後、八時ちょうどにログインができるようになっているようだ。


 キャラメイクでは、キャラの名前、体格、身体各部の色を決めることができる。

 しかし、現実と大きく体格が変化すると現実での生活に影響が出る可能性があるため、現実の体から一定以上は体格が変化できない設定になっている。

 そして重要なのはここからで、キャラメイクを終えると、初期スキル入手の場へと移る。

 入手できるスキルは三つで、完全なランダム。

 当然これらもオリジナルスキルであり、ここで入手できる三つのスキルでそこからの戦闘スタイルが決まると言ってもいいだろう。

 スキルを手に入れた後は、武器の選択をすることになる。

 OOで数少ない汎用スキルなのがこの武器スキルで、基本となるこれらの武器スキルに自らのオリジナルスキルを合わせて自分だけの戦闘スタイルを確立していくようだ。

 武器に関しては片手剣や大剣、槍に弓など、オーソドックスな物が既に開示されているものの、これで全部ではないらしい。

 俺も武器に関しては、当日に初期スキルとの兼ね合いも考えてじっくり悩もうと思っている。


 そして先程も言ったがOOには生産も存在し、各町に居るNPCに話を聞くことで、生産スキルを覚えることができる。

 生産スキルもオリジナルではなく、戦闘と両立して上げることも可能。

 生産向きのオリジナルスキルもあるらしいので、自分だけのアイテムを作成することも夢ではないようだ。


 最後に付け加えると、ログインの初期位置は『城下町カルカ』というエリアらしい。

 城下町と言う名の通り、町の中央には巨大な城が厳かにそびえ立っている。

 ここからプレイヤー達は、広大なエリアを冒険していくことになる訳だ。






「まだサービス開始されてないこの状態でわかることはこのくらいかな。張り切って色々調べてみたけど、おかげで明日が待ちきれないな」


 ついにOOサービス開始が明日に迫った土曜日。

 俺は要の家に来てOOについて話し合っていた。


「よくそんなに調べたなー。俺も知らない情報がてんこ盛りだよ」


「俺はゲームを始めるならとことん情報収集をしてから始めたい派なんでね。まぁβテストをやってないから、分かる情報なんてたかが知れてるよ」


「情報が洩れたらゲームの運営そのものに被害が出るからね。スキルの入手法とかわかっちゃったら大問題だし」


 OOの性質上、一度サービスが開始してしまったらスキルの入手法がわかったところで、誰も同じスキルを入手することができない。

 運営もサービス開始までが勝負なんだろう。


「とにかく、明日は休みだし目一杯遊んでやるぜ」


 要はいつでも能天気だが、この意見には俺も同意だ。

 ここまで人気になっているゲームを、サービス開始からプレイすることなんてこの先の人生で二度とないだろう。

 とことん楽しむのが筋というものだ。


「お互い、初期スキルで変なのがでなけりゃいいけどな」


「はは。変なのが出てもそれはそれで面白そうじゃんか。何にしても、明日が楽しみだね」


 結局その日はOOの話で盛り上がり続け、俺達は期待に胸を膨らませていた。








 そしてその日が来る。


 サービス開始が一時間後に迫った午前七時。

 当然時間丁度にサーバーにログインした俺は、キャラメイクへと移る。

 要とは、ログインしたところで落ち合う予定だ。


 まずは名前。

 これはさして悩むことなく、今までのゲームと同じく『リュウ』で設定。

 要にも普段こう呼ばれているし、特に問題はないだろう。

 

 次に体格だが、これも適当にスルー。

 実際、現実の俺と同じ方が動きやすいだろうし初期設定のまま決定した。


 さて、ここからが俺がずっと待ちわびてきた初期スキル入手だ。

 ここで選ばれるスキルによって、武器や戦闘スタイルなんかを決めていくことになる。

 例えば[魔法威力向上]なんてスキルが出たら魔法キャラにした方が効率が良いし、[切れ味強化]スキルが出たのにハンマーを選択するのはスキルの無駄だ。

 無論スキルに縛られて自分のやりたいことをできないのでは意味が無いし、実際にスキルを使ってみたら予想と違った、と言うのもあり得るから、一概には言えないのだが。


 さて、そういう訳で俺はかなり緊張している。

 要は変なスキルが出ても面白いなどと言っていたが、それでも役に立たないスキルが出るよりかは強いスキルが出た方が嬉しいだろう。

 これから長く続けていくことになるかもしれないゲームだ。

 その最初を運命づけるこの場面、そうそう能天気にはなれない。

 ……とは言っても悩んだところで結果は変わらないので、どうすることもできないのだが。

 

 スキルはスイッチを押すと一つずつ入手できるらしい。

 虚空に浮かぶスイッチを眺め、意を決して押す。


 ばびゅーんと奇怪な音が流れ、数秒後に文字が浮かび上がってくる。



[スキル名] 「威圧(オーラ)


[効果] 自分より弱い相手の動きを少しだけ止めることができる。


[説明]全てを止める覇者の威圧。まだその片鱗


[取得条件] 初期




 ふむ、[威圧(オーラ)]か。

 効果はありきたりだが、説明を見る限りではなかなか強そうに見える。

 まだその片鱗と言う事は、これから進化していったりするのだろうか。

 字面ではなかなか想像しにくいが、役に立たないスキルと言うことはないだろう。


 一つスキルを手に入れたことで勢いづき、今度は躊躇せず再びスイッチを押す。



[スキル名]「放撃」


[効果] 物理攻撃のダメージを軽減することができる。


[説明]ダメージを受けた衝撃を体内から外に逃がす。


[取得条件] 初期



 おっと、これは中々分かりやすいスキルだ。

 要するに、任意発動の防御スキルと言う事だろう。

 遠距離で戦うよりも近接で戦った方が生かせそうに思える。


 さて、次がいよいよ最後のスキルになる。

 よっぽどのスキルが出なければ近接武器にしよう、短剣や片手剣+盾なんて選択肢も――などと思いながらスイッチを押す。


 そして浮かび上がって来た文字を読み、俺は思わず声を漏らした。



[スキル名]「身体異常」


[効果]基礎スキルの威力が2倍になる。

   武器を使うことができなくなる。


[説明]異常な状態で生まれてしまった生命。

ありえない基礎能力を得るが、武器を一切使えなくなる。  


[取得条件] 初期




「は?」





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