帰宅中です【うろ夏の陣】
かえろ、おうちに、かえろ?
やぁらかいなぁ。暖かいし。
私は優しい手触りに顔を埋めました。
そうしておいて、ふと、どうしてこうなったのだろうと思いました。
…………痛い。
そこでやっと自分がおかしいのに気付きました。
腕や肩から血が落ちて、頭の痛みが凄いです。でも唸る気力もなくて顔が歪みます。
「無白花ぁ、雪姫苦しそう」
「急ごう。あそこで治癒してやりたかったが、鬼に乗っ取られていたとはいえ、かなりの妖怪を切っている。生身に戻った雪姫に仕返しを考える奴もいるはずだ」
「それに小角の元に居る間に、かなりの瘴気を浴びているよ。巫女って色々影響うけやすいんだよね?」
「巫女が巫女たる由縁だ。母さんから聞いたんだけど、宵乃宮の巫女は自分よりも他を愛し、受け入れる事で神に愛でられた者。神を降ろすべき体に鬼が入ったんだ、影響がないわけがない。それも血をこんなに浴びて……さっきのアレが降りれると言う事はまだ清らかさは保たれているのだろうが」
「まさかもう、人柱に成れちゃうの? ヤダよ」
「即、は無い、が。人柱なんて、巫女の最悪な使い方だ」
「大丈夫かなぁ……」
内容はわからないけれど、とても二人に迷惑をかけたみたい。おっきなねこさんの姿で二人は走りながら喋っています。二人は私の起きているのに気付いていないみたい。
そして私が背に載っているのは無白花ちゃんのようです。花の様な良い匂いがします。
いろいろ痛いけどそれを忘れるくらい安心できるから、私は彼女に身を預けつつ、手の平に柔らかい塊を感じます。
「黒軍手君……」
私は賀川さんにお祭りで獲ってもらったぬいぐるみを握っていました。
彼にすごく会いたい、そう思います。何故そう思うのか、何もわからないけれど。とても彼に長くあっていなかった気がします。
無白花ちゃんも、斬無斗君も。
ここにこうしている事が嬉しくて、でも痛くて動けなくて、ぐったりとその背に揺られます。
向かうはチョコレート色の家。森の小さな建物。
懐かしい……何故かそう思える、その前まで来ると、斬無斗君が人間の姿になり扉を開けます。
「そっとだぞ」
「わかってるよ」
無白花ちゃんの背から斬無斗君は私を受け取り、人間の姿になった無白花ちゃんは布団をはぎ、そこに私を横にします。私の体からの血ですぐに真っ赤になって、あれ、何か、大変な事になっているかもしれません。
私は置かれた時に痛みを堪えていたけど、息が苦しくて、唸ったように漏れてしまって、斬無斗君を無白花ちゃんが睨みます。斬無斗君のせいじゃないよう……そう言いたいですが、言葉が紡げません。
「睨んでないで、早く治しちゃおうよ」
「おい、斬無斗。その姿で雪姫を舐めようとするな……」
「別に良いじゃん」
ぺろっと首の辺りを舐める感覚がして、声も出せずに驚きます。
「やめんかっ」
無白花ちゃんが拳を振り上げますが、斬無斗君はひょいと避けます。
「嫉妬? 無白花は雪姫に嫉妬しちゃったのー?」
「っ! 阿呆かぁっ!!」
「はいはい、わかったよぉ」
それで二人はちっさいねこさんの姿になると、私の体を嘗めてくれます。猫夜叉には舐めると傷が回復できるのです。毒にもなるらしいけれど、今は癒しの力で。
ふうっと痛みが消えていくのを感じました。とても痛かったんだ、無くなって気付きます。二人の舌はざらっとしているけど、どこかくすぐったいです。
でもどうしてこんなに傷を負ったのでしょう?
そう思った時、急に斬無斗君が跳ねる様に飛び退きます。
「む、無白花ぁ……ここの傷、舌がヒリヒリするよぉ。これ」
「悪戯するからバチが当たっ……! 違う……それは……」
「あの術師、酷いよぉ」
「右の傷ばかりに注視していて気付かなかったが、これは酷い……」
私はだいぶ良くなった来たので、目を一生懸命開けて、
「わたし、何かしちゃった?」
そう聞くと、二人はハッとして姿を人間に戻して、私を囲んでくれます。
「傷はすぐに治る、一晩もすればきっと回復する。側に居てやるから……」
「ダメだよ、無白花。エインセルも居ない。追い払ったとはいえ、戦いの場となった西の山は荒れたから、ずっと僕達が無山を離れるわけにはいかないよぉ」
「だけど、え? 母さんまで。急ぐって……この左首の傷、放っては置けないのに……これは……」
「大丈夫、無白花ちゃん、行って。私には……」
胸に下がっていたはずの赤い結晶のネックレスがありません。
「私また壊すような事しちゃった? でもあんまり覚えて、ない」
砕けていく赤い欠片、私の作った赤い血の川……頭痛が激しくなりかけましたが、
「思い出さなくていいんだ、雪姫」
「無白花ちゃん、私、何したの?」
「雪姫、気にするな」
無白花ちゃんが私の目に上に掌を置くと、
「一緒に居られなくてごめん。そうだ今度、町へ行こう。一緒に」
私が頷くと、二人が「オヤスミ」、と囁くのを聞きました。
だから意識を手放して、ゆっくり眠りに落ちました。
私が眠りに落ちた時、無白花ちゃんが私の左に残る傷に触れようとしますが、斬無斗君がその腕を止めます。
「触れると痺れるよ。僕達ではどうにも出来ない」
「止めないでくれ、痛みだけでも分かち合いたいんだ」
「無白花ぁ……雪姫はそんなの喜ばないよぉ」
「どうして……ただの捨て台詞かと思ったのに」
『ただでは返さんぞ、巫女よ』
……2人には、その時の老人の呟きが聞こえていました。いえ、聞こえる様に言ったのかもしれません。
しかしそれが現実となって、私に降りかかるとは思っていなかったのです。
「でも母さん、約束したんだ。一日だけでいい。早い内に雪姫と町に行きたいんだ。許して……」
「さあ、戻ろう。無白花。帰らないと、雪姫の言っていた水撒き……禊の雨が降るよ」
二人は頷きあうと、最後に私の髪を撫でて、名残惜しそうに森の家を片付け、その場を後にしたのでした。
私は何も知らず、ただ、今は静かに眠りを貪っていました。
銀月 妃羅様 『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん 斬無斗君 二人のお母様の言葉 お借りしています。
いつもありがとうございます。
所々変わっているので確認を。




