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立ち話中です

今回、二人、新キャラ






 不審そうな顔で『うろな家前』のバス停で佇んでいるガテン系の男の前で、俺はトラックを止めた。彼は五十も半ばだろうか、ダークブラウンの鳶服が一分の隙も無く似合う厳ついオヤジだった。ごわつきのありそうな黒髪をバッチリ櫛と整髪料で撫でつけており、一筋光る白髪、額の皺さえも勲章のようだ。

 前田 鷹槍、マエダ タカヤリ。

 ナゲヤリではないので注意しなければならない。それは彼ら年代の仲間内のあだ名であって、俺の様な新参者が口にしたら抹殺される……かもしれない。


 彼は、この辺の水道ガスなどの配管工事を主に請け負う『うろな工務店』の社長。

 前田家は先祖代々この周辺の家の施工を生業にしている。先代から家の施工、公共工事の中でも、ガス水道配管等の主軸に請け負う『うろな工務店』を開いている。

 商店街で『タカさん』『タカのおやっさん』と呼べば、工務店二代目の彼を指す。口調も見た目もキツイが、意外に義理人情に篤い、商店街の『いいおっちゃん』の一人だ。


「タカさんじゃないですか」

彼が乗ってきた『うろな工務店』の軽トラはバスの邪魔にならない少し離れた位置で、ハザードを点滅させて止められている。車の故障でも起こしたのかと思い、声を掛ける。

「おう、賀川の」

「どうしたんですか、こんな所で」

 車に故障した感じは見受けられない。

 では道に迷ったんですか、冗談でもそんな失礼な事は聞けない。俺達、運送会社より小道を知り尽くしているのが地元民だ。だがその台詞でタカさんの小さい丸い瞳がぎょろりとして、

「森の中に家なんて知らねえよな?」

と、俺のトラックが発するエンジン音に負けない声で聞いて来た。その時、一人の少女が俺達に話しかけてくる。

「あれ? 何してんだー? タカのおっちゃんじゃん。賀川さん道わかんないの?」

「いやいや、なんで俺、迷子扱いなんだ?」


 俺の名前は時貞 玲、トキサダ アキラ。

 だがこの辺じゃ皆、運送会社のカガワが俺の名前になっている。うろな一帯は俺か、休みと時期によってヘルプの先輩が入るだけで、ほぼ俺の担当だから全く困らない。一応名札は付けているが、町の人はそんな認識だ。

 この町で俺の本名を知っている人が居たら、会ってみたいモノだ。本名名乗っても十中八九、次から賀川さんと呼ばれる。濃い緑の大きな水玉が散っている制服を着ている限りは。脱いでしまえばどこの誰かわかってはもらえない、そんな変な自信がある。

「じゃあ、こんな所で何してる?」

 トラックの車窓から話しかけていた俺と、タカさんに声をかけて来たのは、すらりと伸びた健康的な肢体をした少女だった。

 何か『面白そうな事が落ちてないかな?』ッと言う感じの興味津々の瞳。高校生くらいと思う。だが制服を着ているのを見た事はないから、もしかしたら専門学校か大学生なのかもしれない。


「お、キヨ坊か」

 キヨと呼ばれた古風な名前の少女は、このバス停の名前の元になっている『うろな家』の住人だ。配送の際に何度かサインをもらったので、覚えている。この家は下宿らしく、複数人の人間が同居している。

 この頃、大家の女性の姿を見ないけれど、仕事で忙しそうだったのでこの下宿を空けていて、この少女が切り盛りしているようだ。

 住居者全員に会ったかは定かじゃないが、春先にも少女が一人増えたのではないかと思う。


 俺は配送時間には余裕があるし、道にはそんなに車が走っていないので、トラックのエンジンを完全に止めた。エンジン音が消えて静かになる。そのタイミングでタカさんが再度口を開く。

「お前さん達、この森の中に人が住んでいるという話を聞いた事ないか? それも女の子じゃないかと思うんだがな……」

「へ? この森の中で? タカのおやっさん、面白い冗談だね。もし住んでいるとしたら幽……」

「あ、俺……」

「「白い人だよねーーーー」」

キヨさんが茶化したが、俺は心当りがあった。それを話そうとした途端、キヨさんの足元に何処からともなく湧いた黒と白の影が唱和した。



「このみお姉ちゃんが来たころかなぁ、見たんだよ。すっげ、綺麗だったぜ」

「このみが来たころかなぁ、見たのよ。すっごく目が赤くて。くぅったら何だか真っ赤になってねぇ」

「ばっ、しぃ! それ言うなっ」



 黒と白のパーカーに、フードをすっぽり鼻まで被った二人。

 黒い方が「くぅ」で男の子、白い方が「しぃ」で女の子のようだ。声が似ているから、双子か、年子、まぁ間違いなく姉弟だ。



「くぅ、今、『バカ』って言いかけたでしょう? お姉ちゃんに向かって許さないんだからっ」

「ち、違うよっ。しぃにそんな事言わないよっ!」

弾むボールのようになりながら駆けて行く白と黒の子供。二人共うろな家に駆け込んで行ったから、そこの住人なのだろう。



 呆然と見送る俺らに、キヨさんは「いつもの事」だと言ってから、

「あの双子の言う事を信じるわけじゃないけれど、この森には白い幽霊が住んでいるって噂はたまに聞くよ。でも流石に人は住んでないと思う。あ、でもいつだったか見ない女の子がバス停に立ってたな」

「見ない子? だ」

「なっがい黒髪に肌が白いの。美人っちゃー美人だけど、気味悪い感じがしたよ。どこか人工的で。あんな子なら目立つだろうし、この辺の人なら、たいてい顔見知りなんだけど」

「そうか、ありがとな、キヨ坊」

「今度の夏は森で肝試しでもやるかな? じゃ、二人共」

手に抱えていた荷物が重くなってきたらしく、キヨさんはその場を離れた。



その手に握られていたのは、この街の森を除いた最北端に位置するスーパーのエコ袋。下宿人数分の買い物は大変なのだろう、袋はどれも一杯に広がって食材がはみ出していた。 


煙花よもぎ様の「うろな家にようこそ。」で、舞台となる「うろな家」のある所のバス停『うろな家前』にて。

キヨさん、双子ちゃん、お借りしました。このみちゃんはこの頃どうなっているかわからないので、名前だけ。

イメージ違っていたら書き直しますので、言って下さい。

キヨさんとタカ・賀川を顔見知りにしてしまいました。ダメだったらお知らせください。


ここで宣伝。

『まあるい気持ちをお届けします、水玉マークでおなじみの賀川急便、うろな支店、配達担当、時貞 玲です。御用の際はお声がけ下さい』


……今ここで書いて、この子の本名、トキサダやったわ、と思った私。

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