初陣中です【うろ夏の陣】
雪鬼目線。
誰もが傷つくといいね、赤いのが綺麗だよ。
私の瞳の色と一緒。
右の額に刻まれた証と一緒。
血が赤いのはヘモグロビンの色で、酸化しちゃうと茶色になっちゃうの。
だからあかいいろをずーーーーっと保っていたかったら、心臓を止めない程度に誰かの体を切り裂いて、吊り下げておくといいかもしれない。
その血が喉の渇きを止めてくれるはず、だから誰かを傷つけて良いかな?
「ねえ、どれ食べていい? 後鬼お姉様」
「おさえてね、もう少しで無山に着くから」
「無山?」
「猫夜叉がいるんだ、それがお前の獲物だ」
「ねこ? ねこなべにしようかな? ねえねえ、前鬼お兄様も食べる?」
「ね、ねこなべ……つ、作ったら御馳走してくれ」
それを聞いて、笑いをこらえてる様な前鬼お兄様、よっぽど好きなのかな?
雪鬼は良い子だねって後鬼お姉様が頭を撫でてくれます。ちょっとくすぐったいです。
その後ろから静々とついてくる小角様のくらーい瞳に笑いかけると、嬉しくなります。
冷たい凍るような視線は私の大好きなあの人に繋がる。
大好きな?
雪鬼は首を捻ります。
彼を凍るような視線にしたのは、だあれ?
優しい人なのに、彼を冷たくさせたのは、ワ タ シ。
ワ ス レ タ イ なら 眠 レ。
永 久 ニ 巫女 ヨ。
「どうしたの、雪鬼。ほら、居たよ」
「あ、綺麗」
そこに居たのは男の子と女の子。双子みたい、銀色の髪に似たようなフードの二人組。でも猫には見えません。でもとっても綺麗な子達です、うっとりしてしまいます。
「猫なの?」
「そうそう、猫」
「綺麗な顔しているから、血まみれになったらもっと似合うね。ふふ、楽しそう。前鬼お兄様、ごめんなさい。鍋にするのやめました」
「え?」
「そのまま吊り下げておきます。死なない程度に切って。可愛いから好き。一目で気に入っちゃったのです」
「……雪鬼は俺達より悪鬼らしいな」
小角様がすっと錫杖で猫の二人を指します。
「雪鬼。行って来るがいい、初陣だ。無理はせんでいい」
「はーい、小角様」
とんとんと跳ねる様に近付いていくと、誰かと勘違いしているみたいで、彼らは口々に何か言います。「雪姫、雪姫!」って。
うるさいです。
だって私は『雪鬼』です。発音同じだけど、音に籠る心が違うのですぐにわかっちゃうのです。
女の子に爪を振るいます、そうすると小太刀みたいなので避けられます。そこで切って来るかな、じゃあと懐に飛び込んで攻め込もうとすると、全くその気配はなくスルリと躱されます。
「何で切って来ないの? そこは切り込む所だよね?」
「切り込むって……私がわからないのか。雪姫、目を覚ませ」
「もう。何度もうるさいです」
男の子も同じ、攻めても躱すばかり。
うー。
正直、やりにくいです。ちょっと馬鹿にされてるかもしれません。折角気に入ったのに。
そんな感じで何度か攻めた時、砂塵が舞います。
現れたのは唐草模様のマントを翻し、天狗のお面をつけた男性。
「うろな山の守人、猫夜叉とお見受けする。わが名は天狗・琴科平太郎。
許可なき無山への侵入の無礼であるが、異形の気を感じて参った次第。
甚だ勝手ではあるが、助太刀いたす」
でも猫の二人から野次が飛んでいるような気がします。天狗さんは仲間じゃないみたい。
前鬼お兄様と後鬼お姉様が笑っています。
食べても良いかと後鬼お姉様に聞いたら、
「いいわよぉ。雪鬼。ま、力のない天狗なんて全然美味しくないでしょうけどぉ」
「ううん、ありがとう」
そう返して天狗さんに近付くと、私が爪を振るより速く、風が起こります。
風の檻。
私をクルリと包み、上空へと固定されてしまい、「え?」と目を丸くしてしまいます。
「憑依か傀儡かは分からぬが、一時しのぎにはなるであろう。すまぬが、そこで大人しくしていてくれ」
私はムッとしました。
一時しのぎって何?
小角様はちらりと私に目線を送ってくれます。
私はそっと風の檻を作る力をいただいて、言葉を乗せます。誰にも聞こえない音、私だけの声で「皆来て」と呼びかけてみます。
うん、来てくれた。お願いね。
後は合図を待って……
前鬼お兄様と後鬼お姉様の声に合わせて、「虫さん虫さん、皆、殺って」と伝えます。
天狗さんの作った檻が消え、私のたくさんの友達が言葉通り彼らを襲います。
その様を見ていると歌のように言葉が溢れます。
「血をちょうだい? 肉をちょうだい? ねえ、いいでしょう?」
何だか面白くなってきて、くすくすと笑ってみます。
その時、しゃらん、と錫杖の音が響いて、波が引いていくようにお友達が帰ります。
ああ、もう終わりのようです。
「もうよい。ご苦労であった」
小角様が声をかけて下さいます。私は嬉しくて、
「はぁい。小角様」
そう返して虫さん達から降りる時、ふらっとしたのに気付いた後鬼お姉様も心配してくれて、
「雪鬼、まだ馴染んでないみたいだから無理しちゃ駄目だよ」
「うち馴染む。今しばらくの辛抱ぞ」
「小角様、天狗と猫夜叉はいかがなさいますか?」
「……捨て置け」
「はっ、策は講じたのでございますね」
前鬼お兄様に合せて、小角様に私も頭を下げます。
まだ猫さん達が何か言っているけど、小角様が終わりって言ったから終わりなの。
ただ首から下げた十字架が一瞬光った気がしたのは気のせいだったのでしょうか? それを気にしていたら前鬼お兄様から声がかかって、
「おーおー、いと儚げだな。雪鬼、帰るから挨拶してやりな」
「うん、分かったぁ。‘さようならぁ’」
確かに何か言わないと終わら無さそうだったので、言われた通り、そう言っておきます。
小角様が錫杖で地面を突くと、暗い場所に移動します。
「うー食べ損なったよ」
ちょっと疲れて、地面にへたり込みます。
「疲れたの? 大丈夫、雪鬼、また機会はあるから安心してねぇ」
そう言われたので、猫さんに掠って爪についていた血を眺めて、綺麗なマニュキアみたいだな、と思うのでした。
三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、天狗仮面、前鬼 後鬼 小角様 お借りしております。
【うろ夏の陣・8月9日】天狗、猫夜叉と遭遇するとリンク中。
雪鬼目線になります。
妃羅 さん『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん、斬無斗君お借りしております。
爪で傷付けたようで申し訳ないです。
何か問題がありましたらお知らせください




