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三人称。です。

 






 かさかさ、そんな音を立てながら一組の男女が森を歩く。

 昼下がり、曇り空の為、森の影が濃く、鬱蒼とした森を更に陰鬱にする。


 雨は降らないが、湿気を帯びた風は人を不快にさせた。

 肥沃な森が作る腐葉土はその独特なにおいを発しており、何処からともなく溢れる森林の匂いが二人の鼻腔を漂う。森林浴と言えば聞こえがいいが、本日の気候はストレスがたまるばかりだ。


「清水、あれ、じゃないか?」

 二人は、ぼろぼろになったチョコレート色の小屋の前に立つ。

 男の方がささくれが目立つ扉をノックしてみるが返事はない。取っ手もボロボロで、触ると壊れそうだし、手にささくれが突き刺さりそうで躊躇する。


 彼はノックをした甲が気持ち悪いのか、さすりながら、

「返事ありませんね。さすがにこれは人の住む家じゃなくて、何かの物置でしょう」

「だがこれ以外、建物らしき物はなかったぞ」

「そういえば幽霊がこの辺りには出るそうですよ」

 その瞬間、ィーーーーーーっと引くような音がして、一瞬、身長の低い可愛らしい感じの女性の動きが止まる。その様子を見て男性の方が嬉しそうに、


「風の音ですよ、梅原先生、反応可愛いです」

「ばっ!」

「ほら、もう行きましょう。雨、降らないといいですけれどね」

「でも森の中で何やらが壊れたって、榊さんが聞いたんだろう?」

「それが何か子供の声だったって聞いた途端、確かめに行くって梅原先生も物好きですね。そんな貴女だから愛してます」

「冗談は止めんかっ」

 顔を赤らめながら、梅原先生と呼ばれた小柄過ぎる彼女は、清水と呼んだ男性に一発叩きこむ。

「おうっ……これが幸せの痛みか」

 もう平常に戻った梅原先生はその言葉に耳を貸す事なく、歩く間にジャージに付いた花の種を指で取って落としながら、辺りを見回す。

 僅かに草が寝ていて、誰かが通った跡があるのを追って、ここにたどり着いたのだ。絶対にこの辺に誰かが居る……彼女は鍛錬を重ねた者のみが持つ集中力で、人の気配を探す。



 一方、暫く待っても捜索を諦めそうにない彼女を促すように、

「これだけ探していないのだから、悪戯ですよ。梅原先生、ほら、梅雨が待ってますよ」

 その台詞で、彼女の集中力が途切れる。彼が言ったのは気候の梅雨ではない、飼ったばかりの可愛らしく、普通の子よりも繊細な仔猫『梅雨』。愛くるしいその姿を彼女は思う。

 つゆが明け、ここの所、天気だったが、いつもよりも暗くなるのが早い、久しぶりの曇りの日。まだまだ慣れ切れぬ部屋で心細い想いをしているかもしれない、仔猫に気が傾く。

 彼女はやっと辺りを見回すのをやめたものの、それでも気になってなかなかその場を離れる事が出来ない。正義感の強い女性、そうでなければ誰がこんな森の奥に来るだろうか。



「何だか、朝に梅雨と約束してたでしょう? 帰路も結構あるから、そろそろ帰らないと、待たせてしまうと思いますよ」

「ああ」

 だが狙ったかのような清水の一言で、完全に捜索する気持ちが離れる。

「そうだな、今日は『金のフォーク・とってもマグロ缶』を開けてやる約束をしたのだ」

「あれは食いつきが良いですよね」

「同じマグロ缶でも、うちの梅雨は味や匂いに敏感だからな」

 彼らは飼っている猫の話をしながらその場を離れた。


 彼らがもう少しだけ踏み込んで行けば、隠れるように作られている小さな畑や物干し用の縄など、人間の生活跡に気付いただろう。

 そうすれば引けば簡単に開く扉を触っていたかもしれない。

 だがこんな森の奥に誰かが居るなど、その存在を確認しに来たとはいえ、半信半疑。

 居るとしたら幽霊ぐらいだ、そう思うのは間違いではなかった。


 住んでいる存在をできるだけ消すように配置された、それらに気付く事なく二人は森を後にする。

 高校半ば程度の少女が、その小屋の中で風の音に似たおかしな呼吸をしながら、倒れている事など気付かないのが普通で、誰も彼らを責める事など出来なかった。


 そして倒れている彼女も息をするだけで疲れて、水さえ手に届かずぼんやりとしていた。真っ黒なジャージに赤い絵の具だらけ、白い髪に正気には見えない赤い瞳。可愛らしい顔つきであるのに、目線が虚ろで不気味な作り物のようだった。

 サイズの合わないジャージに押さえつけられるようにした豊かな双丘が、おかしな呼気と僅かに上下する。人の気配がするのに、もう声が出ない。彼らを呼び止める術も無く、それがなんだか可笑しくて、唇だけで薄く笑っていた。





 猫に負けた、ユキなのでした。


 YL様の『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 』より、清水先生と梅原先生、飼い猫の梅雨のお名前お借りしました。

 森に入った理由付けはこちらでしないと言ってましたが、

「ガスや配管修理屋を探す変わった電話があった、子供の声で」という情報を先生二人に榊さんが連絡した(偶然話した?)事にしました。YL様に準じますので、台詞の言い回し等、書き直しあればお知らせください。

 なお、榊さんと先生への連絡方法は電話、直話したなどはこちらでは記しませんでした。


 という事で、三話に引き続き、シュウ様の「『うろな町』発展記録」より、うろな町役場、住民課、榊さんお名前をお借りしました。


 YL様にはある場面を凄く書いてほしくて、無茶なお願いしてすみません。本当に来て欲しいなと思っていたので。うちのユキをお願いいたします。


また、前に聞いていた商店街は『西うろな駅』周辺にあるそうです。おじぃ様、情報ありがとうございます。


 

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