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夜が更けたので、日付変更。話は続行。


 



 俺はうっすらと意識を起こした状態で仮眠を取った。何かが彼女を狙っているかもしれない、患者と言う彼女の立場を利用して、抵抗させずに打ち込まれた薬剤。

 あんな手合いが来ないように、側に居る限りは守ろうと思う。

 彼女はずっと部屋でゴソゴソしていた。電気が消えても。やましい気持ちはなかった、と言えば嘘かもしれないが、一度部屋の中を覗くと電気の消えた筈の部屋が仄かに明るかった。


「うぁ……」


 彼女の部屋には無数の蛍が舞っていた。ふわりふわり、彼女の白い髪にも服にもそっと止まって輝いている。その光の下で筆を走らせる白髪の少女はとても幻想的だった。

 驚かさないように、いや驚かされたのは俺か。

 とにかく自分が寝ていた位置に戻ると、蛍が一匹、俺に何かを聞くようにこちらの部屋に入ってきた。いや、見張られているのかもしれない。

「なぁ、ユキさんは何者なんだ?」

 蛍は俺の声を聴いているのだろうか? 明け方近くまでそこにあってホンノリ部屋を照らし続けた。



 夜中、彼女の気配を感じながら。完全に意識を回復させたらもう薄明かった。



 隣で、かたっっと音がする。

「ユキさん起きてるの」

「うん? 寝てないかなぁ」

「だめだよ、少しは寝ないと。薬も飲んでないし、病気上がりで体は疲れてるんだから」

 隣の部屋に行くと蛍は影も無く、数枚の絵をユキさんは描いていた。

 絵を描く画面を立てかける、確かイーゼルと言う木枠に一匹カマキリがキリリとポーズを構えていた。まるで姫を守る騎士と言った感じだ。

 そうか、彼女はこの森に守られているのかもしれない、漠然とそう思った。


 カマキリを見ているのに気付いた彼女は、

「賀川さん、蝶苦手みたいだったから彼に来てもらったの」

「嫌いじゃないけど、あれだけ居たらびっくりする」

「そう?」

 俺はもう一度彼女が彼と言ったモノを見る、「カマキリ、蝶食べるからな」と思いながら。彼は体を前後に揺らし、俺を威嚇しているようだった。



 そうしているうちに、彼女は筆を置いた。

「これがね、昨日描きたくてここに戻ってきたの」

 見ると藤の絵だった。

 描かれているのは紫の藤、だのに雪のように白い藤の花が天から降りそそぐ。

 それは静かにハラハラと。

 そこにきらきら星が輝いている。少しさみしい感じの色調だ。だが、朝の光を待つようなどこか不思議な雰囲気がある。





挿絵(By みてみん)





「昨日、チケット貰ったら名前があって。それくれた人と書いてあった名前のイメージなの」

「チケット?」

「うん」

 彼女はしゃかしゃかとスプレー缶を振る。そうし出した途端、カマキリが慌てて逃げ出す。もしかしたら殺虫剤とでも思ったのかもしれない。その姿に俺が笑うと、一瞬だけ威嚇のポーズをして、さっきの場所から距離を取って、また威嚇ポーズ。

「威嚇するなら、逃げてからにすればいいのに」

 ただ、ユキさんが手にした缶にはそう言うのにありがちな害虫類の姿は描かれておらず、白黒で少女が描かれている。たぶん何かの画材なのだろうと俺は思う。

 ユキさんはカマキリの慌てふためきに気付いていない様だった。赤い瞳をクルリとさせて俺を見ながら、

「これアクリル・カトリーヌって言う絵具だけど。よく見てて、あのね」

 さあっと彼女がスプレーを画面にふりかけると、一瞬にして色が変わった。

「うわっ……」

 一気に朝の光が射したように、鮮やかに変化する絵。





挿絵(By みてみん)





「面白いでしょ?」

 確かに目を見張る変化だった。朝の訪れにも似た爽やかな空気が画面から溢れ、満ちる。祝福を告げる純白のフラワーシャワーがゆっくりと辺りに降り積もっているのだろうと思わせた。

 花を雪のように降らせるのは、誰の誰に対する思いかはわからない。だがそれは透明で純粋に「幸せ」を望む気持ちであり、誰かに分け与えられるべき「幸せ」であり、誰もが降り注がれるべき「幸せ」を表現していた。

 


 俺は隣にも昨日までなかった絵が置いてあるのに気付き、

「これもそれかけたら色が変わる?」

「ううん、もう定着させたから」

「きつね?」

「うん、こっちも昨日会った人のイメージだけどね、もうちょっと狐らしくするか迷ってるの」





挿絵(By みてみん)





 黒と白、狐が二匹、仲良さそうに同じ方向に歩んでいる。

「でも何で狐なの? 名前が狐って言う人だった?」

「まさか! うーん、二人でジャレてる感じが狐っぽかったから。猫でも良いかなって思ったけど、違うんだよね、でも犬じゃなくて狐だーって思ったんだもの」

 俺はその回りに描かれた薄い紅がかかった白い花を見て、

「じゃ、この花は? 桜?」

「ううん、梨の花です」

「桜みたいだ」

「見た目は似てるけど、桜と違って、匂いがするんです」

「へぇ、見た事ないな」

「じゃあ、来年咲いたら教えます。えっと、梅、桃、桜、その少し後が梨です」



 そう言ってふんわり笑うユキさんを見ながら、来年のその頃までも、彼女がこうしてうろなの森で穏やかに居られる事を祈った。



上、真ん中。

藤の絵。(藤、雪、星)


綺羅ケンイチ様 『うろなの雪の里』より、『とうどう整体院』の藤堂さん、名前を星野さん、イメージです。

こんなの違うっ! って場合はお知らせください。



狐の絵(仲良く歩いている二人を見て)


寺町 朱穂 様 『人間どもに不幸を!』より稲荷山君と芦屋梨桜ちゃん、イメージお借りいたしました。


こんなの違うっ! って場合はお知らせください。


イラストはイメージです。

ユキの絵はもっと数万倍上手いと考えて見て下さい。 

またこの絵を、イメージされた本人が見る機会があるか今のところ不明です。それも自分達のイメージで描かれたと思うかは別の話です。


ユキが口を滑らせない方が良い方はご一報を。


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