デート?中です(海さんと子馬)
llllllll
行こっ! (強制)
llllllll
「今日はデートしてね」
海さんの返事なんかは待たない。隙を見て右手を掴んで、ぐんぐんとバス停まで走る。
彼女の足はしなやかで、こないだと同じで……そしてそれを上回ってとても早い。今まで出会った女の子の中では飛びぬけていて。それが何故か嬉しい。
それでも俺の人並み外れた脚力だと、足がもつれてしまうだろうから。気を使いながら歩を重ねる。
跳ねた黒髪が愛おしいと思うと共にこうやってずっと一緒に走って居られたらと思う。
「はなせぇ~子馬ぁ~お前は何でそう強引なんだよ!」
でもこれ、端から見るとズルズルって引きずってる感じなのかもしれない。
「今、離すとこけるよ? で、嫌? 海さんはデートが嫌?」
「はあ? 嫌とかじゃなくって、強引すぎんだって」
「人生、歩んできてさ。やらないよりやった後悔の方が良いって学んだんだ。どうせ玉砕するなら、出来る事を君としたい」
「どうせ玉砕する? 人生やってやれねぇ事はない!」
「そうか。じゃあ……今日のデートはOKでいいね」
「なっ」
丁度来たバスに乗り込む。俺が乗ったせいかちょっと軋んでいるけど、気にせず海さんを引き込んだ。
「なに? どこに行こうっての?」
人が少なかったので一人席に海さんを座らせる。間違いなく俺が座ったら椅子は大破だ。だからパイプに緩く掴まる。本気で吊革や手すりを持ったらこれも大破させるから。
ムッとしながらも座ってくれている海さん。バスが走りだしたから逃げ場がないだけだろうけど、本気で嫌なら走ってるバスの窓からでも彼女は飛び降りるはず。と、しないと、言う事はOKと取って良いのだろう。
「コーヒーの店があったんだ。それに小さいチョコがさりげなく付いてるんだけど、それがまた美味しくて」
「チョコ?」
「嫌い?」
「コーヒーの店行くのに?」
「美味しかったよコーヒーも。ジョッキでほしいけどね。美味しいと感じた物は好きな人に食べさせたいと思うんだ? ダメかな」
「ダメかなって! もうバスに乗せてるだろっ。って、…………好きな人と?」
「ダメかな?」
「ふぅん? ま、あたしもお前は好きだけど、友達として、だなぁ〜」
友達として……
ちょっと寂しい気がするけど。
でも……俺、今まで友達としてでも、一緒にコーヒー飲むまで辿りつける相手いなかったし。大抵怖がられて逃げられる。一族の女性は、男と違って見た目綺麗だけど……おっかないから。
「海さん、逃げないでくれるから。うん……それだけでとりあえず良いよ! まず友達になってくれるって事だよね! ありがとう」
「お前! いい意味でも悪い意味でも前向きだなあっ。それより手ぇー離せぇーー」
ぶんぶんと手を取って握手したら、そう言われて。解くと暫く窓の外を向かれた。
き、嫌われたかなと思ったけど、その後にバスを降りたらもう明るい海さんで。俺は嬉しくなりながら喫茶店クラージュで海さんと無事コーヒーが飲めたのだった。
ここにはこないだ、賀川と来たんだ。俺が告げた言葉に暗くなってた……なんて、今はどうでもいいかなぁ。今は目の前に海さんがいるから。
ちなみにチョコは外国産の高級品で、海さんがそれを言い当てた事にマスターが驚いていた。どうやら数量と季節限定品で、なかなか口に出来ないらしい。その後、海さんとマスターと暫し繰り広げた料理談義は何だか難しかったけれど。いろんな所で料理に対し研鑽を重ねている彼女を垣間見た気がして、尚更に眩しく感じた。
「今度、美術館に行こうか?」
「またとーとつだねぇ〜? 何でさ?」
「確か今、県美で、世界中の食器と花の展示をやっているんだ。皿は料理を生かしも殺しもするから、勉強になるかもと思って。また、花はテーブルに欠かせないから。どう?」
「うーん。考えとく。日が合ったらな〜」
マスターが特別に入れてくれた特製のホットチョコを口にしながら、湯気の向こうで黒髪の少し跳ねた可愛らしい人が、幸せそうに笑っていた。
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
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海さん。
お借りしてます。問題あればお知らせください。
GW中、更新は未定です。




