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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月28日

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202/531

治療中です(悠久の流れに)

llllllllllllllll

昔語りを致しましょう。

llllllllllllllll

 










 その日、仕事を終えた俺は北うろなにあるあるビルの地下に居た。殆ど開いている事もなく、更に完全予約制と言うふざけた病院がここ『八雲医院』だ。まあ、主治医である八雲先生が殆ど日本にいなかったのだから仕方もないのだが。

「んーあの時は、どこだったさねぇ?」

 そんな出だしでクラウド女医、いや、八雲先生が昔話を始めた。



 その時、先生はある村で小さな病院を開いていたと言う。戦場が近く、いつも銃声が響いていたが、ただ地形的に戦に巻き込まれる事は少ない場所だろうと思っていた。

「ま、そう言う所では、そう思っていないと暮らせないモノだけれどもさ。まあ、そんな事私が言わずとも、トキが一番知ってる事だったさね」

 話を聞くと、情景が見えてくる。

 ここに戦士が転がり込むのはまれ。巻き添え食った者や風邪やらが主で、一般市民が普通に来る村の小さな病院。

 それでも高い空には時折不穏な銃声や煙がたなびく。だが村には人が逞しく生きている。潰されても焼かれても、そこしか帰って来る所がないのだから。汚い小屋や不衛生な環境、地雷で足や腕、命までもいつ持って行かれるかわからないような環境で、村に医者が居てくれるのは有難い事だっただろう。

「せっかく収穫を迎えた頃だったのにさ、虚しい物だね、私が戦を呼んでしまったさ」

 そう、医療物資、戦に置いてそれらは貴重品である。そしてそれを扱う医者も。

「みんなには、私を差し出して逃げる様に言ったんだわさ。でもねぇ……この村に医者も薬もなくなれば、生きてはいけないのが明らかだったし、既に畑も焼かれ、始めるにしても一からだった。厳しい冬が越せるかもわからない、だから村長初め、皆が逆に私に逃げる様に言ってくれたさね。あっちに行ったら何をされるかわからない、医者でも手籠めにされる事があるってさ。でも、さ。逃げれないさ、何年か、縁あって、ここで過ごしたんだから村は皆家族みたいなもんだよ? どうしたらいいかわからなくてね。涙が出たさ」

「それで、八雲先生は?」

 かちゃかちゃと薬の瓶を揺らしながら、俺の足を固定していたテープを外し、そして何故かいろんな衝撃を和らげてくれる布を取って、丁寧に横に置いた。堅い診療用のベットに足を伸ばしていたが、触られる度に痛みが走る。

「ふん、筋肉は正常に動いてるみたいだわさ。ただ熱が高いね。フラフラするだろうに。平気なのかい、呆れたね。汗を上手く出せなくなっているのだわさ、一本調節しておくかね」

「っ……そこは……」

「大丈夫、これで昨日よりはいいさ」

 そう言いながら、患部を診たり注射をしたりしながら、昔話を再開する。

「病院に残っている者を、最後に一度診療をしてから……投降すると知らせて攻撃は止んださ。私が今更一度診たからって治るわけじゃない者ばかり。だけど私がココに残れば村人は守ってくれるだろうが、みな殺しにあいそうな雰囲気で。医者わたしも薬も奪われた村人に生き残る可能性は低くなるさ。病人なら更に。それでも少しでもと診て、何とか生き延びてくれて欲しかったさ。遠いけれど診てくれそうな街を紹介して私は、そこを襲ったやつらに投降したさ『病人、村にこれ以上は手を出すな』という条件でさ」

 だが、村も、診療所も、再び火に包まれたと言う。淡々と語っているが、細かな怒りや悲しみが空気を振るわせる。

『どういう事さね? 約束が違うさ!』

『駆除だよ、駆除。それにココは不衛生だ、疫病の元になる前に……』

『クズが…………』

 隠していたメスを八雲先生は抜いた。

「でもさ……ね、トキ。商売道具で人を傷つけるのは、気が進まなくてね。私が送られる先にも患者はいる。家族を持った、大切な人が居るから、私を、医者を、薬を、奪い合うのがわかっていたから悲しくてさ。自分を……」

「八雲先生……」

「その覚悟をした時、彼が現れたんだよ」

 八雲先生の前に現れたのは、一人の……

「爺さんだったんだよ。何ともおかしな感じだった。綺麗な身なり、焦げ臭い村の中に立つには似つかわしくない恰好でね。そこだけ現実感がなかったよ」

 彼は旅行のつもりが、間違ってその紛争地域に入り込んだという。英国紳士を絵に描いたような服装をした、ちょっと歳の行ったナイスミドル。

「昨日まで燃えていないと聞いて来たと言うけどさね、子供達の慰問でもするつもりだったのかねぇ?」

 八雲さんを連れて行こうとした者達に、その人はやんわりと『止めなさい』と言ったけれど、聞く事はあり得ない。八雲さんは『爺さん、逃げろ』と叫んだけれど、時すでに遅しだった。

「それがねぇ」

 今考えても信じられないと言いながら、

「そこに居た手勢をばったり倒してしまったんさよ。その頃はね、私も若かったからねぇ。彼に『お嬢さん』なんて言われて嬉しかったけれど。笑えなかったね……その時、巻き込まれてさねぇ、流れ弾が足を……ねぇ」

 駆けつけてくれた村の者が急遽、露凌ぎに立てたテントに運んでくれたという。

 流れ弾で足の動脈をやっていて。弾を取り、動脈を縫い合わせる、医者は自分だけだから。自分で自分の手術をやる羽目になったのだと、笑う。

 いや、笑う所じゃない気がするが、『悪いけれど貴重な麻酔をその部分にかけたから問題はなかったよ。ああ、やりにくかったけれどね』なんて普通じゃないなと思う。流石タカさんの仲間とか思ってしまった。

「足を引きながら、出血多量で、熱もあっておかしい体で、傷病者の中を駆けずっているとねぇ、その場違いな爺さんが言うんだよ」



『お嬢さん、貴女はココの人間たちを救うおつもりですか?』

『救えるかはわからないさ。けれど、全力で手を尽くしたいさ』

『……わかりました。では、ちょっとだけ、魔法をかけてあげましょう』

 そんなファンタジーな言葉で、八雲さんの熱が、痛みが消えたと言う。

『こんなに簡単なら、医者が要らないさ』

 そう八雲先生が言うと、

『私は偽善者ではない。全てを治していたら大変なことになるでしょう。だけど、ここで貴女が治り、皆に手を尽くすのならと……少し魔法を分けたまでですよ。ただ、この村に必要なのは奇跡わたしじゃない、医者あなたです』

 丁寧に、しかし力強く言われた言葉に八雲先生は体だけではなく、心まで支えられて地元民の治療に向かったと言う。



「気功の類らしく、体内細胞を活性化させ、ケガや損傷の自発的回復を早めるみたいだわさ。その爺さんは村の子達と少し遊んでから、すぐに帰っちまってさ。その村の辺りは二年ほどで戦争が終わって平和になってからお礼に行って。それからはこちらも忙しかったから、会う事も少なくて。たまにハガキを送るだけの仲だったけれどもさ。彼がうろなに居たなんて」

 昨日、この診療所から裾野に行き、葉子さんを車に乗せて。商店街にユキさんの破けた服の替えを買いに行ったのだ。その時、偶然見かけた人。この町に八月頃開店した古本屋の店主がその『爺さん』だったと言う。

 その古本屋なら、たぶん何度かモノを届けている気がする。品のいい老紳士が店に居て、バイトの子が受け取ってくれたけれど。貴重本と書かれた包みは絶対にバイトには触らせない几帳面な人だ。だから必ずそれらはしっかり彼に手渡すようにしている。

『ありがとう、一番賀川君、でいいのだよね?』

『はい、ありがとうございます。こちらにサインを』

 この程度に軽い挨拶は交わしたはずだ、確か今日も。

 ただ八雲さんが『お嬢さん』と呼ばれるような年……見た目年齢不詳の女性だが、流石にそう言われるとすれば数十年以上前。その当時ナイスミドルだったという紳士。古本屋の店主は『今』がそう言われる程度の年齢に見えるのだ。

 だから俺が首を傾げた時、その当本人が現れた。そこに居たのはやはり俺が思っていた古本屋の店主だった。



llllllllllllllll


悠久の欠片(蓮城様)


http://ncode.syosetu.com/n0784by/


古本屋のご主人=ナイスミドルな謎紳士。


お借りいたしました。

何か問題があればお知らせください。



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