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脱走中です

賀川ーーどこへ行くよ?


 






 スウスウ……気持ちよさそうに、ユキさんが寝ている。

 俺は車を走らせた。愛用の白い軽、いつも配送トラックだから狭くも感じるが、小回りが利くのは良い。暫く走ると綺麗な海岸線が見えてきた。

 もし警察に見つかったら俺、人攫いと勘違いされるだろう。何せユキさん、シーツに包んで浴衣の帯で縛り上げ、後ろの座席に転がしているのだから。一応、体は毛布で隠しているけど。

 病院?

 非常口を使って、こっそり出てきた。でも昼になれば昼食を運んできた職員の目にあの惨状が見つかるだろう。早ければもう見つかっているかもしれない。

 人目をはばかる様に海の前にある駐車場に停める。まだ海水浴シーズンには早いが、サーファーや海の家がチラホラ見えた。



 俺はシートを倒して、ユキさんの頬に触れてみる。彼女は毛布が暑そうだったし、自分自身がとても暑かったからクーラーをガンガン入れている。それでも冷え切らない体だったが、彼女の顔を見ていると自分の顔が緩むのがわかった。

「かわいい……」

 綺麗な髪が床に付きかけていたのをサラサラと席に戻す。簀巻き状態だからか、毛布があっても体の線が余計に際立って見える。森の家で見えかけた豊かな双丘を思い出して赤面した。

「な、何考えているんだ、俺」

 学校行ってないけど、彼女は高校二年、十六歳。社会人ならともかく、この設定は犯罪に等しいだろう…………………………

 でも、かわいいさ、可愛すぎるさ、…………………………嫁にしたいさ。

 十近く年が離れているんだ。その前に俺が人を好きになっていいのか? 理屈抜きで魅かれてしまった事を恨まずにはいられなかった。

「いや、理屈なら、あるけど、それなら俺は最低だ」



 俺は頭を抱える。脳裏で、

『I would like to meet a mama.

 I wanted to meet a mommy…………………………』

 自分も呟いた事のある言葉を反復していた。俺は母に会えたが、結局、時間の壁が絆を別った。

 そして会わせてあげられなかった少女の吐息が俺を苛む。生きていれば時間も経っていなかったからきっと旨くいっていたはず。

 そしてユキさんも母を待っている。重ならないと言えば嘘になる。ユキさんを母に会わせてあげられれば、会わせてあげられなかった少女への償いとなる、そんな思いがあるのではないか。



「最低だ。そんなの自己満足だ。でも、俺…………それだけじゃなく……あんなの見たら放っておけない…………」



 俺はシートを起こすと、携帯を手にして、タカさんに連絡を取った。





 その電話を取ったタカさんの声は絶対零度を軽ーーーーく下回っていた。

「おう、賀川の。海に沈みたいか? それとも屋上から突き落とされたいか? 選べ」

「ど、どっちも死ねますから」

「死ねって言ってんだよ。お前、嬢ちゃんをどこに連れて行った?」

「海に…………………………」

「…………………………そうか、海に沈みたいのか?」

「ち、違いますよ。海に、彼女がどうしても行きたいって言ったので、抜け出して連れて来てます。ごめんなさい」

 確かに彼女は行きたがっていたし、本当に来ているから嘘ではない。

「…………………………じゃあ、お前が来た時には何もなかったんだな?」

 俺はサイドに入れていたカラのアンプルと注射器を取り出す。床頭台にあったビニールに入れているので、俺の指紋は付いてない。彼女を「あんな状態」にした原因だと思う。走って出て行った看護師を掴まえるより、彼女を優先したが。

 後々を考えればどちらが良かったかわからない。ただ「ああ」なる事を予測していなかった様だったし、ただの鉄砲玉だろう。首謀者までたどり着く事はないだろう。

「何も? …………………………何もないってどういう事ですか? 何かあったんですか?」

 これは若干嘘だ、今、彼女の部屋がどうなっているか知っている。問い詰められたらと思ったが、タカさんは別の質問をかけてくる。

「海ってうろな港か?」

「いえ、ビーチです」

「び? 浜か。嬢ちゃんは今どうしてる?」

「寝てますよ。そんな距離はないですけど、車に疲れたのかも。起こしますか?」

「わかった。後から連絡する。病院には戻るな」

 電話が切れる。

 信じてはいないかもしれないが、とりあえず顔も見ずには話せなかった。タカさんが関係あるなんて思ってはない。でも盗聴の危険はある。だから本当は居場所も言いたくはなかったが、余り隠すとあやしまれるのは自分。それは嫌と言うほど経験済みだ。



「おはようございまぁす、って、アレ?」

 後ろで寝ていた彼女があふあふしながら目を開けた。でも手足が縛ってあることに気付いた途端、きょとん、とした。

「何のぷれいですか? 賀川さん、ヘンタイ?」

「だ、断じて違うから」

 やっと帽子被らずに賀川と呼んでもらえたが、素直に喜べない。

 とりあえず「普通」のユキさんになってる。この状態に気付いて、泣き喚かれなくてよかったとしか言えない。



「これ、どうするの?」

「余計締まるから、動かないで」

 堅く結んだ紐をポケットに入れた小さなナイフを使って切る事にした。この結びはそこいらのやり方じゃ外れない。もがけば締まる。切った方が早いのだ。

「ユキさん、お願いだから。信じて、動かないで」

 肌を傷つけないように慎重に差し込み、切る。確かにこの感じは何か……

「…………………………やっぱりヘンタイ?」

「違うからっ!」

 じっとりとユキさんの赤い瞳に睨まれつつ、彼女の体を解放して行った。





良い子は小さくても刃物を持たないようにしましょう。


ユキがどうなっていたかは数話中に書きます。

誤字修正しました。

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