注射中です
徘徊してます。
さっき病院を歩いていると可愛い女の子とぶつかりかけました。
「ご、ごめんなさい。萌、気付かなくて……」
うんと、私の方が壁にかかった絵を見てたから悪いんだけどもね。そう言って謝ろうとしたんですけど、
「おねえさん、この髪の毛、どうしたの?」
私の真っ白な髪。
染めたモノとは違ったそれに、何か悪い病気にでもかかっているのではないかと思ったのでしょう。それも心配げにしてくれます。
彼女、元気そうにしていますが、彼女から流れ出る色は儚くて、桜の散り際に芽生える葉のように淡い黄緑。色付ききれないままに眩しい光にとける色でした。
でも何度も何度も融けても彼女はその淡い色を何度も紡ぐ、強さがあるのに安心しました。
「私こそごめんなさいね、私は大丈夫なの、生まれた時からこんな色だったそう」
「生まれつき?」
「そう、だから大丈夫。優しいのね、心配してくれてありがとう」
「初めて見た、うさぎさんみたい! 素敵」
私の肌も白いけれど、それとは違った白だったから、早くバラ色の様な微笑と色を湛えるといいのにと思いました。母や司先生がしてくれたようにそっと髪を撫でて、
「ありがとう。お互い、早く元気になるといいね」
そしてじゃあねと言って別れます。
「可愛い子だったなー」
綺麗な瞳で見上げてくれて、初めて会った人にも優しくできる素直ないい子。気味悪かっただろうに、そんな事全然出さないし。
もし妹がいたらこんな感じだったかなと思いました。実際は妹どころか、母も居なくなり、父なんか見た事もないのですけれど。
そう思いながらナースステーション前を通ります。
「宵乃宮さん、点滴外れたからって、余り歩き回らないでね」
「はーい」
良い返事、しておく。
また後からぐるぐる歩くんだーっ、そう思いながら病室に入ります。ベッドに籠ってパソコンを叩きました。幾つかイラストを送って、下絵を取り寄せます。
あれ?
扉がノックされました。
一週間、ココに居るので、だいたい足音や叩き方で誰かわかるのですが。その時、誰かがわからなかったので、少し不思議に思いながら返事をすると入ってきたのは見た事のないナースさんでした。
「あれ? 知らない看護婦さん?」
「はじめまして……いつもは別病棟で、今日は応援に来てるんです。横になって下さいね」
そう言いながら注射器を用意するのでした。
点滴が二時間前に外れたのに、もう注射?
まだ病気なんだなー……などと、思います。
そうそう、パソコンは賀川さんがデータを取って来てくれて。二十日の朝、使わないからと仕事前に自分のをわざわざ持って来て。貸してくれたので、暇は潰れるようになりました。
「きっともうすぐ退院できるからそんな顔しないで」
私が不満そうなのを読み取ったのか、そう言ってくれました。
「痛いのは初めだけだから」
アンプルから注射針に吸い込まれる無色の液体。アルコールの匂い、横になった私の右腕の関節部分に綿花を当てます。
ぷつっっと針が刺さり、液体が体に入り込んだ途端、酷い痛みがしました。どっと脂汗が滲みます。体を捩って逃げようとしましたが、
「痛いのは初めだけって言ったでしょ!」
強い語調に驚いているうちに、見る間に液体が半分ほど体に入り、確かに痛みが飛びました。
でもね、でもね。
頭が急に絞め付けられたかのように重いのです。息が出来ないのです。まるで一週間前の再現のように。死が近いのを感じました。
何の色も感じなかった彼女から何かが滲みます。
「かんごふさん?」
「大丈夫、すぐ退院できるわ」
全てが私の中に納まった時、彼女の体は真っ黒に染まって見えました。
「退院もうすぐよ、遺体になって……だけれども」
えーっと、意味が解りません。
今日は清水先生と司先生が、日曜のケイドロ大会のお土産話を持って来てくれるのですよ? 賀川さんもお休み取れたからって午前中に来てくれるし、久しぶりにうろな工務店のオジサマも来るそうです。とても大切な話があるとかで、お友達も来るそうです。
そして退院したら絵を描くのです。
でも児童相談所に放り込まれたら、どうしようかな? きっと自由には出来ないよね。
それにしても、眠いのです。
考えるのが億劫で、重くて辛くて。だから私は眠る事にしました。
寝るのか! いいのか、相変わらず緩いよユキ。
YL様宅、萌ちゃんをお借りしました。お名前清水先生、梅原先生も。
問題があれば書き変えますのでよろしくお願いいたします。