改竄中です
良い子は真似しちゃいけません。
タカは、ムズカシイのが苦手です。
オレは手にした資料を穴が開くほど見つめていた。いや、見たってな、わかるわけじゃない。でもよ、記憶しないとならねえみたいだし。しゃーない。
目の前で土瓶眼鏡をかけた中肉中背、髪が明らかに河童っぽい男が唸りながら、資料をまとめていく。
「かなり捻じ曲げるが、この線でいく。養女を取る形になるから、遡って彼女が生きていた時に縁組したとして……これを刀流君の実子とする。証明は宮崎院長が極秘に遡ってくれたし、これで問題なかろう。ただし一応、ココに書いてある講習会に行ってくれ、バッタが無理言って開催してもらったんだ」
「わかった」
眼鏡越しにデカく見える目で、魚のように俺を睨む。
魚沼 鉄太、「うおぬま てった」、俺達の仲間内では「ぎょぎょ」。うろな商店街の一角、この小さな事務所で『魚沼弁護士事務所』を細々とやっている。
こいつの職業は弁護士だが、今、目の前でやっつけているのは公文書偽造、そして過去への捻じ込みなど各種の立派な犯罪。だが別に気にした様子も無く、いろんな所に電話をかけつつ、さらさらと事を進める。
ワルだな、自分が頼んだのを置いてそう思う。
普段は小さな民事をやっていて目立つ仕事はしない。ただ裏で医療裁判やらに手を貸したり、冤罪事件に首を突っ込んだりと、コンサルタントと称していろいろやっている。たまに腕力や頭数が必要な時には、オレも密かに加担もしたりする。
「だが、彼女が頷くか? それだけが心配だ。彼女にもいろいろ嘘を通すのか?」
ぎょぎょが出来を確かめつつ、そう聞いた。
「嘘で塗り固めても仕方ねぇや、彼女には俺がわかる限りで全てを話そうと思う」
「お前じゃなくて、例の先生に説得して貰えばいいのに、バッタが使える人材は使えと言っていたぞ」
「俺は刀流を失ったが、彼女の為に、また人の子の親になるのなら、自分の言葉で喋らないでどうする?」
そう言った途端、資料に目を走らせていた「ぎょぎょ」が顔を上げ、殊更目を大きくして、
「おい「投げ槍」のくせに立派な事を言うな。まあ、法的説明は俺がしよう」
オレが笑って礼を言うと、外から大柄で不遜を絵にかいたような、人相の悪い男がやってくる。
「おお、バッタ。久しぶりだな。わざわざ済まんな。今から講習会行ってくる」
「そうか、まあ形だけはきちっとして来い。それから暇してたから、暫く不動産の仕事をやるかと思ってうろなに戻ってきた。何かあれば声かけろ」
この事務所の下には『うろ南不動産』がある。この建物の所有は「バッタ」と呼んでいる抜田 一、「ヌキタ ハジメ」だ。
政治家の家系に生まれ、投票の時に『書き易い名前』を付けられたほど、生まれた瞬間にもう期待された男。こんな顔をしていて選挙や人前では笑顔振りまきやがるんだ。代議士を確か三期ぐらい務めたが、「面倒になった」と辞めてからはフラフラしてやがる。不動産だけで働かずとも喰っていけるらしい。奥さんと子供は海外で生活しているという。
生前、バッタは刀流と仲が良かった。余りの懐き様に「アイツの子供じゃないか」と、嫁に言ったら「刀流に政治家は無理よ」と笑った。答えになってやしない。
バッタはソファーに腰掛けながら、
「カトリーヌが覗きに来るって言っていたぞ」
「あいつが? なんでまた?」
「お前の引き取る娘さん、前々から知っていたらしいぞ。アレでな」
そう言いながら、空中に何かを描く手つきをして、
「相当、目立っていたらしい。」
「ふん、不思議な世界だな。「しょうのみや」については、何かわかったか?」
「わかるわけないだろう? あの事件の時も掴ませなかった尻尾、そう簡単に出すわけがない」
「だな。じゃ、オレは行ってくる」
二人の男に見送られながら、俺は部屋を後にする。ある講習会に今週は四日使う。若い衆かき集めて仕事には当たらせるが、夜は戻って彼女を迎える準備もせねばなるまい。
「こらあ、嬢ちゃんの見舞いにゃ行けねえな」
賀川のが「ユキさんの病室の窓が壊れているから、直せないか」という電話があった時に、その旨を伝えておいた。奴は毎日、仕事あがりに尋ねるらしい。
ありゃ、完璧に持って行かれたな。
それはさておき、本当なら窓の修理は病院側が頼むもんだが、賀川は出来ればタカさん所でやれないかという。夜だからと注釈つきだったが。
すぐに若いのを行かせたが、どうも壊れたと言うより壊されていたと、具合を見たやつから報告を受けた。
…………賀川、ただ若くて元気と愛想のいい兄ちゃんと思っていたが、意外と何か感付いているのかもしれん。守るに当たって鈍い奴より、使える奴の方が良いって事だ。
事務所を出る。そして商店街を抜ける。
そっピングモールに客が流れてはいるが、今日日の商店街にしてはそれなりに賑わっている方だろう。オレの工務店もこの商店街の中だ。
「あれ、タカさん、どこいくの?」
どっかの女将さんから声がかかる。
「野暮用で四日仕事をサボるんだ、若いのが何かやらかしたら、知らせてくれや」
「あいよ、でも珍しいね」
「おう、いってくら」
朝から開店準備に追われる店の姿があるのを横目に、オレは地下鉄に向かった。
オレが出て行った後に、事務所に半袖カッターシャツにノーネクタイ、グレーのズボンを穿いた男が入って行く。
「ん? ぎょぎょ、客だぞ」
「ああ? 君はそこの店の従業員だよな。何か相談かな? 今日は午後から相談を受け付けるからその頃に……」
「篠生 誠です」
人のよさそうな青年は、細い目で二人のオヤジを見ながらにっこりと笑った。
そういえば、出て来るのが男性ばかり。
どなたか商店街の誰かに声かけさせたかったけど、決めきれなかったです。
名乗り出て下されば「どこかの女将」が出てきたシーンを改変して収めます。
どなたかタカと知り合いになってくれる方いませんか~