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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
6月18日

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態度悪……

 






「玲様」

「うるさい、黙れ、篠生しのぶ

 病院を後にすると闇に紛れるように話しかけて来た男に悪態をつく。

 折角、ユキさんを抱きしめた時の柔らかさに感動していたのに。

 手にした水玉帽子を落とさないようにズボンに押し込む。会社の制服、これがないと身の証明が立たないって言うのもここまで来ると笑える。それは自分がこの街に溶け込んでる証明だ。



 俺は一度、病院を振り返る。五階の窓、暗くても俺にはどの窓にユキさんが寝ているのがわかる。窓が開いていないのを確認しホッとする。

 日本人的な顔立ち、なのに白い髪、赤い目。雪ウサギのような容姿。

 黒髪にコンタクトをしていた時、気味が悪かったのは変装をしていたからだ。日本で黒髪は一般的。それをわざわざ日常で変装してるなど考えもしなかったから、疑いもしなかったが。



 タカさんに頼まれ、訪れた森の家を思い出す。

 人が住むとは思えないボロの小屋で、一人血塗れに見えるその姿でぐったり倒れているのを見た途端、その白さに死を連想し、汚れるのもかまわず抱きかかえた。

 後から計算すると三日、倒れていたらしい。



 俺を襲うのは普通に、平穏に、生きるのだと決めた日から、全く忘れた死の恐怖。いや、忘れようとした感覚。手の中の命が滑り落ちていくのを感じた。



 彼女に何度も呼びかける間、花以外、何も入ってない棺桶が久しぶりにチラついた。

 と、その時、彼女に『喉、乾いた』と言われて。

 彼女が生きているのを感じたらたまらなくなり、願いをかなえる為に水を与えようとする。だが途切れた意識、呼吸が浅い体。命を繋ぎとめる為に口にしていた木の実や花びらで、赤くなった口唇に俺は水を与える為に深く口付をする。

「飲んでくれ」

 本当ならすべきことがあるのだろうが、構ってはいず、喉が渇いたと言う彼女のソレを取り除いてやりたくて唇を重ねる。彼女がその水を飲んだのを感じた時に、血の色が透けた瞳に自分が映った。



 久しぶりに自分を見た気がした。情けない、三年前と変わらず何もできない自分を。



 タカさんが呼んでくれた先生には感謝以外何もない。できるなら、俺にもああやって人を生かす術があるのなら良いのに。

 だがそんな事を羨んでも仕方がない、俺は人を殺した、助けられなかった命から逃げてここにいる。







「話を聞いて下さい、玲様」

 今も逃げていると実感させる、篠生の言葉が小うるさい……

 篠生 誠、シノブ マコト、童顔に目の細い猫顔。優しそうなお兄さんを装った男は、クールビズを意識した半袖カッターシャツにノーネクタイ、黒ズボンを穿いた一般的なサラリーマンっぽい姿だった。

「恨み言は聞きたくない」

 俺は篠生に対し、不機嫌そうにしてみせた。

 こいつとの付き合いはそれなりに前。それまでは知らないが、一年程前から、うろなに住みついた。そしてその頃から週一ぐらいに来ては話を聞けとやってくる。だが、聞きたくなかった。

 だが、だからと言ってわざわざ築いた平穏、日常、平和な世界を、こいつから逃げる為に手放すのも癪で、俺は逆に意地になってココにしがみ付いているような所があった。

「皆さん待ってますよ」

「待っているわけないだろう? それにもう体力も落ちて、こないだなんか少しハイペースで森の中を歩いただけで息を切らせたよ。そう言えばタカさん、一体どんな体力してんだろうな」

「うろな工務店の二代目、前田 鷹槍。……ですね? あの方、相当腕が立つようですよ」

 纏う雰囲気だけでそれ相応とは思ったので、特別何の面白みもない情報だった。

「調べたのか?」

「ええ、貴方とこれから関わりそうだったので。面白い方でした、色々と」

「さすが情報屋と褒めようかな?」

「いいえ、私が情報を集めるのは、円滑な仲介のため。貴方の説得が出来てない時点で、仲介屋としては失格です」



 仕方なさそうに息を吐く、その姿がどう見ても芝居がかっていた。

「よいのみや ゆき。あの子『しょうのみや』の関係者ですね」

 だが篠生が続けた情報は俺を揺さぶる。

「しょうのみや?」

「救急車を要請した事で、気付かれてしまったようですよ。彼女はそうしないうちに、うろな町からこっそり連れ出されるか、消されるでしょう。あの部屋の……」

「窓の細工。それにマイクもあった」

 俺はポケットにしまった帽子を取り出して、ユキさんの病室から隠し取ってきたプラグのなれの果てを見せた。本当に発信機はこれ1つかはまた後から調べなければ。その後も定期的にやらないとダメだろう。

「気付きましたか?」

「侮る気か?」

「決して玲様を侮る気などないですよ。体は鈍っても、感は鈍ってない……」

「篠生、この町で俺は「賀川」だ」



 たまには俺の事をわかるやつに会ってみたいと思うが、俺は気のいい運送屋の社員、賀川で十分だ。

 だが、篠生はその仮面を引き剥がそうとする。

「まだそんな事を言いますか? あのユキって子殺したくないなら、情報が要るでしょう?」

 細い目が見開かれる。

 黒い姿の時に感じた気味の悪ささえも、俺を既に引き付けていたのだ。

 俺の無様な姿を映した、赤い瞳とありのままの白に心奪われた瞬間。

 そして命が助かった時、全ては決していた。


 タカさんが魅かれるなと言った時にはもう遅かったのだ。

「……………………………………何をすればいい」

 篠生はずっと、この時の為に待っていたのだ。

 一度も俺が与えなかった話の糸口を掴んで、にっこりと笑った。

「まずは皆さん、一杯奢りたいとの事です」

「はあ? 皆?」

「ええ、玲様を待ってますよ」

「嘘を付け、俺を疑ってるあいつらが…………」

「いえ、誤解はもう解けています」

「……………………もしかしてお前が解いた?」

「さあ、どうでしょう? ご想像にお任せします。では玲様、伝言です。『裏切ったと疑いをかけて追い出した俺達を許してくれとは言わない。即戻って来いとも言えないのは、もうお前にはお前の世界があるだろうからだ。けれどまずは詫びに一杯奢らせてほしい』以上です」

「奢らせてって……」

「こんな事、言っても今までは聞いて下さらなかったでしょう?」


 何だか、じわりと涙が浮いてくる気分になった。

「とにかく一度飲みに出て下されば、彼女を狙うモノに付いてわかるかぎりでお答えします」

「その後は?」

「相談とさせて下さい」

「……………………わかった」



 もうあの赤い瞳に醜態は晒せない。

 白い髪を美しいと思い、守りたいと思った俺は、拒絶を続けた三年間を終わらせた。

賀川の過去、詳しく聞きたい?

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