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ワールドネイション  作者: 雷帝
第一章:始まり
6/39

これからの方針

 帰れる、というのは朗報だった。

 もちろん、ここが異世界と仮定しての話だが。 

 更に朗報には追加があった。時間軸という意味合いでも呼び出した直後に戻れるというのだ。多少の誤差は生まれるそうだが、我々の時間に直して精々数分程度。それならば最悪の、戻ったはいいがとっくにゲームが寂れてサービスが終了、戻る先がなくなりました、なんて事はなさそうだ……。

 しかし、本当に戻してもらえるのか?


 「ええ、建前と本音両方の意味合いでも」

 「建前と、本音?」


 何か引っかかる言い方だな。


 「……両方聞いてもいいかにゃ?」

 「ええ、元々お話するつもりでしたからな」


 姿勢を正して話を続ける。

 まず、建前は分かりやすい。


 『相手の迷惑・都合を省みず召喚した以上、きちんと責任持って送り返すのが筋というもの』


 確かに納得いく建前だ。

 召喚された側も不満があったとしても、そういう事なら、と渋々でも協力してくれる可能性は高まるのではなかろうか。まあ、チート能力とかあれば、の話だが。

 では本音は?

 というとこちらは実に生臭くてドロドロしていた。


 英雄というものは飾りであってこそ有難い。 

 英雄としての立場を用いて政治に首でも突っ込まれたらややこしい、よってさっさと帰ってもらうのが有難い。殺すのも手だが、さすがにこの世界を救ってくれた相手を殺すというのは賛同が得られにくいし、場合によっては自分の手を汚した後でそれを理由に権力闘争で追い落とされる危険性もある。

 「世界を救った勇者を自分の権力を奪われるのではと思い、殺した」なんて話が広まれば、誰も庇ってくれないだろう。全て完璧な事実だから余計にどうしようもない。

 隠し通すにしても相手は平民だけでなく、権力を巡って争えるだけの力を持った相手となるだろうから悪手極まりない。

 しかし、「感謝と共に勇者は自分の世界へと戻っていった。勇者にも故郷に待っている人がいる」ならば反論もしづらいというものだ。

 更に、勇者という存在自体の脅威もある。

 魔王の脅威を救ってくれ、と勇者を召喚し、勇者が魔王を倒したとする。

 当り前だが、倒せるのだから勇者は魔王より強い。

 では、その勇者が「帰れない」となって暴れだしたらどうするのか?魔王を倒せないこの世界の住人が、それより強い相手を倒すとなると……まあ、毒とか方法がない訳ではないだろうが甚大な被害が出る可能性は決して低くない。

 戻れない状況でそれをどうにかするには「王に逆らえない」などの呪縛などで勇者を拘束してしまう事だがこれまた悪手である。

 こんな状況では勇者は当然憎しみが溜まるだろうし、何とか呪縛を逃れようとするはず。

 一度逃れた瞬間に、怒りの報復を受けるのは確実である。

 或いは、勇者がこの世界を気に入って定住したいと言い出すかもしれないし、そうなった時贅沢な生活で満足してくれれば万々歳だが欲を出した時が面倒。

 よって事が終わったら早々に送り返せるようにしておくのが良い。


 ……何とも夢のない話だ。

 まあ、確かに間違ってはいないし、効果的でもあるんだろうが……。

 

 「そこまで言っちゃっていいいの?」


 これだ。

 そこまであけすけに言っていいものなのだろうか?

 そんな疑問が顔に浮かんでいたのだろう、苦笑を浮かべて理由を告げてきた。

 元々この召喚陣はこの世界の住人皆で考えたものだという。

 そして、今自分達を追い詰めている相手がかつて共に戦った相手である以上、彼らもまた同じ召喚陣の技術を持っている……もし、下手に我々が今隠した所で「実は帰れる」のだと相手が明かしてきたらどうなるだろうか?

 信じないかもしれない。

 けれど、実際に出来るのだから証拠なり契約なりを示した上で送り返すまで手出しをしない事を取引材料なりにしてきたら……どうなるだろうか?

 場合によっては折角召喚した相手が敵に回りかねない。

 


 「成る程、それぐらいなら最初から全部明かす、と……」

 「はい、その上でお願い致します。私達に力を貸して頂けないでしょうか?」


 ……正直参った。

 この世界の状況は聞いた。

 人族が現在世界から異種族を駆逐しているのだと……。

 最も人族からすればきっと駆逐なんてつもりはないんだろうな……大体想像はつく。

 きっとそこに先に住んでる住人の事なんて考えもせず豊かな土地を見つけて住み着いて、その内元から住んでた異種族の生活を侵害するようになって、後から来た癖にここは自分達が苦労して開拓した土地だ!と権利を要求する。元から住んでた異種族からすれば図々しいと思うだろうし、先に住んでたのは自分達だ!と思うだろうから当然ぶつかる。

 最後は人族の国なりが新たな領地の領民の訴えを聞いて軍隊が元から住んでた異種族を追い出す、と。

 分かりやすい例を挙げればアメリカ合衆国の建国時なんかがそうだろう。ヨーロッパから渡ってきた住人達が元々住んでたネイティブ・アメリカン達を追い出し、殺して土地を奪って国を作り上げた。

 どうやらどこの世界でも人の欲って奴は変わらんらしい。

 しかし、人か……。

 対立するとなれば、当然俺達も敵と看做される事になるだろうし、人ってのは同じ人でも敵となったら殺せるもんだ。ましてや相手はそれが仕事の兵士達。でも、俺達に同じ人が殺せるだろうか?俺が人を殺す光景を想像して……あれ?

 と、ここで妙な感覚に内心で首を傾げる。 

 あれ?こういう時って普通嫌悪感とか湧くもんじゃないの?何か普通に殺すイメージが湧いたし、ごく普通の作業みたいな感覚なんだけど……。

 まあ、いい。とりあえず実際にやってないから、と思っておこう……後で相談するとして今は現状をどうするか、だ。

 大きな問題点もある。

 彼らの説明によると、どうも召喚陣を帰還陣として用いるまでに冷却期間として一年が必要となるらしい。

 しかし、現状は問題だ。

 もし、話の通り追い詰められているのなら果たして一年後、この地をエルフ達は確保出来ているのだろうか?もし、出来なかったら……果たして自分達は帰れるのか?

 それに、下手に断って彼らが最後の意地で帰還の術を用いるのを断ったら……或いは偽りのやり方を用いたら……自分達にはどれが本当か分からない以上、それをやられても分からない。……そう考えるならば、確実に妹達だけでも帰してもらう為には協力しておいた方がいいかもしれない、常盤などはそう思う。

 

 「さすがに、突然の事だったしな……他の者の意見も無視する訳にはいかん」

 「おお……そうでしたな。私達も今すぐにとは申しません、ですが出来れば早く決めて頂ければ……」


 こっちの気持ちは理解出来るが、向こうの事情も理解してくれ、って事か……。

 まあ、勝手な事をと言ってもいいが、向こうも状況が状況だから必死なのが分かるからなあ……無碍に断るのもどうも後味が悪い。

 まあ、そこら辺も含めて相談してみよう。

 場所を案内してくれるという長老らにつけられたエルフ族の若者の後についていきながらこっそり猫子猫ねここねこさんに種を渡す。

 猫子猫ねここねこさんもそれが何か理解しているからさりげなく受け取る。

 なんてさらりと言ってるが、それなりの高速で今の事は行われている。何せ、周囲から視線を感じまくりだからな。

 分からんでもない。

 猫子猫ねここねこさんはディフォルメモードが解除されたせいで直立する他を圧する長身の虎の獣人風だし全身に纏うのはゲーム世界で現状最高クラスの武具防具。

 こっちは見た目は猫子猫ねここねこさんに並ぶぐらいの肌が樹木、頭髪は生い茂る葉のがっしりした中年男性、所謂渋いおっさん、って感じで、衣類は作務衣だ。

 そんなのが並んで歩いてればそりゃあ首を傾げて注目もするわな……。

 それでも恐れられてないのは人族じゃないから、なんだろう。人族以外は割と共存してるからな……。少なくとも、こうして長老達の部下のエルフが案内している以上、危険な相手ではないと認識されているようだ。


 (さて、と……どう思います?)

 (うーん、正直未だ現実か実感が湧かんにゃあ)


 そう、種は一種の電話。

 他者には聞こえない心の声で種を持った相手とは会話が出来る。まあ、電話と同じく相手が受けてくれないと会話は出来ないんだがね。


 (……正直似合いませんよ、その外見だとその口調)

 (……自分でもそう思ってたよ)


 まあ、そうだよな。

 あの口調は長靴を履いた猫、みたいな可愛い姿だから似合うんだ。ひょっとしてさっきずっと黙ってたのって「にゃ言葉」で話したら場の空気読め、って事になるからなんだろうか?


 (ま、じゃあ口調変えとくわ……おめーも変えてるみてえだしな)

 (そうですね、やっぱり見た目とあんまり離れてると自分でもちょっとなあ、って思いますし)


 苦笑が洩れそうになるが、そこは抑える。


 (……とりあえず、この世界が本物だと思って行動した方がいいだろな)

 (何故です?)

 (ゲームならそれでいいさ。けどな、そうじゃなかったら、本物だったらどうなる?もし、こっちの世界で死んだら……)


 …………。

 ゲームではなく、現実で死んだらもしかしたら……。


 (そう、俺達も死ぬかもしれない。体は無事でも心が死んじまったら抜け殻だろうよ)

 (……可能性はゼロ、とは言えませんね)


 そう、自分達はゲームの最中にこの世界へと、ゲームの中の姿のままこの世界へと呼ばれた、としておく。

 ではもし、この世界の中で死んだ場合はどうなるのだろうか?

 ただ単に元の世界に帰るだけなのかもしれない。けれど、甘い予測はしない方がいいだろう。何故かと言えば甘い予測を立てて死んだ時外れてたら悲惨な事になるからだ。それよりはデスゲームだと思って慎重に行動した方がいいに決まっている。やっぱり現実でした、死にました、じゃあ笑い話にもならん。

 ……ログアウト可能になって、実際にログアウトするまではデスゲームと思って行動しておくか。


 「こちらです。何かありましたら外の者にお伝え下さい」


 そんな事を話している内に到着したようなので一旦会話を打ち切る。

 そこにあったのは一本の樹木、を利用した建物。

 長い年月をかけて、ゆっくりと建物の形に変えていったんだろう。いや、さすがにそれは悠長すぎるし精霊魔法でも使ったかな?

 いずれにせよ盆栽とは規模が違うが、望む形に変えて家として使ってる、けどちゃんと樹木は生きてるってのは事実だ。植物の精霊王としての感覚がそれを伝えてくる。……何か妙な感覚だな、精霊王の感覚が当然のように感じるって。

 とりあえず妹達と会う為に階段を……昇ったりせんよ。

 この程度の高さなら跳べばいいだけだ。見てた奴は驚いてたけどな。

 トントン、とノックをする。


 『どなたでしょう?』


 この声は陽奈ひなちゃんか。


 「俺、常盤と猫子猫ねここねこさん」

 『あ、今開けますね』


 どこかほっとしたような声だった。

 きっと不安だったんだろう。ログアウト出来ず、友達の一人はぐったりしている。

 こんな状況下で不安にならない訳がない。いや、俺だって不安はある、色々と。ただ妹達の前でそれを表に出さないようにしてるだけだ。

 幸い妹も目が覚めていた事もあり、とりあえずの方針を伝えると皆納得した。


 「……成る程、うん、私はそうした方がいいと思う」

 「甘く見るよりは厳しく見た方がいい。納得」

 「確かにゲームみたいにリセットとはいかないかもしれないからね」

 「そうですよねえ……試してみる訳にもいきませんし、試したくもありません」


 ただし、これはあくまで「この世界で死んだら本当に死ぬかどうか分からない」から「とりあえず死ぬ」と仮定しておこう。という方針が固まったに過ぎない。

 問題は、ではそう仮定するとしてこの後どうするか、だ。

 とはいえ、この点に関しては猫子猫ねここねこさんに方針があるらしいが……。


 「何、簡単な事だ、何時もやってる事をやるだけだ」


 ニヤリと笑った猫子猫ねここねこさんに首を傾げた。

 

 「あれ?口調変えました?」

 「……ああ、このディフォルメが解除された外見じゃ似合わんと言われてな……」

 「……うん確かに似合わない」

 

 そっちからか。


 「で、何時もってどういう事です?」


 なので、俺が話を戻した。


 「ああ、それなんだがな……」


 ここがデスゲーム風のゲームの中の世界だとしても、本当に召喚された異世界だとしてもやるべき事は変わらないのだと、そう断言した。

 何故、そう断言出来るのだろうか?


 「……そうだな、まずこれが現実だとした場合、だ。ゲームなら魔王を倒した勇者は国に帰って美しいお姫様と結婚して新たな王様となって幸せに暮らしました、目出度し目出度しで終われるかもしれないけどな、現実はそうじゃない」


 実際には魔王を倒せたとして、新たな王となったとしてもその後に待っているのは戦いで荒廃した世界を再建する長く終りの見えない新たな戦いの始まりだ。夢のない話をしてしまえば、姫と結婚するのだって国が勇者という国民受けする存在を王家に取り込む為、と看做す事も出来る。どちらにせよはっきりしているのは魔王を倒したとしても勇者の人生は続く、という事。


 そして、この事はこの世界にも当てはまる。


 もし、召喚された勇者だという自分達の力でこの世界の人族を屈服させて、当座の平和を得たとしよう。

 果たして、その平和はそのまま続くだろうか?

 ……残念ながらその可能性は極低いと言わざるをえない。

 それが成功した所で、それは完全に「異世界の勇者」による強制的な平穏。異種族にとっては「平和な世界になった。良かった良かった」であっても人族にとってはかつてはそれが普通であった事を忘れて、「自分達の土地が奪われた」、自分達が先にやった事を都合よく忘れ「力で押さえつけられた」と恨みに思う事になるだろう。それも国の上に立つ人間まで含めて。

 そんな中で自分達がいなくなったと、平和になったから、と異世界へと帰還したと知られたらどうなるだろうか?

 まず間違いなく「待ってました!」とばかりに人族は再び異種族を迫害する事になるだろう。今度は勇者召喚すら出来ないよう徹底的に。

 ……確かに反論出来ない。というか間違いなくそうなりそうだ。


 「逆に言えば、俺達がいなくなっても大丈夫なようにしておく必要がある。一つは人族を絶滅させるか、二度と異種族殲滅なんて考えられないぐらい徹底的に衰退させる事だがさすがにこいつは後味が悪い」

 「さ、さすがにそれは……」


 翡翠達も若干引き気味だ。

 確かにそうすれば確実だろうが、そこまでやりたくないし、出来るものでもないだろう。

 やれたとして、もし、残った人族が出た時そこに残る恨みは凄まじいものがあるだろう。最悪テロ組織みたいなのが生まれる可能性もある。


 「そうなると残るのはもう一つの道だ。俺達がいなくても大丈夫な形を作り上げる。で、ここがゲームだった場合と重なる訳だ」

 「?どういう事です?」


 俺の問いに猫子猫ねここねこさんは真剣な表情になって告げた。 

 

 「国を作る」

 

 

現実にはゲームクリアしても世界は続く、訳です

勇者を召喚して魔王倒しても、その後が大変でしょうね、本当なら


という訳で方針です

次回はもう少し詳しく話を進めていく予定です

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