異世界へ?
異世界へ転移です
■視点:守森常盤
「ワールド・ネイション」を長く遊んできた常盤と猫子猫だったが、こんな光景は初めてだった。
空中に魔方陣とでも呼ぶべきものが出現しているのはいい。こういう光景ならゲームでは割と良く見かける光景だ。だが。
「……手が伸びてるのはまあ、百歩譲って良いとして」
「何かバタバタ動いてるにゃあ」
そう、そこから伸びた腕が何とか抜け出せないかというように、いや実際そうなのだろうがじたばたと片腕だけ動いているというのは何とも不気味な光景だった。まあ、ぱっと見た目釣られた魚がばたばた跳ねてるように見えなくもないが。
誰もがそんな光景に硬直していたが、やがて我が妹がぽそりと呟いた。
「……ねえ、これって何かのイベント?」
!そうか、イベントか!そうか、そうだよな!!
いや、これまで自分達が知らないとなると……隠しイベントだろうか?
「……可能性はあるにゃ」
猫子猫さんもそう呟いた。
いや、これはそう思いたいのか……?なんか冷や汗流してるように見えるし。
などと言っている間に我が妹が手を伸ばして……って!?何してるんだ!!
と叫んだ俺は悪くない、多分。その結果、妹がびくっとして思わず魔方陣に接触、した途端に周囲に光が溢れ出した
やばい!
ここはゲームの世界のはずなのに、自覚なんてした事のない第六感という奴が危機を訴える。
逃げたい、と思う本能とどこに、と問い返す理性と妹や友人を見捨てて逃げられるか、と怒鳴る感情が入り混じり……刹那の葛藤とも言えぬ葛藤の後、最後が勝利をおさめる。
「待ってろ、今助ける!」
急ぎ、翡翠の体に腕から伸ばした蔦を巻きつける。ここがまだゲームの中の世界だとすると自分の力は普通の人間のそれとは比べ物にならないぐらい高いはずなのに……翡翠ごと、とんでもない力でズルズルと引きずられていく。
それに気づき、猫子猫さんが、妹の友達達が光で見えない翡翠の代わりにこちらを引っ張る形で助けようとする。
「駄目にゃ!力が入れにくいからそっちから蔦を伸ばしてこっちに巻きつけるにゃ!!」
確かに四人がかりで人と同サイズの今の俺の体を引っ張るのは難しいだろう。掴む場所も限られるし。
猫子猫さんの声に咄嗟に他の四人にも巻きつけ、五人がかりでこっちを介する形で翡翠を引っ張るが……。
なんつー力!!しかも、だ。
「いたたたたたた!?痛い痛い!ストーップ!!」
……あーうん、幾ら痛みがゲームだから抑えられてるって言っても実質的に左右から五人がかりで引っ張られてるようなもんだからなあ。そりゃ痛くもなるか。
そう思い、皆の手が緩んだのが致命的だった。
忘れてもらっては困るが、引きずられる力は未だそのままなのだ。
で、一方が思わず力を緩めてしまったらどうなるか……綱引きで片方が思わず気を緩めてしまったかの如く、一気にこちらが引きずられる。
繋がっている全員が引きずられて……。
■視点:あるエルフの巫女
ああ!成功したのですね!!
周囲からもざわめきが洩れる。
そこに現れたのは威厳溢れる虎の獣人、大いなる精霊の力に満ちた巨木。
そして三人の少女達と一体の獣。
鳥の獣人、ドワーフ族の技師、エルフの魔術師。あと一体はワイルドベアでしょうか?
さて、どのような組み合わせなのでしょう?
危機的な状況を何とかしようと考えた末に出たのが、異世界に助けを求める事。情けない話ではありますが、この世界だけではもうどうにもならない所まで来ているのです。
かくして、助けを求める為、現在の我々の総力を結集して異世界へと穴を繋ぐ儀式を敢行。無事、穴は開いたのですが……小さすぎました。いえ、異世界へと次元の壁を越えて渡るには私達の力は余りにも非力に過ぎたのでしょう……確かにこの陣自体は私達より魔力総量の低い人族が開発した儀式。起動自体は決して必要な量は多くありません。ですが、彼らはそれを数で補ってしまいます。一人で足りないならば二人、二人で足りないならば一万人。
正に数の暴力!あいつらは本当に毎度毎度本当に……一体見つけたら、何ですか!!
ですが、私達に同じ真似は出来ません。
あるもの、ここにいる数でやるしかなかったのです。
その結果がこれ……私の腕を突き出すのがやっとの小さな穴。これでは向こうが手を差し伸べてくれたとしても通る事すら出来ないでしょう……意味がありません!!
くっ、この!もう少し広がりなさい!!
そうやって奮闘していた時です、突如魔方陣が輝き出したのです!
!?
これは……!凄い力が向こう側から流れ込んできます!!
ああ、異世界への扉が開いていく……!!
そうして場は光に包まれ……おさまった時そこには先程の方々がいたのです。
■視点:守森常盤
何が起きたのか。
眩い光に包まれ、我に返った時、俺の視点が随分と高い事に気がついた……ってかこの視点は。見下ろしてみれば矢張りというべきか。精霊王エントとしての姿に戻っている。
エントは途方もない程長く生きた世界樹が自然の恩恵を浴び、光の精霊王の放つ光を、闇の精霊王のまどろみを、火の精霊王の温かみを、水の精霊王の恵みを、風の精霊王の囁きを浴び、意識を持つ事によって生まれた姿という設定になっている。
なので、当然ながら古木としての巨体を誇る。
目が下の方にくっついているような生物じゃない限り、視点が高くなるのは当然と言えるだろう。
高い視点から見回せば、場所はどうやら森の中の様子。樹木は植物の精霊王の視界を遮るような真似はしないので森の木々を透かして大地を見やれば、本来の姿に戻った猫子猫さんに、リアルモードに戻ったと思われる香香ちゃんのワイルドベア、翡翠に陽奈ちゃん、摩莉夜ちゃんの姿が確認出来た。
猫子猫さんの姿は先程までが愛嬌ある姿とすれば今見えている姿は威風堂々たる王者。
猫も虎も同じ猫科。
元が猫の獣人だったとしても成長し、武器を振るう為に体格が増し、各種の「ワールド・ネイション」最強装備を身につけたその姿は迫力と威厳溢れる白銀の巨体を持つ虎の獣人にしか見えないだろう。「ワールド・ネイション」の装備というのが基本、王様が身につける装備だから、とばかりに煌びやかなものが多いのもそれに輪をかけている。いや、獣人達の王の装備は他よりは地味なのだが(ドワーフ王の装備など巨大な宝石から削り出したフルプレートメイルなんてものまである)あくまで比較の問題。微細な装飾や目立たないように、けれど目を引く場所に取り付けられた宝石で飾られたそれは、同時に性能も超一級品。
「ワールド・ネイション」最高位の職人であるドワーフ王国の国王プレイヤーが生産した現「ワールド・ネイション」最強を競う品の一つである。
それに比べるとどうしても妹達の方は見た目的に劣るが……まあ、最強国家の皇帝プレイヤーと建国前のルーキーを一緒にするのが間違っている。
ちなみに俺は武器防具はない!
まあ、こんな図体じゃ装飾品が身につけられるだけマシだけど。こんなどでかい体の武器防具なんて人間サイズのドワーフ族でも作るのは無理だろう。でかすぎて鍛えるって作業がそもそも無理だ。どんな優れた刀匠を引っ張り出したとしても船の竜骨サイズの鉄骨を普段やってる刀のように鍛える事は出来まい。機械でハンマーとか動かしても感覚が余りにも違いすぎる。ゲーム的には「モンスターには武器・防具が装備出来ない」ってだけですむんだけどな。
代わりに図体が大きいお陰で装飾品は複数身につけられるんだからよしとしよう。
さて、友人や妹達はいいとして……周囲にいるのは、あれはエルフ族だろうか?
周囲の森の木々に家らしきものがあるのを見ると、どうやらここはエルフ族の村の一つだろうか?
「ワールド・ネイション」ではエルフ族の国が大きくならない原因がここにある。
彼らは部族ごとにまとまり、それぞれがいわば独立した国として生きる。部族の人口は大体大きいものでも数百名程度。
人族は普通に街を作り、数千数万規模になる。
獣人族は同じ部族単位の生き方をしてはいるが、豊富な恵みを持ち、狭い範囲で生きていけるエルフ族と異なり、草原が舞台である彼らは広範囲を移動し、また大地から得られる物が限られる事から別の部族に出会うと普通に物々交換市などを開き、互いに交流し、話を交わす。
部族単位は部族単位でもエルフ族に比べて開放的なのだ、獣人族は。
ここが予想通りというか期待通り隠しイベントってのなら楽なんだが……妙にエルフ達が人そっくりというか反応とかが豊富というか……いや、VRMMOのキャラが異世界へ!なんて物語は普通に転がってるけど、まさか自分がそんな……。
けど、俺達ってどうもでかい魔法陣の中心部に立っているような……。
とりあえずあのままいても仕方ないのでこちらもデフォルメモードを使って小さくなる。
これが使えたのは幸いだった。
あんなドデカイ図体では話を聞くのも一苦労だ。いや、俺はいいとしても見上げて話す向こうが。
妙にぐったりしている妹は横になっていて妹の友達はそっちに、俺と猫子猫さんでとりあえず話を聞いている。
目の前にはでかい魔法陣の前にあった祭壇の前にいたエルフ族の女の子に、年寄りのエルフ達が三名程。
普通にゲーム感覚で考えるなら、巫女さんに長老達って所だろうか?
「……まずは謝罪を」
彼らが揃って頭を下げてきた事でこっちは……妙な顔になって猫子猫さんと顔を見合わせた。
「……どういう事か説明してもらえますかにゃ?」
「無論です、むしろ聞いて頂きたい」
彼らが言うにはここは俺達がいた世界とは異なるという。
いきなりそんな事を言われて信じられないのは無理もないだろうが、信じてもらわないと先へ進めない、とも。、
「……まあ、それはそうだな。それで何故我々を召喚なぞ?」
口調が偉そうなのは勘弁してくれ。
あの巨体で軽い口調なのはどうかと思ったんで、よく知ってる人以外の前では多少偉そうな感じで作ってたんだ。
さて、聞いた所によるとこの世界では人族が急速に勢力を伸ばしているらしい。
本来、それは構わないはずだった。
かつてこの世界に生きる種族全てが共に手を取り合い、世界の侵略者たる存在に立ち向かったのだから、と。
……けれども時が流れるにつれて、一番寿命が短い人族は次第にかつての事を忘れるようになっていった。まあ、仕方のない話だろう。
けど、それだけなら良かった。特に寿命の長いエルフ族に比べればどこも似たり寄ったりだったから、だそうだが、問題は人族が繁殖率が極めて高く、そして欲張りだった事だ。
ここまで聞いた時点で大体予想がついたが、案の定それまで住んでいた領域だけで満足出来なくなった人族は他種族の住む領域に侵入。最初こそ共存していたが、次第にその地を自らの支配地として、或いは自分の土地として扱う者が出てきたという。
そうなれば最後はどこの世界でも同じだが待っているのは争いだ。
しかし、最初こそその地に元々住んでいた種族が人族を追い出すのに成功しても、その後人族はもっと大勢で、もっと戦いに慣れた人族が、軍隊が押し寄せてやがて他種族はその地を追われていったという訳だ。
次第次第に僻地へと追いやられていく他種族達。
まだ山岳地帯に篭るドワーフ族や遊牧民である獣人族はまだ何とかなっている。
モンスターも人族が住むのに適していない場所などに潜める。魔人族はよく分からない。
けれど、エルフ族は、狭い領域で生きているエルフ族は追い出された先で生きていく術がない。森の中で生きていく術は優れていても、魔術の腕に長けていても、森というのは既に先住の住人がまず、いる。それだけ豊かな恵みを色々な形で与えてくれる場所だからだ。
しかし、次第に人族の手がこの森にも伸びてきており、小競り合いが生じ、既にエルフの幾つかの部族が先祖伝来の地を離れざるをえなくなったり、滅ぼされた部族もあるという。
今は他の部族が受け入れる形で何とかしているが、そう遠くない内に行き詰る事は必定だった。そこで手を出したのが……かつて人族が考案し、エルフ族が編み出した召喚の秘術。
かつてこの術で勇者を召喚し、この世界は救われたという。
長々と議論している時間さえ惜しかった。
結局、エルフ族はこの地で儀式を執り行い……俺達が召喚された、と。
「……我々が元の世界へと帰る手段は」
確認を取りつつも、ないだろうな、と思っていた。
「はい、ちゃんと帰れます」
「「帰れるのかよ!?」」
それだけにあっさりと返された言葉に思わず二人して叫んでしまったのを責める事は出来まい。
近い内にキャラの設定とか上げたいと思います
明日休みだから出来るといいなあ