彼女の事情
第三話です
■視点:守森常盤
「……なんで?」
思わずそんな声が出た。
うちの妹、守森翡翠はVRMMOの中でも体を動かすゲームが好きだ。もう少し正確に言うならば自分の体を動かして敵を倒すような格闘ものとかファンタジー系が好みな訳だ。そんな妹が戦争要素を含むとはいえ国家運営なんて事を主体とする「ワールドネイション」に興味を持つとは……。
「……風邪でも引いたか?今日は大人しく寝て」
「引いてないよ!」
折角心配してやったというのに。
まあ、とりあえず。
「じゃあ、何でだ?」
「うん、説明しますとですね……」
妹の説明によると友達とのお付き合いの関係、らしい。
そもそも彼女が仲の良い友達と始めたVRMMOは「ファンシー・スター」。王道のファンタジーに忠実に作られたゲームであるが、同時に闘技場システムでプレイヤー同士の対戦も可能になっている。かつては一世を風靡した人気タイトルだったのだが……最近はすっかりマゾゲー呼ばわりされ、参加者の抜ける率が激しいと聞く。
「ファンシー・スター」の失敗は一部の声の大きいユーザーに引きずられてしまった事だ。所謂重課金者だ。
目立つ彼らが求めるままに敵を強くし、難易度を上げ……何時しか初心者が入るには余りにも敷居が高く、極一部の人間以外にとっては余りに難易度が高い世界へと変わって行った。それでもなまじ廃課金者は喜んで残っていた為に収益的には大きく減らなかった事が余計に対応を遅くさせた、というかしている。
翡翠自身は廃課金者同様、難易度が上がった世界を楽しめていたらしい。
が、全員が全員そうである訳がなく、翡翠の友達は皆、あのゲームを続ける事に嫌気がさしていたらしい。
そうして、ある日彼女らは翡翠に言った。
『このゲームを止めようと思う』、と。
それで翡翠を誘いに来たらしい。
翡翠自身は楽しめていたのは確かだが、ここで「じゃあ自分は残る」と言うのは学校での友達を失う事だ。話題が合わず、一人ポツンと孤立してしまう光景は容易に予測出来る。なので、翡翠もまた困惑はしたが、了承した。
そうして、「じゃあ次に何をやるか」で彼女らが提案したのがこの「ワールドネイション」だったらしい。
「何でまた?」
「前回が体動かしまくるゲームだったから……」
今度は頭を使うゲームを、って事になったらしい。
「けど、ワールドネイションも体動かすっていうか自分でモンスター倒したりするパートあるぞ?」
「え!?ほんと!!」
食いつきそこか。
まあ、少し妹に説明してやったけれど、ワールドネイションは建国までのパートは普通のゲーム同様英雄になるパートがある。
ただし、ワールドネイションの場合建国してからが本番なので割とサクサク進める。一日一時間ペースでやってれば、十日もしない内に建国可能になるだろうな。
ただし、その時点では泡沫レベルの小国建国だ。ある程度大きくなった国にはならない。
なら、最初から頑張って大国レベルの国の英雄となってから建国すれば、と思うがそこまではいけない。最大でも中堅国までだ。おまけに……。
「そこまでいくと建国がえらい大変になる」
「そうなの?」
何しろ本番は国家運営だ。
泡沫規模の国家や都市国家レベルならともかく、ある程度の力を持った国家を建設しようとすると最初からNPCの官僚だとか自分に忠誠を誓ってくれる軍隊を持っていないと独立してすぐに滅ぶか、建国に失敗するかのどちらかだ。何せ、国の範囲自体は広くてもそれを運営してくれるNPCがいない、かといってPCが全部カバーするなんて幾ら何でも無茶だ。それを聞いて、翡翠は凄く嫌そうな顔をする。
「……普通頑張ったら凄く強くなって国もおっきくなったりしないの?」
「本番はあくまで国家運営だからな。最初からでかい国持った所で戦争に勝てない」
ビルだけ作った大きな会社みたいなものだ。
その中に入れるべき社員とか、机や文具、メーカーなら工場や工員。原料その他諸々。小さな会社ならそれを揃えるのもやりやすいだろうが、規模だけは大きな会社を自分のキャラクターを育てながらそれを確保し続けるというのは実に難しい。誰だってそれなりに大きな会社、そうだな上場ぐらいはしてるような会社を自分含めて十人ぐらいに突然与えられて経営しろ、って言われたって「無理言うな!」って事になるぐらいは分かるだろう?あくまで「建国」であって「乗っ取り」じゃあないのだ。
「いきなり大国の王様、なんてのは物語じゃ既に出来上がってる大国のお姫様と結婚して、とかであって自分で新しく国を作ってる訳じゃないからな」
「……だから都とか人材とかも全部自前でそろえていく訳?……面倒そうー…」
まあ、だからマニアックなゲームと言われる訳だ。
小さな国レベルなら最初のパーティで編成した面子が国の中枢になってくれる。もちろん、信頼関係が築けてれば、の話だけど。
例えば、戦士なら国の騎士団長とか戦士団の団長に、魔術師ならば宰相とか大臣に、僧侶なら国の宗教関係の取り纏めを行う司教とかに、といった具合だ。商人がいれば新しく開いた都市を拠点とする商人となってギルドを開いてくれたりするし、盗賊は盗賊ギルドを結成して裏の社会のまとめ役、将来的には情報部なんてものまで……。
「……おい、大丈夫か?」
「うにゅー」
何だか、頭から煙が上がってる光景が見えるようだ。まあ、無理もないか……。
だが、安心しろ、最初から運営だっていきなり大規模な運営しろと無茶を言ってる訳じゃない。あんまり欲張りすぎずに最初は都市国家とかから始めりゃいいんだ。小規模の国家ならそう運営するのは難しくない。それこそ一昔前のシミュレーションゲーム同様の簡単な設定で運営出来るし、小さい国だから王になった自分のキャラクターで多少の困った事なら何とか出来るようになっている。あくまで「欲張るなら、それ相応の難易度にチャレンジして下さい」って話な訳だ。
もちろん、中堅クラスの国いきなりは無理だったーと思ったなら、小規模国家を改めて立ち上げる事も出来る。
「ふんふん、じゃあ最初はちっちゃな国を作る事目指すのと、そこまでは前やってたゲームと大差ないと」
「ま、そういうこった。前より通常パートの難易度は相当低いから、お前の友達も普通にサクサク進められるだろうよ」
「ふーん」
後は種族次第か。
種族次第で国の運営の仕方は大分違うし、戦い方も異なる。
「で、どんな戦い方がいいんだ?」
「どかーんとやって派手な奴!!」
「……もう少し具体的に言えるか?」
うーんうーんと悩んでる。
まあ、仕方ないか、と思い、今まで考えた事もなかった事だろうからなあ、と思う。
ゲームというものはそういうものだが、ゲームの種類によって必要とされるものは全く異なる。
一瞬の判断力であったり、計画性であったり、反射神経であったり、だ。シューティングゲームや格闘ゲームと、RPGやシミュレーションゲーム、或いは落ちものやパズルゲーム、クイズゲームで求められるものは全然違う。格闘ゲームの全国チャンピオンがクイズゲームで同じくチャンピオンになれるかと聞かれたらそれは分からないとしか言いようがない。バスケットの世界最高クラスのプレーヤーが野球をやっても大リーグのトッププレイヤーになれないのと同じ事だ。
それだけにVRMMOといえばファンタジーで体を動かす事ばかりだった妹にはいきなりシミュレーションといってもイメージが湧かないんだろう。
とはいえ、自分なりの戦い方をイメージしないと……大変だ。
高機動を生かした戦いをするのか、防御主体でカウンターを行っていくのか、或いはバランス良く攻めていくのか……。
基本となる戦い方がないと……。
■視点:守森翡翠
今日からいよいよ「ワールドネイション」を遊ぶ。
実はお兄ちゃんに話した事には一部嘘が混じっているんだよね……。
「ファンシー・スター」を友達が止めようと言い出した事、理由は兄に話した通りだ。
あのゲームも最初は楽しかったんだけどなー……皆で苦労してアイテム集めて、モンスター倒して……でも、気づいたら街に行ってもNPCばっかり!新しく会う人もどんどん減っていくし、おまけに新しい武器も作成に凄い手間がかかる!
ううん、単なる手間だけならいいんだけど……問題はそれを手に入れる為にこれまで全く使った事のない種類の武器や魔法、剣をずっと使ってきたのに槍技能を育てないと倒せないとか、火魔法に熟練してた人が水魔法を改めて育てないと絶対倒せない敵が出てきたりとか、ボスと戦うのに課金アイテム必須だったり……。
だからあのゲームを止めるって話は皆すんなり賛成してくれた。
けれど、次に遊ぶゲームとして「ワールド・ネイション」を提案したのは私だったりする。理由?もちろん、お兄ちゃんと一緒に遊んでみたかったからだ!最近、お兄ちゃんと遊ぶ機会減ってるんだよねー。仕方ないって言えば仕方ないんだけど……ちっちゃい頃ならともかく男と女じゃ遊ぶものも違ってくるし、友達も違う。恥ずかしいってのもあるだろうし、女の子の中に男が一人とかその逆は色々と……けど、VRMMOなら違う。それなら一緒に遊ぶにしても問題ない!
ちょっと「ブラコン」ってからかわれたけど、皆も了解してくれた。
「ファンシー・スター」がああなっちゃったのと、ああいうゲームだったから今度はどうせなら全然違うゲームをやってみよう!って事になってたのもある。
最初は大変かもしれないけど、やってたら案外楽しいって事も多いし、「ワールド・ネイション」って結構学校の評価とかもいいらしいんだよね。
というのもあれは組織の運営とか或いは考える力とかそういうのをきちんとやっていかないとなかなか強くなれないし、我侭で自分勝手な人は上に行けない、強くなれないって聞いた事ある。VRMMOが一般的になって、そもそもVR技術自体が医療での実践とかそういうのにも使われてきたからなのか、それとも凄く一般的になってきて「ゲームは悪いもの」じゃなく、「こういうゲーム」が学校としてはお勧め、っていうゲームがちゃんとある。
でも、そんな事はどうでもいいのだ!
今日からいよいよ私達は「ワールド・ネイション」を遊ぶ。今日はお兄ちゃんと友達の人が協力してくれて、最初のチュートリアルみたいな事をしてくれるらしい。
私の選んだクラスは獣人!
やっぱり見た目可愛く出来るし、動き早いし、攻撃力高いし!
ただし、獣人はどの獣人かで結構種類が変わる。
一番国運営が楽で集団戦に長けている犬、攻撃力最強だけど気まぐれな所がある猫、機動力は最高だけど耐久とか劣る鳥、獣人としては足も遅いけど防御力に優れ猫に次ぐ攻撃力、国家運営も比較的しやすい大型獣、偵察などに優れて見た目もいいけど攻撃力の面で最弱の小型獣の五種類。……最も、最後の一つは戦争では相当なデメリットを覚悟しないといけないらしいけど。お兄ちゃん曰く本来はお店経営をするリスとか兎とかのNPC専用種族をプレイヤーの「弱くていいからあれを加えて欲しい!」という希望から加えられたんだって。だからやる人も相当な趣味人だとか。
「ワールド・ネイション」最強国家っていう国のプレイヤーさんも獣人らしいし、今日来るらしいから話聞けたらいいなあ。
で、私は鳥さん!一応戦闘力って事を考えて鷹を基本としている。
獣人の場合は自分の映像を取り込み、それに選んだ種族を融合する形でコンピュータが基本を作成。後はそこに個人で色とか一部変更とかを加えたりして完成させる。
そうして、お兄ちゃんが事前に取得しておいてくれたチュートリアルルームに皆が集まるのを待っている。
お兄ちゃんは現在樹木のような肌、髪の代わりに葉っぱ、って外見。本当の姿はもっと巨体らしいんだけど、街中だと大変なのでこうした小型モードなんだって……。
一番に到着してお兄ちゃんと話をしながら待ってたらドアがノックされた。
『こんにちはー、入ってもいい?』
この声は香香ちゃん?
「はーい、開いてるよー」
『あ、翡翠ちゃんこんにちはー」
視線の先でドアが開き、そこにあった姿を見て。
「え、えええっ!?香香ちゃん!?何それ!!」
私は思わず驚きの声を上げてしまった。
思ったより進まなかった……
次回は少女達集結
そして、チュートリアル戦闘へ