とてもとても衝撃で
私の両親は、とても仲が悪い。
私を一人でこのマンションに住まわせて、一週間おきくらいに片方ずつがやってくる。
今週はお母さんの日、来週はお父さんの日、とか。
生活費はお母さんとお父さんが半分ずつ出してくれるから、生活に困ってはいないし、むしろ多過ぎるほどだと思っていた。
だけど、こんなふうに生活費を使うなんて、思ってもみなかった。
軍人さんが出て行った次の日、私はいつもどおりに学校へ行った。
いつもどおりに家を出て、電車に乗って、歩いて、授業を受けて、また電車に乗って、歩いて、帰ってくる。
いつもの、午後7時前に。
エレベーターに乗って、7階で降りる。
一番奥の部屋の鍵はかかっていて、相変わらず郵便物はないんだろうなあ。
そう思いながら歩いていると。
「…………………………」
私の部屋の前につっ立った軍人さんがいらっしゃいました。
金髪碧眼の。
「…………済まなかった」
ぽつりと一言。
「一日歩き回って理解した。ここは1930年でもドイツでもない」
金糸が、風に揺れる。
「……言語すら読めない」
ドアに背を預けて項垂れる軍人さん。
「……君の言っていることは本当だった」
「あの、ここに住みませんか」
つい、口をついて出てきた。
「……いいのか」
「大丈夫ですよ。軍人さんさえよければ」
軍人さんは青い眼を細めて笑った。
「ありがとう、住まわせてもらうよ」
私は鍵を開けて、軍人さんを招き入れた。
「えっと……はじめまして。私は佐和千早です」
ソファに座って自己紹介。
「私はザシャと言う。ザシャ・ヴォルクハルト。ドイツ人だ」
「…………日本語は喋れるんですか」
ザシャさんは腕を組んで答える。
「喋れないと思うが、君はドイツ語を喋れるのか」
「滅相もございません」
答えてからふと気づく。
「じゃあどうして意思疎通が出来てるのかな……」
「それは私も思った。が、意思疎通ができているのでこの際それは置いておくとする」
というプラグマティズムな言葉。
「私は21歳の……元陸軍の軍人だ。今は何故か親衛隊に入れさせられているが」
「そうなんですか。私は17歳の高校2年生です」
ザシャさんは目を見開いた。
「小学生じゃないのか」
「失礼な。というかどこ見て言いましたか」
騒がしい2日目。