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俺の『日常』はウサミミに奪われました

作者: kokeshi屋


「はぁぁぁあ~っ」




 広いリビングに、サヨの大きな溜息が吸い込まれるように消える。

 左手に握っていた鉛筆をノートの上に転がして、背伸びをする。


 あぁ、どうして人生、こんなに疲れることばかりなのだろうか?


 本当に、嫌になる。

 勉強は得意じゃないし。

 運動も得意じゃないし。

 人との付き合いは上手くいかないし。

 オタクの上に腐女子だし。


「ていうか、BLが好きで何が悪いっていうの!? 腐女子やホモが世界滅亡を企んでいるわけじゃないのよ!!」


 大声で誰にでもなく叫んで、机を叩く。瞬間、右の(てのひら)に地味に鋭い痛み。

 驚いて掌を見てみれば、小さなトゲが刺さっている。

 あぁ、もう、本当になんなのだろうか?

 ウンザリして、肩を落とす。そのまま、ノートの上に突っ伏した。

 最近、何も上手くいかない。漫画のネタも思いつかないし、そもそも構図が思い浮かばないし、コマ割り面倒だし。


 小池 紗代(さよ)は、去年の春、高校入学と同時に、漫画家デビューを果たした。別に、心の底から漫画家になりたいと思っていたわけじゃない。オタク仲間である友人に、少年誌に漫画を投稿してみたらどうだ、と進められたものだから、ちゃちゃっと描いて送ったのだ。漫画を描くのは、同人誌活動で慣れていたため、作業はあっという間に終わった。結果、なぜかトップの賞を獲ってデビューすることになってしまった。

 こんなことがあってもいいのだろうか?

 サヨは、そのとき思った。

 なんとなーく描いた漫画でデビューだなんて、本気で漫画家を目指している人たちに失礼なのでは、と。ズボラで人のことを考えるのが嫌いなサヨも、流石に、気が引けた。


 しかし、あることがサヨの背中を押した。


 彼女の兄である、(かおる)の一言だった。

『せっかくなんだから、やってみろよ。サヨならできるだろ、きっと』

 その言葉で、サヨの闘志に火がついた。

 サヨは、カオルのことが好きだった。恋愛感情ではない。カオルのためだったら、たとえ火の中、水の中。親父と一緒に風呂に入れ、と言われようが、なんでもする。


 そう。サヨは俗に言う、ブラコンだった。


 カオルは、シスコンではない。大切な妹だが、甘やかしたりはしなかった。サヨの一方通行なのだ。

 大学生である彼には、もちろん、彼女もいる。交際も5年目で、順調にいけば、恐らく結婚するだろう。

 それを踏まえて、サヨはカオルのことが好きなのだ。

 カオルの彼女のことも好きだった。自分とは違い、とても親切で、美人で、優しい人だ。

 その人と一緒にいてカオルが幸せなら、それでいいのだ。

 

 そんな兄に背中を押され、結局、サヨは少年向けの月刊誌で漫画家デビューを果たした。

 現在も連載中だが、ネタが思いつかず、今月はピンチだった。

 連載を休んだりしたら、担当さんの雷が落ちてくる。地震雷火事親父、なんて言葉があるが、サヨの中では、着色担当ボツ解雇のよっつが何よりも恐ろしかった。

 しかし、ネタが尽きている。全く、アイデアの欠片も出てこない。

 締め切りは来週。タイムリミットは残り8日。

 間に合わなければ、


 ()られる。



「誰だよ『殺られる前に殺れ』なんて言葉を生んだ奴はぁあ!! ネタが尽きてる漫画家は、抵抗する前に担当さんに取っちめられて終わりだよ!! もういっそ殺してくれ!!」

 荒ぶる感情を制御できずに、凄い勢いで立ち上がる。勢いよく立ち上がったせいで、机の足に小指をぶつけて、声が喉で詰まる。

 あぁ、もう、最悪だ。厄日だ。

 そのままうずくまって意気消沈していると、リビングのドアが開いた。夏場である今の時季。ガンガンにエアコンをきかせていた部屋に、廊下から高温の空気が入ってくる。それを遮るように、リビングのドアが閉められる。

 痛みに悶えながら、後ろを向く。

 そこには、大好きな兄が立っていた。


 顔を明るくするが、すぐに、兄の様子がいつもと違うことに気がつく。

 別に、顔が変わってるとかじゃない。いつもどおりの、整った顔だ。ただ、外に出ていたようで、頬が紅潮し、汗が形のいい顎から滴り落ちる。

 しかし、その顔は困り顔。眉がハの字になっている。それから、夏場だというのに半袖のパーカーのフードを被って、両手で押さえていた。


 ………? 一体なんの儀式だろうか?


 おかしく思って、カオルに問うてみる。

「兄さん、どうしたの? それ、なんて儀式?」

 そんなサヨに、カオルは頭を押さえながら言った。

「儀式じゃない。俺、もう婿に行けねぇ…」

「大丈夫だよ、そのときは私が貰ってあげるから」

 本気で困っているカオルに対して、サヨは暢気にそんなことを言う。

 サヨをしばらく見つめて、カオルはサヨ以上に大きな溜息をついた。ひとつ溜息をつくと幸せがみっつ逃げる、なんて聞いたが、カオルの溜息は、幸せ全部が泥沼に沈んだかのような重さだった。

 いつもとは確実に違う兄を見て、サヨは若干戸惑った。


 兄さんに何があったのだろうか?

 まさか、フードで押さえてる部分が脱毛したとか……。いやっ、ここは裏を掻いて逆に獣耳が生えたとか。

 それこそ『まさか』だ。相当いかれてる自分の頭に呆れつつ、サヨは兄に言った。

「兄さん、とりあえず、フード取ってよ。頭にネコミミでも生えちゃったの?」

 冗談交じりで笑いながら言う。しかし、カオルは顔を真っ青にして、目を泳がせた。

 そんな兄の反応を見て、サヨは、やっと焦りだした。


 ちょっと待って。そんなことがあるはずないよね? ここは三次元だよ? 幅・奥行き・高さのみっつがそろった、オタクには耐え難い世界ですよ? 二次元万歳な人間にとっては苦痛でしかない世界ですよ? さすがに、それは……。


 うろたえながらも、カオルがフードを取る。

 そこにあるものを見て、サヨは硬直した。



 汗で湿っている栗色の髪から、ひょっこりと生えている、真っ白な2本の『耳』。



 ウサギの耳だった。

 カオルの自我で動くようで、プルプルと小刻みに震えている。

 固まったまま動かないサヨに、カオルは柄にもなく泣きたくなった。自分だって、この状況を上手く呑み込めていないのだ。それを他人に理解してもらうことなんて、すごく難しいだろう。

 妹の反応が恐ろしくて俯いていると、不意に、サヨの口から、声がもれた。


「……か、かわいいぃぃぃいい!!!」


 あまりの予想外な言葉に、カオルは拍子抜けする。

 か、かわいい?

 成人男性が、しかも、長身のほうに分類される男が。


 ―――――――可愛い!?


 常人なら絶対にしない反応をされて、どう対応すればいいかわからなくなる。

 だが、そんなカオルを余所に、サヨはケータイを片手に目を輝かせている。

 サヨは変わり者だ、なんてよく言われるが、カオルはそれを再確認した。

「兄さん、ソレ何!? 本物のウサ耳!? 触っていい!? いや、耳って性感帯だけど、ほんとに感じるの!?」

 波のように押し寄せてくる質問を、カオルは(さえぎ)る。

 一度深呼吸してから、妹に向き直る。

 それから、順に質問に答えていく。

「俺もよくわかんねぇけど、直に生えてるから、飾りではない。触るのはよしてくれ。性感帯かどうかは知らん。とりあえず落ち着け」

 サヨの行動は予想外だったが、それが逆にカオルを安心させた。サヨは変わり者だが、今回は、そこが利点となった。

 手こそ出してこないものの鼻息が荒く、頬が紅潮している妹が若干気持ち悪いが、一応心の中で礼を言った。


 そういえば、と、カオルは思う。

 サヨはオタクだ。三次元そっちのけで二次元にどっぷり浸っている、根っからのオタク。それならば、怪しく思いつつも、この状況をすんなり呑み込めるだろう。だから、むしろ喜んでいるのだ。

 その上漫画家だ。こんな非日常なことを、ネタとして吸収するだろう。

 嫌なような、そうでもないような複雑な心境だったが、とりあえず、その考えは頭の片隅に追いやる。

 今はそこじゃない。

 物思いに耽っていた自分を切り替える。そして、サヨに相談するべく自分の目の前を見ると、そこにサヨはいなかった。

 忽然と自分の前から姿を消した妹に驚いて、リビングを見回して、溜息をひとつ吐く。サヨは、消えたわけじゃなかった。

 何やら、必死にノートに書き込んでいる。その形相は、狂った殺人鬼のようなオドロオドロしいものだった。ニヤリと口角を上げたサヨに、カオルは苦笑いする。

 天才は、どこか狂っている。有名な人物の歴史を見てみても、やはりそうだ。ゴッホなんかは、自分で耳を切り落とした。

 サヨも、ある意味天才だ。原稿をしあげるのが、月刊誌で連載している漫画家の3倍の速度。それでも絵はまったく雑ではなく、漫画家の中でも画力はトップのほうだ。しかも、ストーリーも面白いときた。これを天才と呼ばずに、なんと呼ぶ?

 実の兄が妹に対して思うことではないが、カオルから見ても、周りから見ても、サヨは奇人変人の部類に所属していた。

 まぁ、警察沙汰になるようなことはしていない。大丈夫だろう。

 変わっている妹をポジティブな方向にとらえる。ノートに書き込みが終わったサヨは、満足気にカオルのほうへと歩いてきた。

「ごめん、兄さん。それで、その耳どうしたの?」

「俺もよくわかんないけど、朝起きたら生えてたんだよ」


 起きてから3時間、カオルはずっと自室に籠もっていた。

 カオルの家は、ここだ。大学にもここから通っていた。

 都内にある、編集者の仕事を目指せる短大に19歳で入学し、今年の三月に卒業した。

 いずれは引っ越すだろうが、カオルはサヨのことが心配で、家を離れるのは、もう少し後にしようと考えた。

 サヨは、ズボラだが、女子高生だ。この物騒な世の中、彼女をこの家に1人にするのは心配なのだ。


 両親は、カオルとサヨが小学生のとき、離婚した。原因は、父の浮気と母の金銭感覚だった。

 母親である公恵(きみえ)は、大財閥の令嬢だった。頭もきれる、優秀なお嬢様だった。

 父親である(つよし)は、一般市民だった。一般的な家庭環境で、平凡な人生を送っいた。

 二人が出会ったのは、2人が26歳のときだった。

 些細なキッカケで互いに惚れた。公恵は、親の反対押し切り、剛と駆け落ちした。

 その後、2人の子どもに恵まれ、剛の給料も安定し、まさに順風満帆だった。


 しかし、順調に事が進んだのは、そこまでだった。


 ある日、剛はリストラされた。剛の仕事は、給料がとても高かった。公恵は、財閥の令嬢だったこともあるのか、金銭感覚が並外れて狂っていた。

 ぱったりと止んだ家庭内の金銭の流れ。仕事は見つからず、小池家は貧しくなる一方だった。

 そんな悲しい状況の中で、剛の浮気が発覚した。

 公恵は、リストラされた上に浮気までしていた剛に腹が立った。

 剛は、公恵の狂った金銭感覚に腹が立った。

 そんな2人が長く持つはずがない。間もなく、離婚届が出されて、2人は縁を切った。


 サヨとカオルが父か母、どちらかの手に渡ることはなかった。

 両親は、サヨとカオルを捨てたのだ。

 当時12歳だったが、カオルは賢かった。

 ランドセルに、家に残っていた、最低限必要なものを詰め込み、8歳のサヨの手を引きながら、隣町に住んでいる、親切なおばちゃんのもとへと向かった。


 おばちゃんとは、剛の姉だった。

 駆け落ちなどという馬鹿げたことをした剛を、家族は見放した。しかし、剛の姉である美保子(みほこ)は、剛のことを気にかけた。

 甘やかしたりなどはしなかった。あくまでも、彼のことを見放さなかっただけの話だ。

 しかし、カオルとサヨのことは親切に接してくれた。

『生まれてきた子どもに、罪はない』

 それが彼女の口癖だった。

 家まで、そう遠くはなかった。あるいて二時間弱といったところだ。

 サヨは、ぐずったりしなかった。幼いながらも、状況を把握していたのだ。頭がよかったわけではないが、本能で感じていたのだろう。

 美保子のもとへ行くと、美保子は驚きながらも優しく出迎えてくれた。

 事情を話すと、美保子は、『そうかい』と一言言うだけだった。

 両親のことを責めるわけでも、突然訪問した自分たちを責めるわけでもなかった。

 ただ淡白に、『そうかい』と言っただけだった。


 それから8年間。サヨとカオルは、美保子と共に過ごした。

 そして、別れのときはやってきたのだ。

 美保子は、59歳で死去した。心臓発作で、突然の死だった。

 葬式の親族の中には、もちろん、剛の姿もあった。しかし、カオルもサヨも、剛と口を利くことは無かった。剛も、2人の子どもと、目すら合わせなかった。

 再び会う場所が葬式だなんて。剛はそう思ったが、20歳と16歳になる子どもたちは、親のことなど、どこ吹く風だった。

 美保子の死から2ヶ月後、サヨは中学を卒業した。ついでに言うと、オタクデビューは小5で、腐女子デビューは中学入学直後だった。美保子はそのことについては何も言わなかったが、おそらく、若干呆れていただろう。


 大切に育ててくれた伯母が亡くなって、2人の面倒を見る人物はいなくなった。しかし、カオルももう成人を迎える。サヨも高校生だ。兄妹は、協力しながら生活をすることにした。住む家は、美保子の家にそのまま住むことにした。金の心配はあったが、美保子の保険金がカオルのもとに入るように手配してあったため、節約をして、しばらくはそれで過ごしていた。そのおよそ3ヶ月後には、サヨが漫画家になった。漫画の人気はあっという間に上昇。給料はすぐに、生活できるぐらいのものに跳ね上がった。



 2人暮しの始まり―――、つまり美保子が亡くなって1年半程が経つ現在。サヨは高2。カオルは今年で21歳になり、カオルの担当である川越の勧めで、同じ出版社に入社したばかりだ。

 特に大きな事件もなく、2人は、平凡とは言えないものの、普通に過ごしていた。

 今日までは、だが。

 朝起きたらウサ耳が生えていることなんて、普通なら体験することなどないだろう。しかも、よりによって成人男子のカオルにだ。本人は否定したい気持ちでいっぱいだ。

 起きてから3時間の間、カオルはずっと部屋に籠もって悩んでいた。サヨは仕事をしているようで、カオルが部屋から出てこないことになど気づかなかった。

 結局、こうなったのだが……。


「朝起きて生えてたとか、王道の中のひとつだね。兄さん、変な薬でも飲んだの?」

「飲むか、アホ。こんな変な耳が生えてくるような薬なんて、誰も進んで飲まねぇよ!」

「いやいや。漫画とかだと王道だよ。獣耳が生える薬を飲むとか。まぁ、大抵は恋人同士とかがメジャーだけど。主に彼氏が仕掛けるけどさ」

 詳しく説明しだすサヨを抑えて、カオルは昨日から今までの行動を思い出す。


 昨日は、会社から連休をもらったもんだから、いつもより遅めに起きた。

 それから、朝食を食べて、サヨのネタ生産の手伝いをさせられた。

 彼女に電話して、昼食を取って。

 で、スーパーに買い物に行って。

 怪しい美青年に十字路でぶつかって、………ぶつかって、それで…………、



「ぁっ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「、っ!? に、兄さんどうしたの、急に大声出して!? 心臓に悪いんだけど!」

 かつて無いほどの大声で叫び出したカオルに、サヨは驚愕する。

 しかし、そんなサヨを尻目に、カオルは2階の自室へと走り出す。


 そうだそうだそうだ! あの美青年だ! ぶつかったお詫びにと、革ジャンの裏ポケから出した可愛く包装された小さな飴玉を貰ったのだ。怪しく思ったが、飴を舐めるのが久しぶりで、つい口に入れてしまったのだ。おいしかったが………。

 自室のドアを開けて、机の上に目をやる。

 そこには、昨日の飴が包装されていたフィルムがあった。昨日、飴からフィルムを剥がしたときに、フィルムになにか字が見えた。そのときはあまり気にしなかったので、ポケットに突っ込んだ。家に帰ってきたときに机の上に出してそのままだったのだ。

 パステルカラーの可愛いフィルムの裏側を見てみる。そこには、文字が書いてあった。


『飴を舐めて何か作用があったら、ここに連絡を!↓↓

                     ○×○-△△………』


 その言葉の下に、携帯の番号が書いてある。

 カオルはポケットから携帯を取り出し、番号を押そうとした。

 しかし、ボタンを押しかけたところで、はた、と思う。

 ここに連絡をしたら、俺は人体実験でもされるのではないだろうか……? もしかしたら、あの美青年は極道なのかもしれない。ドラッグを密売してたり……。

 さまざまな不安がよぎっる。顔からは、暑いせいなのか、それとも別のことのせいか、汗が噴き出す。背中に汗が伝う。

 どうすべきなのだろうか……? 日数が経てば、この耳は消えるのではないだろうか? しかし、もし消えずに、ウサギ化が進むようなものだったらどうする? 俺は人として人生を終えるのではなく、ウサギとして人生を終えるのか…?

 蒸し暑い部屋の真ん中で、携帯と飴のフィルムを片手に悶えていると、サヨがやってきた。

「あっづーぅ……。兄さん、どうしたの急に叫んだり走り出したり……。あれ、何その包装フィルム。飴の? 見せてー」

 苦悩に身悶えしているカオルの手から、サヨがフィルムを奪う。そこにある文字を読んで、(おもむろ)に携帯を取り出して番号を打っていく。

 そんなサヨを見て、カオルが携帯を取り上げようとした。


「っ、おまっ、かける気か!? やめとけアホ! 相手が極道だったらどうすんだ!」

「そんなこと知ったこっちゃない! こんな面白そうなことを、ネタに飢えている漫画家が逃すわけにはいかないんだぁ! ちょうど新しい章にうつるから、この話をネタにする! たとえ相手が極道だろうと、締め切り直前の担当さんに比べれば怖くないやい!!」

 わけのわからないテンションで、カオルの手から逃れるサヨ。

 そして、外線のボタンを押す。


 カオルは、終わった、と思った。自分の人生は人体解剖をされて終わるのだ…。走馬灯が目の前に見えて、なんだか無性に笑いたくなってきた。

 相手が出るのを待ってる間の沈黙。カオルは居た堪れなくなった。

 しばらくしてから、相手が出たようだった。

 サヨが笑顔になる。

「もしもし! …………………ぁっ、ハイ。妹です…、あ、はい。今代わりますねー。ん、兄さん。あたしの名前知ってたけど、友達?」

 数秒の会話をしてから、ズイ、と携帯を寄越される。震える手でそれを受け取り、覚悟を決めて、携帯を耳にあてる。


「…代わりました」

『こんにちは、小池 郁さんですね? 昨日はどうもすいませんでした』

「え……、? あの、」

『作用、どうでしたか? なんの耳でした?』

「ぁ、ウサギの耳でした……」

『ウサギですか! 貴方の容姿にはさぞかしお似合いでしょう!』

「い、いや、そうでも……」


 相手は、相当手慣れているようだった。流れる川の如く話が進んでいく。カオルは、相手のペースに呑まれかけていた。

 しかし、なんとか話を遮り、質問をぶつけた。


『一度見てみたぃ――』

「あ、あの!」

『はい?』

「なんで俺の名前、知ってるんですか? しかも、妹のまで、」

 その問いに、返事はすんなり返ってきた。

 しかし、それは相当違和感があるものだった。

『あぁ、すいません。僕、一方的に話を進めてましたね。喋りだすと止まんなくて……』

「は、はぁ…」

『僕の妹が、情報屋を営んでいるものでしてね。貴方のことも、妹さんのことも知ってますよ』

 情報屋なんていう単語が聞こえてきて、戸惑う。情報屋なんて、漫画やアニメの中だけのものじゃないのか?

 そんなカオルのことなど、電話越しでわかるはずもなく。相手は話を進めてく。

『僕の名前は、初鹿野(はじかの) (れい)です。表社会には出回らないような厄介な依頼を、すべて引き受ける、裏社会の何でも屋です』

 カオルは、電話の向こう側にいる彼が言っていることが、信じられなかった。それこそ、本当に二次元のようなことだ。誰は信じられるものか。信じられるのは、二次元好きな奴らぐらいだ。現実味など、全く感じなかった。

 そんなカオルのことも知らずに、麗と名乗る人物は言った。

『お電話、ありがとうございます。今回、貴方に使わせていただきました』

「な、何を……」

『動物キャンディです』

 なんともファンシーな名前が聞こえてきて、間が抜ける。そのまますぎる気もするが、そこにはつっこまないでおこう。名前の由来とか語りだされても困る。

『貴方に渡した飴は、特殊な薬が含まれています。その動物の遺伝子を採取し、特殊な加工で薬にする。それを飴に入れたんですよ。気分はどうですか?』

「……つっこみたいことは色々あるんだが、まず最初に言わせてほしいことがある」

『なんですか?』



「なんでもいいから、この耳をどうにかしてくれ!!」


 そう言うのが、今のカオルの精一杯だった。






                           ****!?!****  







 カオルとサヨは、指定された場所へと向かっていた。

 初鹿野 麗が指定した場所は、廃屋だった。都心から大分離れている、一般人なら近寄らないような所だった。そう、言ってしまえば、裏で働いている人間の溜まり場。

 麗がなぜそんなところを指定したのかは定かではないが、とりあえず向かうことにした。

 本来ならカオルだけ行けばいいのだが、サヨも着いてきた。連れてきたわけではない。本人が引っ付いてきただけなのだ。どうなっても知らないぞ、とカオルに言われたが、サヨは返事もそこそこに、ショルダーバッグにノートと筆箱、デジカメを入れていた。

 サヨは落ち着きがない様子だが、カオルは違った。今から何をされるのかわからないのだ。不安になってもしょうがないだろう。

 麗は、話している感じでは悪い人ではなさそうだった。しかし、それは電話越しでという話。実際は、根っからの悪人だったりするかもしれない。カオルが一番恐れているのは、それだった。


 1時間半ぐらいで、廃屋についた。

 真っ昼間だというのに人気はなく、辺りは静まり返っていた。カラスの鳴き声が木霊して、恐怖心を煽る。

 ビビリつつ、麗の姿を探す。

 と、廃屋の錆びついて中途半端に開いているシャッターの横に、人の姿を発見した。目を凝らしてみると、昨日の美青年だった。たぶん麗だろう。カオルとサヨに気づいて、爽やかな笑顔を浮かべながら手を振ってくる。

 そんな麗の姿を見た瞬間、サヨの目が変わった。とっさに猛スピードで駆け出し、麗に近づく。カオルもそんなサヨを止めるべく走った。フードが捲れないように手で押さえる。人はいないものの、ウサ耳をさらすのは御免だった。


「わぁぁあっ、麗さんですか!? 初めまして、小池 紗代です!」

「はじめまして。サヨちゃんは元気だね」

 興奮で頬を紅潮させているサヨに、麗は笑いながら言った。

 麗のことを、改めてカオルは観察する。

 容姿端麗、眉目秀麗、長身痩躯。漆黒の髪はツヤがあり、肌の色は白く、睫毛が長い。中性的な顔立ちにも見えるが、(れっき)とした男だ。

 真夏の太陽の下、麗は真っ黒な出で立ちをしている。革ジャンの前を開け、下には濃い灰色のTシャツ。黒のスキニージーンズを履いている。首元にはネックレス。

 傍にいるだけでも妊娠しそうなくらい、フェロモン垂れ流しだ。ここまで絵に描いたような男が世の中にいるのだろうか?

 麗の姿に呆然としていると、控えめな声が聞こえてきた。

 驚いてそちらを見ると、麗が困ったようにカオルを見ていた。


「あの、そんなにジロジロ見られると、さすがに僕も恥ずかしいんだけどなぁ……」

「あっ、す、すみませんっ、」

 とたん、自分まで恥ずかしくなる。いつのまにやらフードが取れていた。真っ白な耳が垂れ下がってきて、視界を遮る。あぁ、邪魔だ。

 手で上に持っていきつつ、本題に入る。

「この耳、どうにかなりますか?」

 その質問に、麗は即答した。

「うん。中和剤を飲めば一発だよ」

「ほっ、本当ですかっ!?」

「ただし」

 喜々とした表情を浮かべるカオルに、麗は人差し指を向けた。

 そして、続けられた言葉に、カオルは絶望した。

「そう簡単に中和剤を渡すわけにはいかないんだ。僕も、何の目的無しに君に動物キャンディを渡したわけじゃないんだ」

 交渉だった。

 あまりにも麗がナチュラルに話すものだから、カオルはすっかり忘れていたのだ。麗が裏社会の人間であるということを。やっていることは完全に犯罪であり、警察にバレれば即逮捕。見た目は普通でも、中身は相当ヤバい。

 そんな人物が、目的無しにこんな怪しい行動をとるわけがない。

 カオルは、あまりの仕打ちに、眩暈がした。自分が一体何をしたというのだ。

 そんなことを思った時点で、答えなど出るはずが無く。相手は法に触れたことを平然と成し遂げる奴なのだ。聞いたところで、返ってくる答えは耳を塞ぎたくなるようなものなのだろう。

 深い、深い溜息をつく。今日で何度目の溜息だろうか。

「おやおや。そんな大きな溜息を吐いて。幸せが逃げるよ?」

 爽やかな笑みで、麗はカオルに言う。

 溜息の原因が、何を言う。

 カオルは、憎しみの感情をたっぷりと込めた声と表情でそちらを見る。

「……幸せなんて、アンタのおかげでとっくに逃げてますよ」

「あはは。それは参ったねぇ」

 そんなカオルを見て悪びれる様子も無く、麗は微笑した。あぁ、なんと憎たらしい。

 カオルの心情に気づいているのだろう。しかし、おかまいなしに麗は話を切り出す。

「君に動物キャンディを渡したのは、僕の『目的』に付き合ってもらうためなんだ」

 カオルは、もうどうにでもなれ、と自暴自棄になった。最高のネタを目の前に興奮しているサヨをを一瞥し、麗に向き直る。

 その顔は、とても真剣で、漆黒の瞳には、僅かな復讐心が垣間見えた。

 カオルは思った。


 どうやら、自分の周りには奇人しかいないようだ。


 どう足掻いても逃げられない状態に、カオルの口からは乾いた笑いしか漏れなかった。






 麗の目的は、『動物キャンディの回収』。麗の知り合いである科学者からの依頼だった。

 動物キャンディが作られたのは、3年前のことだった。その元である薬品の実験は、10年も前だ。

 元々、動物キャンディの主成分である『薬品』のことを知る者は、両手の指の数ほどしかいなかった。それは、その『薬品』の製作者―――、科学者の露木(つゆき)が、実験のことを知られたくなかったからだ。知られれば、それは恐ろしい目的に使われることになるだろうと、予測をしていたからだった。

 動物の遺伝子を徹底的に調べ上げ、何度も組み換えをし、ついに、その『薬品』はできた。それが、動物キャンディの主成分である、『野生本能鋭敏剤』だった。実験開始から、6年が経っていた。動物キャンディが作られたのは、薬品ができあがってから1年経ってからだ。

 ただし、その段階での『動物キャンディ』は試作品に過ぎなかった。人体実験では、まだいくつか改善点があり、正しく使用しても、致死率は高かった。


 そんな、歴史をひっくり返すような実験のことを、関係者全てが内密にすることなど、不可能だった。


 関係者の中に、裏切り者がいた。そいつは、まもなく上に潰されたが、流出しだした情報を止めることは、できなかった。

 薬のことは、たちまち裏社会全体に知られ、露木や関係者に手を出す輩が一気に増えた。

 試作品であった動物キャンディは、麻薬密売者や不良などに全て奪われてしまった。

 露木と麗が知り合ったのは、そのときだった。

 依頼のためには手段を選ばない、裏社会の何でも屋の話が、そのときの露木の耳に飛び込んできた。

 当時、まだ二十代半ばだった露木は、必死にその人物のことを詮索した。

 そして、成人したばかりだった麗のことを見つけた。



 依頼を引き受けたのは、2年程前のことである。それから今日まで、他の依頼もこなしつつ、麗は露木の依頼である動物キャンディの回収を、その細身ひとつでしていた。

 話を聞いたカオルは、絶句した。

 麗のすごさにも、裏社会であったことも。

 サヨも、二次元のようなことが目の前で起こっていて、流石に処理しきれていなかった。

「奪われた動物キャンディの7割は、もう回収できてるんだ。だけどね、残りの3割は、まだ回収できてない。もちろん、使われてしまったキャンディは含めてないよ。使ってしまった薬を拾い上げるのは、不可能だ。でね、その未回収のキャンディなんだけど、居場所は掴めてるんだよね」

 そう言う麗に、カオルは思った。

 居場所が掴めているのならば、回収しに行けばいいじゃないか。どうしてそこで自分が使われるのだろうか。全く理解できない。

 カオルの思っていることがわかったのか、麗が笑いながら言った。

「なんでそこで自分が使われるのか、って思ってるみたいだね。まぁ、思わないわけがないか。でもね、この目的には、君は重要なんだ」

 麗の言葉に、カオルは眉をひそめる。重要? どうして回収に自分が必要になるのだ?

「その薬、まだ効果が出てきてないだけだよ」

 その一言に、耳を疑いたくなった。

 効果が出ていないとは、どういうことなのだろうか? 耳は出ているじゃないか。


「野生本能鋭敏剤、だよ。ただ単に獣耳を出すためのものじゃない。そんなくだらない目的で作られたものじゃないからね。

 その(アメ)は、現代では衰えてしまった野生本能を活性化させるためのものなんだ。まぁ、野生本能といっても、人間のものを刺激するわけじゃないけどね。野生の動物のものだよ。薬品に含まれている動物の遺伝子を体内に取り込み、それが脳を刺激する。そうすると、その薬に使われていた動物の遺伝子が、脳のある部分にコピーされる。そっくり、そのままね。で、使用者はその動物の五感と、鋭い『野生の感』を手に入れることができる。中和剤を飲むまでは、効果が衰退することはないよ」

 カオルは理解できたが、サヨには理解できなかった。

 そんなサヨのために、麗が内容を噛み砕いて説明してくれた。

「つまり、動物キャンディを使うと野生動物のように、周りの物事に過敏になるんだ」

 そう言われて、サヨはやっと理解できたようだった。

 彼女は、複雑な内容の漫画を描くことはできるが、他のことになると頭が硬かった。カオルは、そんなサヨに若干呆れていた。

 しかし、今は妹に呆れている場合ではない。

 つまるところ、カオルの五感はウサギと同様になろうとしているのだ。

 見た目までウサギになってしまうのではないか、と焦る。

 だが、動揺しているカオルに、麗は言った。

「大丈夫だよ、カオルくん。見た目は、耳以外の部分が変わることがないから」

 その言葉に、ほっとする。しかし、どうして耳が生えるのだろうか?

 それには、ちゃんと理由があった。

「動物の耳の形って、ちゃんとした理由があるんだよ。音を聞き取りやすくしたりって。だから、耳だけは生えるようにしたんだってさ。器用なもんだね、科学者って」

 それに納得する。

 でも、だからってなぜウサギを使った?

「うさぎの耳って、長いでしょ? じょうご形って言って、集音効果が高いんだって。だから、小さな音も聞き逃さない。で、左右の耳を別の方向に向けて音を聞き分けることができる。今回の目的にウサギの動物キャンディを使ったのは、ウサギが最も適していたからだよ」

 そう言う麗に、カオルは感心する。そこまで、ちゃんと考えていたのだ。話を聞いていて思ったのだが、麗は相当頭がいいようだ。裏社会でやっていけてるのだ、当然だろう。

 ならば、自分を選んだ理由もあるのだろう。

 なんとなくテンションが上がってきた勢いで、麗に聞いてみる。

「じゃあ、その目的に俺を選んだのにも、理由はあるんだな?」

 その問いに、麗はキョトンとした。

 それから、すぐに人の良さそうな笑みを浮かべながら、答えを返してきた。


「いや、特に無いよ。カオルくんがウサ耳似合いそうだったからっていうだけの話。ほら、ヴィジュアルって、結構大事じゃない?」


 サラっと言い放つ麗に、カオルは絶望した。

 前言撤回だ。麗は相当頭がヤバイ。

 落ち込む自分の隣で、麗に激しく同意している妹を、存在ごと否定したかった。





                           ****?!?****





 翌日。カオルとサヨを、麗が家まで迎えに来た。

 昨日の交渉で、結局、カオルは協力することになってしまった。中和剤を出されてしまったら、有無など言えない。言わずもがな、カオルは使われることになったのだ。

 薬の効果は、はっきりと出ていた。

 周りからだとわからないが、カオルには、絶大な環境の変化だった。


 第一に、視覚。目の位置が変わったわけでもないのに、やたらと広く見える視野。ウサギは横に目があるから視野が広いのだが、人間は違う。なのに視野が広がったのは、ものすごく謎だった。

 第二に、嗅覚。今まで嗅いだことの無い臭いが、周りに充満していた。動物の嗅覚とは恐ろしいものである。

 第三に、味覚。いつもより味の感じ方が違った。麗に聞いたところ、ウサギの味蕾(みらい)は人間の倍ほどあるらしい。

 第四に、触覚。ウサギの場合は頬ひげだが、カオルは、その薄い体毛でウサギのひげの部分を補っていた。ウサギと同じように、身体の表面全体で刺激を感じているらしく、身体の一部に何か刺激があると、全体にそれが伝わっていった。ちなみに、服を着ても感覚はそんなに変わらなかった。

 第五に、聴覚。これが一番の変化だった。昨日の麗の言うとおり、どんなに小さな音だろうが、左右で別の方向の音だろうが、聞き取れてしまうようになった。

 そして、聴覚については、驚きだった。音を聞き取るのが、すべてウサギの耳になったのだ。人間の耳もついているが、全く機能していない状態だ。ウサ耳を塞いでしまえば、無音になる。違和感はなかったが、おかしな気持ちだった。



 カオルがその事を話すと、麗は満足気な表情をした。恐らく、感覚がウサギの五感に変わらなければ意味がなかったようだ。

 薬の回収先は、都心から離れていた。昨日の廃屋と同じような場所らしい。説明だけでは、すべてを把握することは難しい。

 薬を隠し持っているのは、大きな組織ではないようだった。少数で作り上げた、小さなグループ。しかし、一人一人の知能は高く、喧嘩も強い。正直、カオルが向かえばすぐに返り討ちにあうだろう。唯一頼りなのは、麗がいることと、五感だった。

 下手をすれば、殺されるかもしれない。

 カオルが心配なのは、自分の身より、サヨだった。

 こんな危険なことに、大事な、たった一人の『家族』を巻き込むだなんて、カオルは情けなかった。サヨに何かあったら、堪ったもんじゃない。

 それでも付いてこさせたのは、サヨが頑なだったからだ。

 どうしても、と、サヨにしては珍しく駄々を捏ねた。サヨは、小さいときから駄々を捏ねたことなどなかった。自由奔放でズボラなサヨだったが、我侭を言ったことはなかったのだ。

 妹が初めて捏ねた駄々。

「お兄ちゃん心配だから、ついていく」

 その言葉は、カオルには

『独りにしないで』

 としか聞こえなかった。

 こんな危険なことに巻き込みたくなかった。

 だけど、

 自分が殺されるわけにはいかない、そう思うために、サヨの存在は重要だった。


 ピリピリと張り詰めた空気が漂う車内。

 目的地についた途端、緊張が嫌に増した。

 車から降りて、廃屋を見上げる。所々錆びれて、虚しいほどに活気はなかった。

「じゃあ、さっそく回収に行こうか」

 恐怖など感じないのだろう。麗は歩き出す。遅れないようにとカオルも足を出したら、急に、手を取られた。

 驚いて、そちらを振り向く。

 サヨが、カオルの手を握っていた。

「……サヨ」

「……………こんなところで、死なないでよね」

 強がったその声は震えていた。

 俯いて顔が見えないが、泣いているのは確実だった。

 そんな妹を見つめてから、そっと、頭を撫でてやる。


「兄ちゃんは、サヨを独りにしたりはしないよ」


 昔、よく言った言葉が、口から漏れる。

 美保子がいても、それでも、サヨの寂しさが完全に埋まることなどなかった。

 ひとり部屋で泣きじゃくっていたサヨを、そういうふうにしてあやした。

 何年ぶりだろう。こんなふうに、彼女が弱い姿を見せたのは。

 物思いに耽ってから、カオルがサヨから離れる。

 そんな兄が、酷く優しいのが辛くて。


 美青年の後をついて歩く、ウサ耳を生やした兄の姿は、とても滑稽なのに、


 硬く結んだ口元の横を、ツゥ、と涙が零れた。





 5階建ての廃屋は、ガランとしていた。この建物の3階の物置に、薬は保管されている。静かだが、人はいる。2階から、やけに大きな声がしている。真っ昼間から酒を飲んでいるのだろう。

 麗は、カオルに小声で説明した。小声でも、はっきりと聞こえるのはウサ耳のおかげだろう。

「今から、薬の回収をしに、3階に向かう。アイツらは酔っていて騒いでるから、ちょっとのことじゃあ気づかないだろう。監視カメラがあるわけでもない。よっぽど迂闊なことをしなければ、見つかる心配はないよ。ただ、警戒はしてね。見つかると厄介だから。相手は、腕っ節も頭もいいからね」

 それに頷く。

 見つかれば最後、カオルはぶちのめされるだろう。

 無事に帰りたいならば、見つからないように慎重に行動しなければならない。

 

 さっそく、回収作業に移った。

 回収作業は、至って簡単なものだ。3階の物置に侵入し、薬の入った箱をそのまま持ち出す。

 だったら、カオルがいなくてもできるだろうと思うだろう。

 しかし、この作業に、カオルの存在は必須だった。

 一番の理由は、聴覚と嗅覚だ。

 動物キャンディは、もちろん甘い。口に含めば、の話だが。大抵の飴は、甘い匂いがするだろう。だが、動物キャンディは、主成分が薬剤のため、人間の嗅覚では感じられない微量の香りしかしないそうだ。ウサギの嗅覚だと、その匂いが嗅げるらしい。物置の大量の箱から動物キャンディを見つけるのは、その箱を漁らなければならない。それでバレるのも面倒だそうだ。

 聴覚は、言わずもがな、相手に見つからないためだ。どんなに小さな音でも聞き逃さない。よっぽどの騒音に紛れなければ、小さな音でも聞こえる。

 足音を成るべく立てないよう、素早く、慎重に階段を上がる。2階にある階段を上がるときに、人影が見えてヒヤヒヤしたが、カオルたちには気づかなかったようだった。

 しかし、このとき、カオルは知らなかった。


 相手のグループの一人が、自分たちに気づいているということを。


 3階の物置に入り、さっそく、動物キャンディを探す。

 たくさんの薬物が保管されているらしく、臭いが紛れて、なかなかわからない。

 嗅覚に意識を集中させる。麗に嗅がせてもらった動物キャンディのサンプルと、同じ臭いを探す。

 部屋の隅にあった箱に近づいたとき、それは見つかった。

 他のダンボールより一回り小さい箱に、動物キャンディがぎっしりと入っていた。可愛らしい飴玉が、今は凄く恐ろしく見える。

 見つけた、と麗のほうを振り返ったとき。

 そこに、麗の姿は無かった。

 不審に思って、物置の入り口へと、少しずつ向かう。が、途中で足を止めた。

 行くなと、脳が指令を出していた。物置を出た瞬間、殺されるぞと。

 今までなかったことに、カオルは冷や汗がどっと出た。

 これが、野生動物の本能なのだと思った。厳しい自然界で生きていくために大切な『道具』。

 外の状態も、だいたい予測ができた。


 相手が、こっちに気づいてやって来たのだ。

 気づかれていないと思っていた。だが、その思いが一番迂闊だった。

 誰かが気づいていたのだ。自分たちの存在に。

 外からは、声が聞こえる。

 よく耳を澄まさなくても、発達した聴覚は音をすぐに捕らえた。


『……薬を回収しに来たんだろ?』

『まぁね。あれは危険なものだから』

『危険? んなわけねぇだろ。どうせ、ハッタリだろ? オレたちを騙すための』

『残念ながら、オレたちは騙されないヨ。あの薬、もう何回か使ったシ。アレ売っても、死人が出たなんて話、聞いたこと無いシ』

『………ヘェ? 使ったんだ』

『おうよ。アレ、スゲェな。野生本能が活性化されるとかで? オレたち、アレで大分遊べたぜ。警察が来るのもすぐわかるしな』

『っま、ほとんどパッとしないような動物ばっかだったから、使ったのは凶暴なやつだけだったけどな。中には反応しないのもあったし』


 麗を省いて、声は三人。相手は三人いるようだ。

 まだ危害は加えてないらしいが、麗が触発するようなことを言ったりしなければ、大丈夫だろうか?

 そんなことを考えてから、カオルは首を振る。

 そんなわけない。相手は、平気で法を破るような奴らだ。物置にある薬など、麻薬が主だった。

 自分が出たところで、状況が変わることは無いだろう。殺されて、このことはなかったことにされる。

 と、考え込む頭に、ある情報が耳から流れ込んできた。


『取引、しようか』


 麗の声だ。その声は、いつもどおりで、危機感など全く無かった。

 脱力したが、続きに耳を澄ます。

『僕は今、動物キャンディの進化したものを持っている。これは、あらゆる動物の遺伝子を、その体内に取り込むことができる。もちろん、耳が生える、などの作用はない。体の部分がかわることはないよ。脳に、新たな能力を取り込む、と言うのが一番正しいかもしれない。今までのものと違い、飲んだら効果は死ぬまで切れない』

『……つまり、ソレを飲めば世界最強になれるというわけか?』

『まぁ、そういうことかな』

 今の言葉は、無視できなかった。

 世界最強?

 ただの薬が入った飴を舐めるだけで?

 カオルは、眉根を寄せた。

 そんなわけがないだろう。しかし、自分の体に起こった変化を見る限り、絶対に無いとは言い切れない。

 引き続き、外の情報を拾い上げる。

『これを飲めば、あの薬はもう必要なくなるだろう? だから、これをあげるよ。その代わり、あの薬は回収させてね?』

 麗の言葉を聞いてから、数秒の間があった。

 それから返ってきた答えは、『いいだろう』だった。

『先に薬を渡せ。回収は、それからだ』

『疑り深いんだね。僕は、そんなホラを吹いたりしないよ』

 カサリ、と小さな音がした。

 相手が歓喜の声をあげている。薬が相手に渡ったようだった。

 麗が物置に入ってくる。

 カオルは、飄々(ひょうひょう)とした表情で帰ってきた麗に駆け寄る。

「け、怪我は……?」

「ないよ。薬を渡したら、彼らは回収を許してくれた。優しい人たちだね」

 ニコニコと笑う暢気な麗に、カオルは溜息を吐く。

 あぁ、なんて危機感の無い人だろう。

 相手が裏切って、逆に襲ってきたりする恐れもあるというのに。

「回収完了っと。じゃ、さっそく外に出ようか」

「そうですね。こんなとこにいるのは、気がおかしくなりそうだ……」

 と、箱を持って物置から出たとき。


「って、メ、………ハメやがっ、ぁが、ぐふゥ……っっっ!!! ………」

「っ、!?」


 入り口の前で、三人の男が血を吐いて倒れていた。

 予想だにしない光景に、麗のほうを振り向く。

 しかし、麗は顔色ひとつ変えず、笑みさえ浮かべていた。

「れ、麗、さん………?」

 カオルの口からは、搾り出したような震える声しか出なかった。

 そんなカオルに、麗は平然と説明する。

「この人たちにあげたのは、動物キャンディじゃない。ロルカム錠っていう薬の大きな塊だ。これ、劇薬なんだけどね。正常な胃に入れるものではないね。大きな塊だから、摂取基準の倍の量だったと思うよ。胃が狂って、吐血しちゃったんだろう」

 いつもどおりの笑みを浮かべながら、呻きながら死んでいった男の隣に前屈みになって立つ。

 それから、言った。


「哀れだねぇ。こんな死に方をするなんて。まぁ、そう簡単に世界最強になれるなんて思うほうも悪いよね。ごしゅーしょーさま」


 ケラケラと、乾いた笑い声をあげる麗。

 その姿は、悪魔そのものだった。

 そんな麗に、カオルは、沸々と怒りが沸いてきた。


 どうしてコイツは、こんなに簡単に人を殺すことができるのだ。

 どうしてコイツは、人の命を大事にしないのだ。


 自分たちを育児放棄した親を思い出す。

 アイツらも、目の前にいる悪魔と同じだ。

 小さな命を捨てた、鬼。

 あまりの怒りに何も言えないでいると、麗がこちらを振り向いた。

「カオルくん、怒ってるね」

 その一言に、(はらわた)が煮えくり返るような思いだった。

 そんなカオルを尻目に、麗は言う。

「そりゃあ、そうか。人を殺したのに、笑っていられるなんてね」

 わかっている麗に、さらに腹が立った。

 しかし、続けられた言葉に、カオルの怒りは消えた。

「僕は、たくさんの人間を(おとし)めて、殺してきた。それが、僕の仕事だからだ。生憎、僕は人を殺しても罪悪感を感じる人間じゃない。そこからおかしいのかもね。でも、僕たち(・・)はそうやって育ってきた。今更それを変えることなど、不可能だ」


「平然と人間を殺せる人間が―――――僕が、この世で息をしているのが、可笑しくてたまらないんだ」


 その顔に、人間らしい表情はなかった。

 まるで、人形のような表情。

 生気など、微塵も感じられなくて、


 カオルは、そんな彼が酷く哀れでならなかった。








 車に戻ると、サヨは寝ていた。その頬には、涙の筋が乾いた跡があった。

 妹の隣に座る。しばらくしてから、車が動き出した。

 もう日が落ちる頃だった。夏場故に、日暮れは遅い。まだ薄明るかった。

 車の中は、静かだった。聞こえるのは、それぞれの息遣いと、エアコンの音、それからエンジン音だけだった。


 家に着いたのは、七時過ぎだった。

 サヨを起こしてから、家に上がらせる。

 玄関先で、カオルと麗は、最後の会話を交わしていた。


「こんな危険なことに巻き込んじゃって、ごめんね」

「ホントですよ。こんなのは、もうこりごりですよ」

「えー、でも、儚い人の栄華で、こんな経験はそんなにないよ?」

「こんな心臓に悪い経験は、しないほうが得です。寿命縮む」

「あっはは、そうだね。君は、『一般人』だ。僕とは違う」

 麗の一言で、途切れた会話。

 カオルは、悲しくなった。

 麗に何があったかはわからない。だけど、とても辛い思いをしながら生きてきたのは確実だ。人を殺さなければならなくなったのは、本人の意思かもしれないが。

 それでも、麗にそう思わせた神を、カオルは恨みたかった。


 黙り込んでしまったカオルに、麗は困ったような表情をした。

 それから、そっと、カオルに小さな袋を渡した。

「中和剤。約束だからね」

「あ…。ありがとうございます……」

 嬉しいはずなのに、カオルには何かがつっかかっていた。

 そんなカオルを慰めるように、麗は肩をすくめながら言った。

「君が心配するようなことじゃないよ。僕は、これからもこの仕事を続けなきゃいけない。辛いとも思わないしね」

 麗の言葉に、少しだけ楽になった。

 垂れ下がっていたウサ耳が、ピンと立った。それを見て、麗が笑いを漏らす。なんとなく、恥ずかしかった。

 別れ際に、麗はひとつだけ、カオルに自分のことを教えた。


「僕の妹ね、サヨちゃんと同じ歳なんだ」

「はっ!? 高2!?」

「うん。嫌われてるんだけどね、僕」

「なんでですか?」

「さあ? よくわかんない」

 麗の答えに、脱力。カオルは、麗に脱力してばかりだった気がする。

 しかし、続けられた言葉に、カオルは共感することができた。


「でも、僕の大切な妹だから。見捨てたりはしないよ」


 そのときの麗は、『兄』の顔をしていた。

 そんな麗を見て、カオルは嬉しかった。


 麗だって、ちゃんとした人間なのだと、思えたからだ。

「じゃあ、僕はもう行こうかな。あそこの処理もしなきゃいけないしね」

 そうだ、まだあの男たちは転がったままだろう。

 男の姿を思い出して、胸が痛んだ。

 また落ち込むカオルに、麗が呟いた。

「君が殺したわけじゃない。あの状態で助けるのは、不可能だったよ。だから、気に持たないでね」

 そう言って、麗はその場から去っていった。


 手にした中和剤を握って、それから、頭にあるウサ耳に触れる。柔らかくて、温かい。

 夢のような出来事だった。自分にウサ耳が生えて、五感が変化して、人が目の前で死んで。

 生きている心地など、全く無い。

 肺に溜め込んでいた息を、一気に吐き出す。

 それで緊張の糸が切れたのか。どっと、眠気が襲ってきた。


 千鳥足で自室へと向かい、そのまま、部屋で倒れた。




 その後のことを話そう。

 カオルのウサ耳は、中和剤の効果で消えた。サヨは露骨に残念そうな顔をしていたが、それでも、漫画のネタが手に入り、満足したようだった。

 昨日は生死の境に立っていたというのに、それはまるで、嘘のようだった。

 会社でバリバリ働いたり、嫌々ながらも勉強をしたり、大事な大切な家族と日々を重ねて。

 時間は変わることなく流れ続ける。人の意思に反することも、従うこともせずに。


 カオルは、やはり麗のことが気になり、あの電話番号を何度か打ってみた。しかし、幾度かけても、彼が電話に出ることはなかった。


 気がかりなこともたくさんあったが、それは、記憶の奥底に沈めた。

 もう、関わり合うことなどないのだ。

 カオルと麗では、生きていく場所から何まで、全く別なのだ。一々気にしていたら、自分の人生を歩めないだろう。

 原稿を仕上げて騒いでいる妹に苦笑しつつ、カオルは、空を仰いだ。




 清々しい青空には、入道雲が映えていた。







「ただいまー」

 真夜中の玄関に、自分の声が木霊する。下駄箱の上に置いてある時計は、深夜2時を示している。

「さすがに、この時間じゃあ寝てるか………」

 ポツリと呟いて靴を脱ぐ。

 薬の入った箱を片腕に抱えながら、リビングのドアを開けた。

 ソファに、ノートパソコンを膝に乗せた少女が座っていた。麗の妹だ。

 その姿を見て、顔が綻ぶ。しかし、少女は振り返りもせず、そのまま画面と睨めっこだ。

 いつものことだ。

 麗は、そのまま部屋へと入った。

 箱を床に置いてから、風呂場へと向かう。

 仕事から帰ってきたら、即行風呂だ。麗の仕事は、不潔な場所で行うことがほとんどだ。潔癖症ではないが、それでもシャワーぐらい浴びたい。


 30分ほど浴槽につかり、着替える。まだやることが残っていたので、とりあえず、スラックスと七分丈のシャツを身に着けた。

 再度リビングに戻る。妹はやはり、パソコンと見つめあっていた。

 紅茶を淹れてから、少女の向かいのソファに腰掛けた。

 そんな麗にちらりと視線を向けて、美麗な顔を(しか)めた。

「………今日も、五体満足で帰ってきたのね」

「うん。今回は余裕だったよ。まぁ、(かおる)くんのおかげもあるけどね」

「…骨の一本や二本折ってくればよかったのに」

 少女――――、(りょう)の口から出てくる言葉は、トゲのあるものばかりだ。しかし、それが当然かのように、麗は言葉を返す。

「痛いのは嫌いだなぁ」

「痛みも感じないくらい酷い怪我してきなさいよ」

「怖いこと言うなぁ、涼は。お兄ちゃん泣いちゃうゾ?」

「外に放り出すわよ」

 はっちゃける麗を睨みつける涼。

 そんな妹に、麗は笑みを浮かべる。

 機嫌が悪い涼を尻目に、麗は仕事の報告をした。

「薬は、ちゃんと回収してきたから」

「あっそ。で、郁さんに中和剤は渡してあげたの?」

「うん、あげたよ」

 頷く兄に、涼は溜息を()く。


「アンタも、ほんと悪趣味ね。顔も合わせたこともない人間に研究段階の危険な薬を渡して、どうなるか楽しんでたなんて」

「楽しんではないよ。ただ、郁くんが生きるか死ぬか、賭けをしただけだ」

 にこにこ笑いながら厄介なことを言う麗に、涼は嫌気が差した。

 本当に、悪趣味だ。

「ちゃんと生きてたけどね。人の命ってすごいねぇ」

「平気で人の命を奪うアンタに、命の凄さを語る権利はないわよ」

「ふふっ。厳しいなぁ、涼は。まぁ、そのとおりだけどね。涼も僕と変わんないよ」

「…一緒にしないで」

 麗は、口は笑っているが、目は笑っていなかった。

 その目は、殺意と哀れみが混ざり合ったものだった。


「でも、僕たちがこんなふうになってしまったのは、他でもない両親のせいだ。僕が悪いわけでも、涼が悪いわけでもないよ」

「…………聞き苦しい言い訳ね」


 ニヒルな妹に痛いところを突かれて、苦笑する麗。

 しかし、言い訳とは言い切れなかった。

 麗と涼は、小学生のころ、両親に捨てられた。その時のことを、2人は未だにはっきりと覚えている。

 体を打ってくるその雨は冷たくて。

 振り返りもしない両親の背中に、小さな殺意が芽生えた。

 それは、歳を重ねていくごとに、学力が向上していくと共に、育っていった。


 そして今。

 麗と涼は、裏社会で活躍しながら生きていた。

 両親に復讐するために、裏社会に入った。


 両親の居場所など、とっくに知っている。道具が揃わなかっただけだ。

 あと少しすれば、自分たちを見放した奴らに復讐を果たせる。2人の闘志は、静かに燃えていた。



「あと少しだね、涼」

「……そうね」




 美しい怪人2人は、ニヤリと笑っているような三日月を見上げた。







 まだまだ謎も心残りもあるだろうが、それはいつかまた。

 かくして、この事件は幕を閉じたのであった。







「あ、涼。郁くんのウサ耳姿の写真、あげるよ」

「…………今日だけは感謝するわ…」

「気に入ってくれて何よりだよ」








 どうも、kokeshi屋です。

 今回はウサギ耳なコメディーを書きたかったのですが、見事に失敗しました。撃沈です。コメディーじゃなくなっちゃいました。

 グダグダ感が否めない小説ですいませんでした。

 ここまで目を通してくださり、ありがとうございます。

 また機会があれば、短編小説を書きたいと思います。

 では、今回はこの辺で……。

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― 新着の感想 ―
[一言]  おもしろっかったです。 サヨちゃん可愛かったです。 今度はねこみみの話とかどうでしょう?
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