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魔仙伝  作者: 仙幽
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第八話:運命

 シャッターの下りた店の前に、一人の老婆が占いをしている。

 人通りはある。

 主に若い男女が多いこの通りで、老婆はまるで置物のように机を目の前に椅子に座っている。

「あ。ねぇ。占いみたいよ? 和真かずまやってもらわない?」

 女は占いが好きらしいが、男はため息混じりに首を振る。

「ほんと好きだな。占い。前もやってもらってたろ?手相だっけか?」

「この前のは手相。これは未来を占ってくれるって書いてあるわ。ほら見てよ。水晶球があるわ。あれで占うのよ」

「いまどき水晶球ね〜…胡散臭いな…って…おい!! みお!!」

 澪と呼ばれた女性と呼ぶにはまだ若い女は、興味津々といった感じで、黒服に身を包んだ老婆に歩み寄る。

「占ってもらってもいいですか?」

 一瞬遅れて和真が澪のとなりに座った。

「この未来占いっていうのお願いしたいんですけど…?お婆さん?」

 澪の呼びかけに、老婆は下を向いたまま微動だにしない。

「寝てるんじゃないか?」

 下から老婆の顔を覗き込んでみたが、老婆の目は開いていた。

「??おばーさーん。起きてますかー??」

「寝てんだよ。ほら、行こうぜ。ゲーセンで欲しいヌイグルミあるっていってたろ?」

 和真が澪の服を引っ張りながら、場を離れるように促した。

 だが澪は諦めきれないらしく、しばらく老婆がこちらに気づくのを待っていたが、和真が澪を置いて先に行こうとしたので慌てて椅子から立ち上がった。

「ちょっと…和真…待ってよ〜」 

「ほら。行くぞ…あ?おい…」

 和真が後ろに指をさした。

 澪が振り向くと、老婆がこちらを水晶越しに眺めていた。

 澪が和真を促し、二人はもう一度老婆の目の前の椅子に座った。

「…占ってもらえますか?」

 老婆は無言で澪と和真を水晶越しに見る。

 何分もかからない内に老婆は口を開いた。


「…未来…お前達の未来はここには無い。」

 

 澪は老婆の言葉を静かに待った。


「…今日…いや…明日かもしれぬし、明後日かもしれん…とにかく近い未来…お前達二人はー…いや…お前達だけではないな。お前達の近い人ら巻き込んで…ここからいなくなる。」


「いなくなるって?交通事故か何かですか?3日後に部活の試合で県の総合体育館に行くんです。それに何か関係が…?」

 老婆は目を細めた。

「剣道の試合だね。」

 澪は目を見開いた。

「澪。3日後にある大きな大会は剣道しかない。この人はそれをたまたま知ってただけだ。」

 老婆は、表情を変えることなく和真に視線を移した。

「あんた本当に占い師か?普通占いでは人が死ぬことは言わないって…」

 老婆は優しい目で和真を見た。


「お前のその慎重さは、きっと役に立つ。その慎重さ、冷静さは常に心に留めとくことだ。だが、今は私の話に耳を傾けなさい。」

 和真が不本意な顔をして老婆に口を開きかけたが、老婆はそれを許さなかった。


「お前も信じられるような話を一つしようか。その大会に出るメンバー。…ほぉ?男女別で試合を行うのだな…。女は順番に『桜井 茜』『春日 李緒』『飯田 詩鶴』『常盤 友里』『遠藤 澪』男は『千葉 八尋』『斉藤 恭祐』それから―――」

 と三人目を言うところで老婆の口が止まった。

 澪と和真はすでにここまでメンバーを…試合に出る選手の名前を当てたことに驚きを隠せないでいた。

 しかも選手の名前を当てただけではなく、その順番までも当てたのだ。剣道の団体戦は先鋒・次鋒・中堅・副将・大将をチームで決め、順番に出して戦う。それを当てたのだ。

「お…お婆さん…すごい…ねぇ!和真この人本物だわ…」

 澪の口からは感嘆が漏れる。


「…お前達の……そうかクラブが一緒だったのか…」

 老婆がふと言葉を漏らした。

「?和真とは部活は同じじゃないわ?」

 老婆は澪の目を射抜くように見る。

 老婆とも思えぬその迫力に、澪はたじろいだ。

「違う。…木下 千空だ」


 思わぬ人物の名前に、澪は眉をひそめた。千空と知り合いだったら、メンバーの名前くらい知っていてもおかしくは無い。


「なんだ…千空の知り合いか。じゃあ今のは全部千空から聞いた事?」

 和真が唐突に話し入ってきた。

「千空は剣道を知ってる奴なら、それなりに有名かもしれないさ。それにしたって、俺達が千空の知り合いだって何で分かった?少なくとも俺は千空と親しくは無いし、千空と一緒に移ってる写真なんて無いはずだ。」

 だから、顔は分からないはずだ。

 老婆は和真を見る。

「…残念だが。その大会には出られないだろうよ」

 澪は老婆を見る。


「欠員が出る。それも一人や二人じゃない」


「…さっき話してたことと関係あるのか?なんでそんなに人がいなくなる?地震でも起きるってーのか?」

 和真はからかうように言う。

「私は一言も死ぬとはいっとらん。ただ、ここからいなくなる と言ったのだ」

「…?」

「これはもう定められたこと。避けることも、逃げることもかなわん。確実に、来る。」

「…何が来るんですか?」

 老婆は水晶を凝視するが、首を横に振るだけだ。

「ここまでだ。お前達はあがくことなく、その運命に身を任せるが吉だ。無駄に足掻こうとするな。それは…」

 老婆は意味ありげに和真を見る。


「ただ、自分の寿命を縮めるだけに終わる。」


 老婆はそう言うと、手早く荷物を片付け始める。机の下からスーツケースを取り出すと、その中に水晶やら机やらを器用に詰めていく。

「…まるで預言者だな。占い師なんじゃなかったのか?あんた」

 老婆は二人の座っていた椅子をたたむと、和真を見る。

「私は占い師でも預言者でもないさ。ただ、運命を読み取って伝えただけ。運命とは占いよりも確かで、予言よりも確かなもの。」

 和真は老婆を自然と睨む。

「確実に来るってことか?その何かが?それを受け入れろって?」

「運命とはそういうものだ。」

 老婆はスーツケースを閉じると、早足で歩き出した。

 その背に、和真がささやく。


「傲慢だ」


 その言葉に老婆は振り向くことなく、人ごみの中に姿を消した。


 老婆は相変わらず早足で人ごみを避けるように路地に入った。

 と、ふと足を止めた。

 何か、気配を感じているようだったその瞬間

「くらえ!ばばぁ!!!」

 上から人が降ってきた。そして右手に力をこめたかと思うと、右手から光が漏れた。

 そしてそのまま老婆に向かって殴るようなしぐさを取る。

 

 軽い爆発音と共に、煙が舞い上がった。


「なんだー。あんた…まともに使えんのか…」

 

 煙の影から、球体に守られた老婆姿を現した。


「ま。別に倒さなきゃならないわけじゃないしな〜。ねぇ?ばあさん。あんたはさー」

 老婆の傍らには水晶が浮いている。ほのかにみどりがかった光に身を包んだ水晶は老婆を守っているようにも見えるし、目の前にいる少年を警戒しているようにも見える。


「誰の命令でここにいんの?」


 少年の表情に闇がうつる。


「…そういうお前は誰の差し金で私をつけていた?」

 少年はあはは と無邪気に笑う。

「や〜っぱり気づいてたんだー?だよなー。じゃなきゃあんな反応できねぇって!」

 一人心得たようにうなずく少年に老婆は警戒を強めた。

「気づいてもらいたかったのだろう?あれだけの魔力を漏らしといて、気づかない奴はいない。お前、私に何の用だ?」

 えへへ と少年は照れ笑いを浮かべながら、悩むようなしぐさを取った。

「別に隠してるわけじゃないから、言ってもいいんだろうけどー。また口が軽いって言われんのもヤなんだよねー。どしよっかなー?あんたが誰の指図でここにいるのかおせーてくれるって言うんなら、喋ってもいいんだけどー?」

 話し方は、幼い少年そのものだが、目が違う。

 鋭く老婆を見るその目には、子供のものではない威圧感がある。

 老婆は、ため息をつくと、少年にうなずいて見せた。

「…いいだろう…ただしそっちが先だ」

 いいよー と軽い返事をすると少年は老婆の表情を一変させた。



「俺の主はー」





「イシズ だよー」




 鳥肌が立った。

 その名前をこんなところで聞こうとは。

「イシズはねー。前々からあんたがここにいることを知っててね。それで、何してるのかなーって。気になったってわけ。ね?じゃ次はそっちの番だよー」

 

「……私の…主は――」

「伏せろ!ジャシ!!」

 再び、唐突に閃光のような光と共に辺りが煙に包まれた。

 無音の中で、少年が咳き込む音だけが聞こえる。

 

 しばらくして、煙が収まるとそこにはただ少年が立っているだけだった。

 老婆も、途中割ってはいってきた女も影も形も見当たらなかった。

 魔力の痕跡すら残っていないのであれば、追いかけることも不可能だった。

「ちっくちょー!仲間がいたのかよっ!卑怯者ー!」



 「助かった。リリス。すぐに戻ろう。やることはやった。ここに残っててももはややることは無い」

 長い白髪を月夜になびかせながら、老婆の横を走っているのは、二十歳ぐらいの女性だった。老婆のように黒服のローブのようなものを着ている。

「おっけ〜。早く戻って報告しなきゃね。時間無いよ!急ごう!」


 二人はそのまま月夜に姿を消した。

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