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魔仙伝  作者: 仙幽
14/21

第十三話:今日(2)

 いつもの通りに学校に行って、いつもの通りにホームルームが始まって。


 後々になって知ることになるけど


 今日は


 この日は


 全てが


 最初から


 最後まで


 全てが仕組まれていたことで。


 俺は。


 俺達は――








「じゃ和真部活の後でね!」

 笑顔で手を振りながら自分の教室に入っていった澪を見送った後、和真は自分のクラスへ向かった。

「お?瀬崎じゃん?ひっさしぶり〜!」

 久しく聞かなかった声に呼び止められ、驚きながらも声の方を向いた。

「木下?お前何でここに?お前2組だろ?」

「ちょっと5組に用があってさ〜それにしても久しぶりだよな〜!」

 軽く和真の肩を叩きながら親しげに話しかける千空に、和真は笑顔を向ける。

「クラス遠くなったしな。で?5組に何の用?最近頻繁にいるって聞いたけど?」

 そう言うと千空は笑顔を向けるだけで特に答を言おうとはせず、和真も特に追及はしなかった。

「あぁそうだ。木下お前さ占い師の知り合いっているか?親戚とかじゃ無くても近所のお婆さんとか…」

「うらないし??知り合いにそんなのいねぇぞ。何でまた占い師だよ」

 千空は腹を抱えながら笑い転げる。

「だよな。ん。ならいいんだ。じゃ、またな」

 まだ笑っている千空を残し和真はその場を離れた。

 千空のあの様子だと本当に占い師の知り合いはいないようだ。

「…運命…?」


 老婆は言った。


――運命とは、占いよりも確かで、予言よりも確かなもの。


 と。

「…」

 和真はポケットから携帯を取り出しメールを打ちだした。

 澪の携帯が点滅する。

「ん?」

 携帯を開くと和真から。

『件名:やっぱり

 本文:今日武道館まで迎えに行くから、ゲーセンで待ち合わせじゃなくて一緒に行こう。』

 澪は嬉しそうにすぐさま返信した。

「おっはよ〜澪〜なにニヤニヤしてんのよ〜?」

「ふふ。和真がねー今日道場まで迎えに来てくれるんだ」

 そう言うと澪は携帯に貼られた写真シールを優しく撫でた。

「あっそう…朝っぱらからあっついわねぇ…」

 

『件名:やった♪

 本文:うん!待ってるね!』

 和真は携帯を閉じるとふとため息を漏らした。

「信じたわけじゃない…けど…念のためだ」





 

  

 ホームルームの始まる前の騒がしい教室で、一人ひっそりと本を読んでいる加奈子。そんな加奈子がふと視線を感じ教室のドアに目をやると、教室から少し離れた所で真剣な顔をした茜が立っていた。

 加奈子は茜の席を見るが、机にはバックもなにもなく茜がまだ教室に入っていないことを表していた。

 あんな所でいったい何を…と思う。昨夜勝手に帰ったことを後ろめたく思って教室に入りづらく思っているのか?いや、茜に限ってはそんな繊細な奴ではない。加奈子はまた茜のほうを見る。

 相変わらず隠れるようにしてこちらを見ている。どう考えても加奈子を見ている。真剣な顔というよりむしろ暗い…思いつめているような顔をしているように見える。

 加奈子は時計に目をやると、ホームルームまでには時間がまだあった。時間を確認すると本を机の上に置き静かに席を立ち、昨日の説教の一つでもしてやろうと茜のいる方へと向かっていった。

 



「きりーっつ。れーい。ちゃくせーき」

「今日は休みは、木下真夜と…ん?桜井と…千条寺は?どうした?誰か聞いてないか?」

 教室中がざわめく。茜のバックは無く登校した様子が無いが加奈子のバックは机にかかっているし、本まで置いてあるだ。更には朝机で本を読んでいる加奈子の姿をほぼ全員が見ている。

「保健室か?トイレか?誰も聞いてないのか。まぁいい。後で家に連絡してみる。桜井か千条寺が学校に来たら俺のとこ来るように言ってくれ。じゃ、今日も一日張り切って勉強しろよ〜」

 千空は加奈子の席を不思議そうに見る。

「加奈子何時までここにいた?」

 加奈子の隣の席の女子に聞く。女子は顔を赤くしながらホームルームの前十分ぐらいだと答えてくれた。トイレの方へ向かっていったらしい。

 加奈子は体が人より弱い。具合を悪くして保健室にでも行ったかなと千空はそのまま自分の席へ戻った。 


 1限を知らせる鐘が鳴り終わる頃、屋上では長髪金髪の男の元に長髪黒髪の女が探したとばかりに近寄る。

――準備は?

 女は、男が持っている水晶に目を向けた。その水晶には二人の男が屋根伝いに家々を走り回っている。

――向こうにはオウリとシャクシが向かってる。こっちももうすぐ開く。夜前にはいける。

――そう…夜前なら被害は最小限に抑えられそうね…。

――しかし…向こう二人で大丈夫かね。前に行った時…結構きついのくらってたぞオウリ。

――……そうね。

――…そんなこと知ったこっちゃ無い…か?

 男は皮肉るように女を横目で見る。

――そろそろ私も定位置に着くわ。カイトもそろそろ瞑想に入った方がいいんじゃないの?

――そうだな。俺はお前ほど魔力に長けてないからな。

 そう言うとカイトはその場から姿を消した。

 その場に立つ女は静かに屋上から周りの景色を眺め、ため息を漏らしポケットからボタンのようなものを取り出した。

 模様は桜の花びらを象ったそれの真ん中に『高』の文字。

 この高校の校章だ。

 その校章をしばらく眺め、軽く笑いかけるとそれを屋上から投げ捨てた。

 校章は綺麗な弧を描くと、グラウンドの真ん中辺りに落ちた。

 それを見届けると、女はカイト同様姿を消した。


 その頃、木下家では。

「ちょっとお母さん?病院何時に行くの?」

 真夜は早く行って、さっさと検査を済ませたらすぐにでも学校に行きたいのだ。

 そんな真夜の気も知らない母愛は、のんびりとした動作で支度をしている。

「よし!さ、行くわよ〜!目指せ大学病院!」

「おう!」

 車に乗り込むと、愛はそのまま交通の激しい道をわざわざ選んで運転をした。


――どうする?ここでやるか?

――…いや…こんな人の多いところで騒ぎを起こすとやりづらくなる。今日は慎重に動かないと。

――しばらく様子を見るのか?ちょっとぐらい騒ぎを起こしても…

――いや、この世界の奴らは、ちょっとやそっと人が死ぬだけでも大騒ぎになる。ここは様子を見る。

――了解。


「母さんー?」

「んー?何?真夜」

「飴なめる?」

 そう言うと学生鞄からのど飴を取り出し、愛の口元に飴を付けた。

「?何でまた飴?」

 そういいながらも飴を口にほおばった。

 真夜は、自分も飴を口に入れると、気を使うように言う。

「だって、なんかピリピリしてる」

 真夜のその何気ない言葉に愛はドキリとした。

 平常心をと心がけていただけに、冷や汗が出た。

「ごめんね?」

 え?と愛は運転中にもかかわらず真夜を見る。

「私が駄々こねるからでしょ?今日は一日うちで寝てるよ」

 だから安心してと、真夜はにこりと笑む。

 愛は少しホッとしながら、真夜の頭を撫でる。

「今日の検査で異常が無かったら、今日学校行きなさい。大学病院からバスも出てるし。会長がいた方が生徒会もしまるでしょ?」

 真夜の表情が一変に明るくなった。

「うん!」


 大学病院に着くと、検査の予約を入れただけあってすぐに診察が始まった。

「真夜!」

 診察室に入る真夜に愛が財布を真夜に渡した。

「ちょっとお母さん今日、仕事あったんだったわ。真夜診察終わったらお金払って。何か異常があったら、メールするのよ?」

 愛は少し間を空け、真夜の顔を撫でた。

「…お母さん…すぐ駆けつけるからね」

「おか…」

「じゃ、先生の言うことちゃんと聞くのよ?じゃぁね?」

 そう言うなり愛は小走りに駐車場の方へ走っていった。

 真夜は、愛の財布をバックにしまうと、診察室へ入っていった。

 愛は、車に乗るとバックミラーを微かに動かした。そのバックミラーには大学病院の屋上に立つ黒い服を着た男二人。

 小さく写るその二人を確認すると、愛は低く呟く。

「やるか…」

 愛は車を出すと、山の方へ向かって走り出した。

 バックミラーに移る二人の男と共に。

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