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魔仙伝  作者: 仙幽
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第十話:表裏

 空には月。

 3日後には満月になるだろう、太った月は煌々と異質な人間を照らす。

 そのうちの一人である金の長髪の男は、隣にいる女に声をかけた。

「オウリが不思議がってた。お前どこで何してた?」

 女は男の顔を見ようとはせず、ただぼんやりと空を見ている。

「後で追及されるぞ?何で来なかったのかってな。なんて答えるつもりだ?」

「…それどころじゃなかったのよ。これだけ人が多いと目立った行動がとれないから――」

「知り合いもいるしな?」

 女はふと黙った。

 その目は、男を恨めしそうに睨みつけている。

「別に…知り合いに会ってたわけじゃないわ。勘違いしないで。私はただ――」

「木下 千空…」

 女の表情が一変する。

「…って誰?」

 女はただ男の目を見るだけで、言葉を話そうとしない。

「知り合いなんだろ?」

 女は男から目をそらし、苦々しい表情をする。

 ――そうか

「真夜の記憶を…読んだのね?そこに私も出てきたわけ…」

 男は楽しげに女を見る。

 その表情が語っている。

 ――勝った

 と。

「どうする?『ミヤコ』?」

 ミヤコと呼ばれた女は、嫌悪の表情を隠そうともせず男を睨みつける。

「いや、美和子って呼んだ方がいいか?」

「やめて。その名を呼ばないで」

 ミヤコは耳を塞ぐ。

 そんなミヤコの肩をそっと抱くと、男はミヤコの耳にささやく。


「―――」

 







「今日は、部活でいつもより遅くなるから」


「そ?気をつけて帰ってくるのよ?お守り持ったの?」

 千空が昔交通事故にあったときがあった。その時くれたお守りを千空は、常に身に着けるようにしていた。

 千空は鞄に付けられた、多少くたびれた交通安全のお守りを愛に見せた。

 愛は優しく微笑み、そのお守りにそっと手を添えると、千空を送り出した。


 パタパタと布団を叩く音。


 ヴォンヴォンと洗濯機の音。


 カチャカチャと洗い物の音。


 チチチと泣く鳥の声。


 真夜はぼんやりと天井を眺めていた。

 昨日何かあったような気がするが、思い出せない。

 夢から覚めたら、千空じゃない知らない男がこの部屋にいたような気がする。

 だけど、顔が思い出せないし、何があったのかも思い出せない。

 男がこの部屋にいたのも夢だったのだろうか?

 お婆さんの夢と同様に?


 でも――と、真夜は自分の額に手を添えた。

 特に何の傷も、できものも何も無い綺麗な肌を撫でる。

 痕は何も残ってないが、未だに残るこの感触。

 無理やり頭の中をこじ開けられたような、この不快感。

 真夜は、眉間にしわを寄せると、目を閉じた。



 

 そのころ学校では、千空が美和子のいた5組に来ていた。

「千空〜。また名簿見てんのか?そんなに5組の名簿が好きなんか?お前は」

 名簿から目を離すと、千空は八尋にいつもと同じことを聞いた。

「あそこの席ってさ〜」

 千空は、美和子の席をさす。

「誰の席?」

 その問いに八尋は、あからさまに嫌な顔をした。

 盛大なため息を千空に吹きかけると、わざとらしく答える。

「千空さーん。あそこの席はー空席ですけども、なにか問題でもー?」

 だよな〜と千空は軽いため息をつく。

「なぁ?千空?お前なんでそんなにあそこの席にこだわるわけ?毎日毎日同じ質問しやがって。いい加減教えろよ。呪いの席とか言うんじゃねぇだろうな?」

 ブッと吹き出しそうになるのをグッとこらえて、八尋の頭につかみかかった。

「ばっか!呪いなはずねぇだろ!むしろ…」

「いてて…!!ばか…千空!!髪の毛掴むな!こら!」


 …むしろ。


「おい!!いてぇって!千空!」

 はっとして、慌てて手を離した。

「悪い悪い。じゃ、部活でな!」

 痛いな〜と頭を抑えながら八尋は、急に元気のなくなった千空そ不思議そうに見る。

 と、唐突に八尋の後ろでやる気の無い声がかかった。

 後ろを振り向けば、『大阪 夜白』が気だるそうに机に足を上げ、椅子を揺らしながら座っていた。

「あんだよ大阪。いたのかよ」

 八尋はそっけない態度をとる。

 だが、大阪は関係無しに八尋に話しかける。

「今の…あいつだろ…?木下…千空?剣道の。何しに来たんだ?」

 八尋は軽く振り向くと

「しらねぇよ。あそこの空席のこと聞きに来ただけだ」

「ふ〜ん」

 大阪はその席に目をやった。

「あいつ、よくここくんの?」

 八尋はもはや振り向きもしなかった。

「あぁ。結構頻繁に来てる」

 そう言えば――と八尋は、思う。

 何しに来ていたんだろう。千空があの席を気にし始めたのは、つい最近からだったような気がする。

 じゃぁ…その前は…何しにここへ…そう言えば…人とあってたような…人…

 八尋は教室を見渡してみた。

 目に入る、クラスメイト達。

 

 ――いったい誰と……思い出せない。



 八尋が、黙ってしまうと夜白は視線をその机に戻した。そして席から立つと、千空同様名簿に目を通した。

「…?」

 手でなぞった先には、美和子の番号。だが、その番号には今は別の人間の名前が書かれてある。

 『佐久間 美和子』と言う人物の名前はどこにもない。

「…転校したんなら…番号をつめたりはしねぇよなぁ〜…」

 大阪は席に戻ると、しばらく何かを考えているようだった。


 ――まっどうでもいいか。


 その内寝息をたてて居眠りを始めた。




 

 

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