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魔仙伝  作者: 仙幽
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第九話:理由

――マコト…

 その名前は聞きたくなかったのに。


 愛は首を絞められたまま、苦しげに口を開いた。

「…ずいぶん懐かしい名前を………何で私に聞く…の…?」

 オウリは、この返答を予想していたのだろう。表情を変えることなく愛の首をよけいに締め上げた。

 愛は、完全に息が出来なくなり、必死にオウリの腕に爪を立てるだけだ。

「ばれてることぐらい分かってんだろ?じゃなきゃこんな準備はしてないはずだ」

 そう言うと、オウリは自分の肩で頭から流れている血を拭った。

「結構…効いた…。結界だってそうだ。見つけるのに一苦労した。まぁ、見つけてしまえばこっちのもんだがな。こんな古い結界…ガキでも解ける」

 そう言うと、イライラした様に手に一層の力をこめた。

 愛の気が遠くなる。

 その時、二階から悲鳴が聞こえた。


 愛の遠ざかる意識が戻される。


 あの声は紛れもなく、自分の娘の悲鳴。


 愛は、おぼろげな意識の中、ほぼ無意識に両手に自分の持つ魔力を集めた。

 魔力は光となって、愛の手のひらに集まる。

 それをオウリの顔面めがけて放つ。

「!?っつ!!」

 オウリの反応は早かった。素早く愛から手を離し、後ろへ飛びながら両手で顔をかばった。

 その隙に、愛は全力で二階へ駆け上がり、真夜の部屋のドアを手荒く開けた。


 そこで目にしたのは、自分の知らない金髪の男が、気絶している自分の娘の頭に手を当てている光景。

「真夜から離れなさい!」

 愛は、魔力を金髪の男に放つ。

 男は素早くかわし、事も無げに窓際へ飛んだ。

 家には結界が施されているのだろう。愛の放った魔力の塊は、壁にぶつかると音も立てずに煙のように消えた。

「真夜!!真夜起きなさい!真夜!」

 愛は、慌てて真夜に駆け寄り抱き寄せる。

 何度呼びかけても真夜は瞬き一つしない。

「カイト。調べはついたのか?」

 オウリが、金髪の男に問いかける。

 金髪の男は、特に表情を変えることなくオウリに頷くことで返事を返した。

「なら、解いてやれ。結果は皆がそろった後で聞く」

 カイトは頷くと、右手の人差し指を自分の眉間近くに当てた。するとすぐに指先にほのかに赤い光が灯る。カイトはそれを真夜に向かって投げた。

 赤い光は真夜の額に吸い込まれたかと思うと、すぐに真夜が目を覚ました。

 意識がはっきりしないのか、焦点が合っていないが命に別状はなさそうだ。

 愛はそれを確認すると、ホッとしたように息をついた。

「…用があるのは私でしょう?子供には手を出さないで」

 オウリは軽く笑うと、ふっと真剣な目になった。

「お前の子供には手は出さないさ」

 カイトは、淡く黄色に光る石の様な物を耳に当てるとカイトに目配せをする。

 カイトは頷くと、部屋の窓に足をかけた。

「今日はこれで失礼するが、お前はどうする?一緒に来るか?」

 ニヤリと人を小馬鹿にしたような笑いを取るオウリに冷ややかな目で愛は答える。

「冗談にしても笑えないわ」

 オウリは鼻で笑うと、そのまま窓から姿を消した。

 カイトもそれに続こうと、窓に足をかけるが、愛が呼び止めた。

「あなた誰?私がいたころにはいなかったわね。拾われたの?」


――あなたも、あいつに

 

 とは口には出さなかった。


「…あぁ。あんたがいなくなって、だいぶ経ってからだ」

 相変わらず表情の無い顔で、カイトは愛の方を向く。

「あんた、今日息子はどうした?いつもなら帰ってる時間なんだろ?」

 愛は目を見張ったが、軽くため息を漏らした。

「…やっぱり…この子の記憶を読んだのね。私も知らないわ。確かにいつもならこの時間には家にいるはずなんだけどね。今日に限っては助かったけど」

 カイトはそうかと 呟くと、ふと考えるようなしぐさを取った。

「…あんたの息子の友達に………いや…なんでもない」

 愛は不思議そうにカイトを見るが、カイトはそのままオウリにならって姿を消した。


 その、直後だった。

 元気の無い千空が帰ってきたのは。

 

「お帰り〜!千空遅かったわね〜。何かあったんじゃないかって心配してたのよ〜?」

 愛は、いたって普通に千空を迎えた。

 千空は軽く笑うと、母親と顔を合わせた。

「んー…部活が長引いて…って…母さんこそ!!何だよその首の痣!?」

 え?っと愛は自分の首に触れながら鏡を見る。

「え?なに?痣?」

 愛は首を撫でながら鏡を見るが、首を傾げるばかりだ。

 千空は愛の手をどけると、ここだと示そうと愛の首を覗き込んだ。

「…え??あれ…だってさっきくっきりと青白い…なんか変な痣があったのに!!」

「痣なんてないじゃない?もーびっくりさせないでよ〜。影を見間違えたのよきっと。ほら早く着替えてきなさい」

 千空は首を傾げながら部屋に向かっていった。


「…さすがに無理があったかしら…」

 痣のことなんてすっかり忘れていた。オウリやカイトが現れて動揺していたし、何より千空がタイミングよく帰ってきたことに、心に余裕が足りなかった。

「私がしっかりしないといけないのに…」

 それにしても…と愛は考える。

 オウリとカイトは何故帰ったのだろう?

 オウリが現れたとき、正直もう終わったと思った。

 このまま連れ帰られて、あの世界で拷問にでもあうのだろうと漠然と考えていたのに。

 ずいぶんあっさりと帰ったものだ。

 それに、何故真夜の記憶を探る必要があったのか。

 マコトを連れ戻しに来たのなら、真夜ではなく愛の記憶を探るべきなはずだ。

「…なんで…真夜…?」

 私が自分の娘にそんな話をするとでも思っているのだろうか?

 

 それとも――

 

 愛はふっと物騒な笑みを浮かべた。


 ばれるはずが無い。

 絶対に。

 


 ――絶対に。 

 

 

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