雨の奇跡─ムカツクあなた─
雨ってね不思議な力を持っていると思うんだ。
人と人とを巡り合わせてくれる。
不思議な奇跡の力。
雨の日に起こる出会いは運命より運命的な出会いになると思う。
そう思うと雨もそんなに悪くないって思えるでしょ?
地下鉄を降りると駅の構内を嫌な匂いが立ち込めていた。
鉄臭くて、湿っぽい。
雨の匂いだ。
私はこの匂いが大嫌いだ。
階段を上がり外を見てみると案の定、厚い雲が空を多い大粒の雨を降らせていた。
鞄の中から折り畳み傘を取り出す。
空の色と違い、明るい綺麗な水色の傘。
パッと広げるとブルーだった気分が少しだけ晴れた気がした。
外に出ると周りの人も、カラフルで鮮やかな色をした傘をさし、せかせかと歩いている。
私も少し小走りでバス停に向かった。
ドンッッ──
「あっ、ごめんなさい。」
少し俯き加減で歩いていると、前から歩いて来た人とぶつかってしまった。
慌てて顔を上げるとそこには眉間に皺を寄せ立ち尽くしている男の人が目に入った。
「ちょっと、ごめんなさいじゃないだろ!」
その男の人と目が合ったかと思うと、その人は怖い顔をして声を荒げた。
「えっ?」
私は何の事で怒鳴られているのかよく分からず、目を反らし再び俯いた。
あっ…。
俯くと目に映ったのは、水溜まりにハマってしまっているA4サイズの茶封筒だった。
書類か何かのようだ。
私は慌てて拾いあげた。
「本当にごめんなさい。」
私は鞄からハンカチを取り出し、茶封筒を拭きながら謝った。
「今さら拭いても遅いんだけど。」
私は茶封筒を拭く手を止め、相手の顔を見上げた。
確かに俯き歩いていた私が悪いかもしれない。
けど落としてしまったなら、すぐに拾えばよかったじゃないか。
そうしていたらここまでビショビショにはならなかっただろう。
「謝ってるじゃない。私にどうしろって言うんですか?」
一応敬語で相手を睨みながら文句を言った。
「何?逆ギレ?」
相手は馬鹿にした様子で少し口元をにやつかせながら聞いて来た。
「……」
何も答えられないでいると、私が手に持っている茶封筒を取り、
「もういいよ。」
と言い、あっさりその場から立ち去った。
『何なの!?あの男。』
家に帰ってからも、イライラがおさまらなかった。
目を閉じるとあの馬鹿にした笑いがまざまざと目に浮かんで来る。
サングラスをかけていて目元の表情は分からなかったが、顎鬚に短髪。
見るからに感じが悪かった。
この怒りを誰かにぶつけたい。
私は携帯を手に取り、親友に電話をかけた。
「もしもし?」
「おお、美夜。どおしたの?」
「ちょっと聞いてよ!」
私は勢いよく今日あった出来事を話した。
一通り話終え、私は一息ついた。
「んじゃさ気晴らしに明日合コン行こうよ。」
親友はあまり興味なさげに淡々と私をなだめ、そう言った。
「いきなりどおしたの?」
普段は合コンには参加しない主義の早苗が私まで誘うなんて。
よっぽどの事があるのだろう。
「今回ね作家の高岡修平が来るらしいの!」
早苗は興奮気味で話出した。
高岡修平と言うのは今最も注目されている新人作家だ。
私も何作か読んだ事がある。
確かに若いのにいい文を書く人だと思った覚えがある。
「けどこれで不細工だったら最悪じゃない?」
「それがね、超男前らしいの。あの優しい文に似合わずキリッとしたキツめの男前なんだって!」
きっと早苗は今ごろ目をハートにしながら喋っているだろう。
早苗のお陰で今日のムカツク男の事もスッキリしたし一緒に行ってやるか。
「わかったわかった。私も行くよ。」
「まじで!ありがとう。んぢゃ明日7時に私の会社の前に来て。7時30分からだから一緒に行こう。」
「わかった。」
「気合い入れて来てよね!」
電話を切って、本棚から高岡修平の本を取り出す。
そして久しぶりに始めから読み返してみる事にした。
「美夜!おまたせ。」
そう言い会社から出て来た早苗はいつもより短めのスカートをはき、髪は綺麗に巻かれていた。
「気合い入ってるじゃん。」
「美夜も気合い入ってるじゃん!」
早苗は私の事を上から下までジロリと見てそう言った。
「えへ。」
私は照れ笑いをし、自分の服装を再度チェックした。
いつもはパンツスーツなのだが今日は、淡いベージュのワンピースに白のカーディガンを肩からかけている。そしていつもは下ろしたままの髪をアップし、キラキラしたバレッタでまとめている。
「高岡修平効果?」
早苗はニヤリと笑って聞いて来た。
私はこくりと頷いた。
「今日はライバルが多そうね。」
早苗はそう言い時計に目をやった。
「急がないと!」
早苗はいきなり私の腕を引っ張り走り出した。
そして二人で合コン会場へと急いだ。
「初めましてぇ。」
皆首をかたむけブリッ子気味で挨拶をした。
そして皆で自己紹介をする事になった。
どの人が高岡修平だろう…。
私は胸を弾ませながら男性陣の自己紹介を聞いた。
最後の人、私の向かえに座る男の人の番が来た。
「高岡です。24です。一応作家やってます。」
この人が高岡修平?!
おしゃれな顎鬚に耳にはピアス。
けど目元はとても優しげな感じだ。
それぞれ盛り上がり出し、自然と私は前に座る高岡修平と話す形になった。
「すごく柔らかい優しい文書かれますよね。」
私は昨日読み返した小説を思い出しながら話を振った。
「そうかな。まあ皆そう言うけどね。」
彼は聞き飽きたといった感じで言葉を返して来た。
「けど何か寂しい感じがする。ハッピーエンドだけど。切ない悲しい話しですよね。」
またそっけない言葉が返って来るのだろうけど、折角この人に会えたんだからと思い、私は小説の話しを続けた。
「…。わかってくれた?」
彼は一瞬止まってから答えた。
「はい。私あの話どこか共感出来るんです。」
私は彼がこの話しに少し乗って来てくれたのを嬉しく思い少し身を乗り出し話した。
「あれねぇ。失恋した後に書いたの。」
「失恋ですか?」
「そう。出版社からハッピーエンドの話を頼むって言われて。」
「失恋の後に?」
「本当乗らなかったよ。あの作品は。」
「そりゃねぇ。」
私は笑って相槌を打った。
「失恋した奴に幸せな恋の話しってって感じでしょ。」
彼も一緒になって笑った。
笑うと優しい目がもっと優しくなる。
「けど私あの話が一番好きかも。」
私は思ったままの感想を口にした。
「俺も。」
彼はそう言いニコッと微笑んだ。
「失恋した後だからさぁ、余計幸せな恋がしたくて。俺の理想の恋愛を話にしたんだ。所々羨まし過ぎて泣きそうなったけど。」
彼はおどけながらそう言った。
「出来過ぎてないのが良かった。現実的なとこが含まれてて。あまりにも甘々だと読んでてムカツクもん。」
私も少しおどけて言ってみた。
それからはあっと言う間に時間が過ぎて行った。
「取りあえずここ出よっか?」
幹事がそう言うと皆せかせかと席を立ち出る用意をし始めた。
前の彼を見ると鞄からサングラスを取り出し、かけようとしている所だった。
「…あっ!」
サングラスをかけた彼の姿を見て私は開いた口が塞がらなかった。
「何?」
彼はそう言いながらこっちを見た。
「昨日のムカツク男…。」
私は唖然としながらそう言った。
「ん?」
彼はまだ分からないようだ。
「昨日書類みたいなの落としちゃったじゃん。私。」
そう言うと彼も口を大きく開け
「あぁぁぁ!」
と言った。
「本当に昨日はごめんなさい。」
私はまた怒られるかと思い急いで頭を下げた。
「全然気にしてないって!」
昨日とは打って変わって優しい彼。
「昨日は機嫌悪かったんだ。俺。」
彼はそう言いながら照れ笑いをし、頬をかいた。「担当の奴に、持って行った新作も一回書き直して来いって言われてさぁ。昨日の封筒のあれ。」
「えっ?」
「あれもういらない作品なの。担当の奴にムカツイてて、それでつい八つ当たり。」
彼は申し訳なさそうにそう言った。
「よかった。」
私は彼に嫌われなかった事に喜び、安心したあまり、その場にフラフラと座りこんでしまった。
「こちらこそごめんな。」
そう言い彼は私に手を伸ばした。
私は彼の手をギュッと握り締め立ち上がった。
すると彼は私の耳元で
「二人で抜け出さない?」
と囁いた。
「はい。コーヒー。一休みしたら。」
そう言い私は彼、高岡修平にコーヒーを差し出した。
「ありがと。」
彼はコーヒーを受け取り優しく微笑んだ。
あれから1年。
今私たちは付き合っている。
あの後抜け出した私たちはお互いの事をひたすら話し続けた。
そして、自然と付き合いだした。
「最近ずっと雨だね。」
彼は窓を見上げ呟いた。
「本当だね。」
私もそう呟いた。
「けど、私もう雨嫌いじゃないよ。」
「何で?」
「だってあなたと出会えたんだもん。」
そう言い私はコーヒーを一口飲んだ。
「あれがなくても合コンで出会ってたじゃん。」
彼は否定的にそう言った。
「だってあのムカツク男がいなかったら私合コンなんて参加しなかったもん。」
「けど、あのお陰って。」
彼はまだ納得がいかないようだ。
「雨の奇跡。かな?」
私は小声で囁いた。
「よしっ!あの日俺をムカツカせた担当のお陰にしよう。」
彼はそう言い立ち上がった。
担当のお陰ねぇ。
そう言う事にしといてあげようかな。
「担当の奇跡。かぁ。」
私はまた小声で囁き一人微笑んだ。
「えっ?何か言った?」
「なーんにもないよっ♪」
何の奇跡でもいいや。
あなたと出会えた。
その現実だけで私は十分幸せだから…。
雨の奇跡シリーズ。第二弾です!!第一弾を読んでないひとはよかったらそっちも読んでみて下さい☆
それと感想、批判、注意。何でもいいんでメッセージいただけたら嬉しいです!
今後の参考にもしていきたいんで☆☆
以上、涼香でした(=^∀^=)