表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

和風民芸店

作者: 翠寿きゆま

日本町にある角の小さな和風のお店、

そこにはいつも優しい笑顔のお婆ちゃんがいた。

そして甘い和菓子と温かい抹茶。


真希子はいつかそこへ行こうと思っていた。

その町は日本町、しかし大きな橋を渡ると中国町、

そしてもう少し足を延ばせば米国町だ。


真希子はお婆ちゃんが中華料理が食べたくなった時は

中国町へと連れて行き。

ハンバーガーが食べたくなった時は米国町へと連れて行った。


空色の小さな荷台の、小さなトラックに乗せて・・・。


真希子はお婆ちゃんとお店の奥でお昼ごはんを食べている。

いつもコタツの中でお婆ちゃんは手作りの民芸品を作っている。

それを真希子も手伝っている。


お店にやって来る人達は尋ねる。



「お代は?」と、



お代は要らないよ。



「えっ?そうなんですか?」



立ち寄った旅人は皆血相を変えてそう答える。

だと言って旅人は欲張ってすべてを持って帰ったり

はしない。何故かそんな気持ちにはなれない。


お婆ちゃんは言う。



「さぁ、こっちで温かいお茶と、和菓子をお上がりなさい!」



その言葉で真希子は傍の厨房に入る。

冷蔵庫から白玉やフルーツを取り出した。

そして綺麗に盛り付けした。旅人は再び尋ねた。



「これもお代は要らないんですか?」



真希子は答えた。



「ええっ勿論」



そう言って微笑んだ。そんな長い一日が終わった。



「今日の夕飯は外へ食べに行こうか!」



そう言って真希子はお婆ちゃんを空色のトラック

の助手席に乗せ大きな橋を渡った。

車を降りるとそこには大きなレストランが聳え立つ、



「いらっしゃいませ!」



その言葉に導かれ店内に入る。

店内は中国に行ったかの様に煌びやかだ。

勿論ここは中国町だからだ。

その場所には世界中の人々が集っていた。

言葉等通じないはずが皆同じ言葉を交わしている。

とても不思議な世界だ。


立派に聳え立つ煌びやかなレストラン。

楽しいひと時を過ごした後はのんびりと家路へ、


それから


真希子はキッチンから勝手口まで続く、

土間との間にある廊下を渡り、

小さくて桃色の綺麗なユニット

バスでお風呂に入った。鼻歌を歌いながら、

あひるを浮かべて楽しそうに・・・。


階段を上がるとすぐ奥が真希子の部屋だ。

手前に廊下を曲がりその反対の奥がお婆ちゃんの部屋だ。

そして真ん中に四畳半間、


真希子の部屋には箪笥と鏡台が置いてある。

その左奥には仕切り台の上にいくつかの観葉植物とその向

こうには窓の傍に椅子とテーブル。

右には紺色の美しいアップライトピアノ。

その周辺にも大きな植物。窓はブラインドで仕切られている。

窓の外を見るとお向いの家が見えた。

両側に窓。


真希子はそっと呟いた。



「あなたはまだそこへ来ちゃダメだよ!」



そんな言葉を発した時、突然目が覚めた。


気が付けば草原で転寝をしていた。


真希子はもう一度呟いた。



「またお婆ちゃんに会えるかなぁ。

いつかそちらへ行った時は一緒に暮らしたいなぁ」と



そんな真希子を偶然傍で見ていた青年が言った。



「じゃ俺は和風民芸店の向い側の小さな白い家に住むよ。

白い犬を連れてね!」



真希子は青年に聞き返した。



「それはどんな家?」



青年は笑顔で答えた。



「物凄く天井が高くて、外からは二階建てに見える平屋!」



真希子はその返答が何だか可笑しくてクスッと笑った。

そして・・・




目が覚める度にもう同じ世界にいないと考えると、

辛くて涙が止まらなかった。

もう真希子自身も死んじゃってもいいと思ってた。

ずっと立ち直れないかと思ってた。だけど・・・

人は辛くても生きなければならないんだね。

あの不思議な世界の小さな民芸店から

お婆ちゃんにそう言われている様な気がしたから・・・。



草原の香りが気持ちいい。

もう春はそこまで来ているんだね!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ