06◇高良ミツキの場合
◇高良ミツキの場合
近づく。どんどん近づく。
でも、先輩は一向に私のほうを見て、返事をしようとしない。
聞こえてないのかな?
何て思いながら、駆け寄ると案の定。
また間違えた。
「あー……なんていうかこう……ごめん」
なんともいえない気まずい空気が流れる。
「……いえ」
彼はうつむいたまま、そう短く返事をした。
誰だろ、この子。とか思いつつも、胸元の名札に目をやる。
名札の学年色が私と同じだから同い年か……なんて思いながらもう一度彼の顔を見ると
「あっ!? 吉良ミズキ……っ!!!」
名札を見たときは一瞬スルーしてしまったけども、彼だった。
クラスの端っこの、いつもうつむいている彼。
「えっ……!? な、なんですか?」
そう言って少しだけ顔をあげた。
お、やっぱりきれいな顔。しっかり顔を見たのは初めてな気がする。
「いや……えっと……美術部?」
名前を叫んだはいいものの、話題が無い。
咄嗟に彼が抱え込むようにして持っていたスケッチブックを見てそう聞いた。
「え……?あ、はい……」
彼の言葉は一々尻すぼみだ。まるで何に関しても自信が無いみたいな。
「今からどっかに書きに行くなら一緒に行ってもいい?」
なんとなく、だけど。彼のこの自信の無さの理由が気になったんだと思う。
無意識にそんなこと、言っていた。
「えっ……?あ、はい……って、えぇえ?!」
驚いたように目を見張る。
いつもだったら下向いてぼそぼそとしゃべっているだけの彼が。
「いいじゃん、私さ、絵描けないから、絵描ける人って羨ましいんだよね。お願いっ!」
なんとなく、こんなに自分に自信の無い彼の創る世界を隣で見たいと、そう思ったからじゃないかって今なら思う。