第8話魔剣
―――久留間学園中心部・時計塔―――
「はぁ~、でっけぇ~。」
俺は現在、この学園島を見渡している。……上からな。
俺は寮を出た後すぐに認識阻害魔術と、飛行魔術を使用して空を飛んでこの学園島の中心部、時計塔の尖塔の先っちょに片足で立っている。認識阻害魔術で人の目はもちろん映像、画像、レーダーに人間の第六感も認識阻害させるという超便利な魔法だ。……まぁその分『魔力』を食うんだけどね。
あぁ、そうだ。一応言っとくけど俺が使ってる『魔力』と自然界にある『魔力』ってのは違うってのが最近分かったんだよね。自然界にある『魔力』は正確には人間の『魔力』の素となるモノみたいなんだよね。んでどっちも『魔力』じゃ見分けがつかなくなってくるから自然界の『魔力』を『魔素』っていう名前にしてみた。
んで俺が『魔素』を呼吸とか食事とかで体に取り込むことで『魔力』に精製してるみたいなんだよ。あと『魔力』は0時ぐらいかな?そんな時間帯に急に回復するんだよ。原因は不明。前に徹夜しているときに急に回復した時はビビッたね。調べてわかったときは「零○迷○か!」って叫んじゃったもん。
話がずれたか?……まぁいいや、え~っと、そうそう『魔力』は人間の中に一定量しか入らないみたいなんだよね。前に実験で2日間『魔力』を使わずに過ごしたけど使わない分増えるってのはなかった。そいでいろいろやってみたら精神修行をやったら若干だけど増えてたんだよね。多分『魔力』は人間の『精神』の中に納まっているんだろうな。
ほら、漫画とかであるじゃん、『精神』が器で『魔力』が水で器に入る分しか『魔力』は宿らない。っていうやつ丸っきりこれだったね。仮説ではブッタぐらいの悟りの境地に行ったらほぼ無限の『魔力』を得る、と思う。まぁ、あくまで仮説だけどね。ちなみに言っておくけど『魔力』は外の『魔素』を取り込んで変質させ『魔力』にして放出する。って感じだ。
あ~あと、飛行魔術の事も言っとくわ。俺が使える飛行魔術は3つ。1つ目は風の結界を身に纏い飛ぶという魔法。これだと複雑な動きができるし、結構な速さで飛ぶことができる。風の結界だから水の中に入ることもできるから便利。魔力消費もあんまりないから基本的にはこの魔法、【翔封界】を使ってる。ちなみに、俺の魔法の大部分の名前は似ている効果を持つアニメとか小説とかの魔法の名前だったりする。
んで2つ目は重力を『魔力』で強引に捻じ曲げ進行方向に落ちる、という魔法だ。この魔法は重力を『魔力』で強引に捻じ曲げるから魔力消費量が半端じゃない。下手すりゃ死ぬ程。でもそのリスク分移動速度が速い、軽く亜音速に到達しそうだったよ。んで重力を身に纏ってるようなものだから触れるものを全て壊しながら進むからもう移動手段っていうより攻撃手段のような感じだ。この魔法は滅多に使わない、てか使えない。
もう封印級の魔法だよ。あと、この魔法の名前は【重力の穴】と言う名前だ。穴に落ちる感じだったからそう名付けた。特に深い意味はないな。3つ目の魔法だけどねぇ、移動速度がね、壊滅的に遅いのよ。三輪車といい勝負するぐらい遅いのよ。この魔法は……ってかこれ魔法って呼べんのかなぁ~。あ~。ま、いっかとにかくこの魔法は『魔力』をアームのように使って物体を浮かすっていう魔法なのよ。
……まぁ、移動速度は無いけどその分持ち上げる力が強いぜぇ。4tトラックぐらいなら普通に持ち上げれるぜ。そんで消費魔力は持ち上げる物によって変わるんだけど、4tでもそんなに消費しなかったしなぁ。まぁ荷物を運ぶようだな。この魔法の名前は【浮遊】だ。……そのまんまだな。まぁまだ工夫をしたら飛べそうな魔法はあるけど今のところはこの3つだけだな。
…………今更だけど誰に言ってんだ、俺。……ま、いっか。
「んじゃま、もう一度空の散歩と洒落込みますかぁ~。」
と言い飛行魔術を待機状態から稼働状態に切り替える。その時、かすかにだが視界の端に青い『魔力』の柱が見えた。
「ん?なんだぁ。」
……確かに切り替えた時に青い『魔力』の柱が見えた。ということはあそこには誰かが魔法を行使している可能性がある。もし、あの柱が自然発生したものだったら、陽炎のような色がない柱でないといけない。何故なら『魔素』には色が無いからだ。反対に『魔力』には色がある。そしてその色はその『魔力』の『属性』を表している。『赤』なら『火系統』、『緑』なら『風系統』、『茶』なら『土系統』、そして『青』なら『水系統』
の『属性』だ。まぁこれは大雑把に纏めたものだから一概にこれが正解とは言えないんだけどね。……ってんなことよりも今はあの『魔力柱』のことだ。今はもう見えないし感じないが確かに切り替えた時に見えたはず。おそらく俺の認識阻害魔術並みに強力なモノと考えた方がいいな。だが、この『魔力』の持ち主はなんなんだ。まさか魔法使いか。……いや、実際何かするにしてもとりあえず行ってみなけりゃどうすることもできないか。
俺は『魔力柱』が見えた方を向き『魔眼』を発動する。発動した途端、視界の中に今まで見えなかった『魔力柱』がハッキリと見えるようになった。視界の端に『窓』が現れる。『窓』の中には俺が意識したモノ、『魔力柱』の全ての構成が数値でグラフでありとあらゆる表示方法で現れる。俺の視界と『窓』は重なっていて重ねっていない。視界を意識すると『窓』は盲点のように消えるが、『窓』を意識すると現れる。そういうものだ。
俺は『魔眼』を発動した視界で『魔力柱』を視る。……この青い『魔力柱』はどうやら結界のようだ。主に【人払い】【認識阻害】【魔力循環】【固定化】などの魔法が籠められている結界が構成されている。しかも結界発動が30年前と来た。この学園島の基盤となっている人工島が建設されたのが今から35年前だから、ほぼ完成された時からあるのか。ということは中には何かが封印されてるのかな?
土地関連だったら此処は人工島だから無いしな。呪われた物品か何かかな?
そんなことを考えながら『魔眼』を普通の目に戻す。……あ!そうそうさっき使っていたこの『魔眼』、これ便宜上『魔眼』なんて大層なもので呼んでいるけど実際はさっきも言った(思った?)通り、全てのモノの構成を視ることができる。っていう効果だけだ。まぁ、それでもすごいっちゃ凄いんだけどね。建物を視たらその強度やらなんやらが、鉄とかを視たらその元素やらなんやらが、数値やグラフなんかで『窓』に表示されるだけなんだよねぇ。
んで、この『魔眼』が開眼?したのはまだ魔力コントロールができていない中1の秋の頃、体に『魔力』を纏う練習をしていたら誤って眼に大量の『魔力』と少量の『気』を送っちゃたんだよね。んで当然の如く拒絶反応っていうのかな物凄い激痛が眼に走ってね。しばらく大佐のように叫びながらのた打ち回ってたのよ。んで起きてみたら開眼してたってわけ、原因は不明だ。最初は意味が解らず混乱していたけど今は結構便利だから使いまくっている。
さて、どうすっかなぁ~。この『結界』。中はなんかヤバそうだし、あれだな。触らぬ神に祟り無しっていうしな。放置だ放置。……でも、近くで調べるだけならいいよな。
「うっし、んじゃ行くか!」
俺は時計塔の尖塔から飛び降る。ちょっとした浮遊感の後重力に引かれ落下していく。俺は≪翔封界≫を操作し『結界』のある所へと飛んでいく。
―――廃ビル―――
「着いた。」
『結界』があったのは、この人工島の最南端にあるこの廃ビル。廃ビルの周囲には同じような形をした廃ビルや廃屋などがあり、しかもショベルカーやダンプカーと言った建設機械、建設用品といったものがあたりに放置されている。が今は関係ないので置いておく。とにかく『結界』のある廃ビルの方を向き『魔眼』を発動する、すると時計塔の方からは見えなかったモノが視えてきた。どうやらこの『結界』の中には『何か』が封印されているようだ。俺は探知魔術を発動し建物を調べる。ん~、やっぱり『結界』が邪魔であんまり詳しいことは分からないなぁ。
……どうやらこの『結界』の中には生命活動を行っている生命体はいないようだ。ということは、だ。おそらく中には何かしら強力な品物が入っていると思う。……かなり気になる、物凄く気になっちゃうよ。え?何この見たことない『結界』。こんな『結界』見たことないよ!しかもこの『結界』に封印、もしくは『守られている物』ってなに!?気になる気になる気になーる!!―――っていかんいかん、狂科学者の『知識の探求欲』に汚染されたかもしれん。あの人、知りたいものは納得するまで知ろうとするからなぁ。
あの人はそのことを……
「『知識の探求欲』には逆らえん、なぜならそれが私なのだからな。」
と誇るように言っていたな。まぁ今はいいや、良くないかもしんないけど……。今一番の問題はこの中に入るか入らないかということだ。どうしようか。
「ん~……………仕方がない……こともないが、コインで決めるか。」
俺はポーチから財布を取り出し、財布から1円玉を取り出す。
「さて、数字が表、模様が裏、表なら『結界』もその中の『何か』も調べる。裏なら俺は何も見なかったということにする。」
そう自分に言い聞かせ1円玉を親指で弾く。1円玉はくるくる回りながら上がり、そして落ちてくる。俺は左手の甲で1円玉を受け止め右手で抑える。
「さ~て、どっちかな~。」
そんなことを言いながらゆっくりと右手をどける。1円玉は―――表だった。
「……………さってと。んじゃ、調べますか!!」
俺はハイテンションになりながらまずは外側から『魔眼』を使いながら『結界』をもう一度調べる。すると『窓』にはこの『結界』の構成や使用方法、運用目的などなどが表示される。俺はその結果を脳内HDDに保存する。
「さて、んじゃ入りますか。」
どうやらこの『結界』は、ある一定量の魔力を込めると『結界』が、その術者を『結界』内に入れるようだ。おそらく一定量の魔力ってのが『鍵』なんだろうな。俺は『結界』に手を当て魔力を流す。すると『結界』に当てていた手がズズッと『結界』にメリ込んでいく。俺はそのまま『結界』の中に入る。ふむ、『結界』の中は少し肌寒い感じだ。おそらく『結界』の構成魔力が『水系統』だからかな。俺は今度は内側から『結界』を視て調べるが、外から視たのと同じ結果だった。それ以外は特に変わったことは無いな。俺は改めて廃ビルの中に入る。
……廃ビルの中は何もなかった。本当に廃ビルって感じでコンクリート剥き出しの建物だ。おそらく建設途中に放棄されたのかな。俺は一階全てを入念に調べたが何もなかった。次に二階、三階と調べて行き最上階の7階まで入念に調べたが何もなかった。う~ん、ここまで強固な『結界』が張られているのに中に何もないってのは、おかしいよな~。となると。やっぱり隠し通路とか隠し部屋とかの王道パターンだよな!俺は一階に戻り地下の元食堂に行く。食堂は普通の大衆食堂みたいだった。ほらアメリカの学園ドラマでよくあるじゃんああいうの。
俺は食堂を入念に調べるが、隠されているものはなかった。次に、俺は厨房に入って調べていると周囲の『魔素』の流れがおかしい事が分かった。『何か』に吸収せれているような流れだ。ってこれは!とうとう当たりか!!俺は『魔素』の流れを辿って行くと『冷凍庫』と書かれた札が掛けられている扉の前に来た。……どうやらこの中らしいな。俺は腕時計を見る。
3時27分
また微妙な時間だな。まぁいいや。とにかくまだ門限まで時間があるし、調査する分には大丈夫だろう。俺は空中に魔法陣を書き亜空間と繋げる。亜空間から防寒具と三節式の警棒を取り出し、防寒具を着る。防寒具は登山用の大型の防寒着とデカい鍋つかみのような手袋だ。警棒は狂科学者特製のアダマンタイトでできた警棒らしい。本当かどうかは知らんがな。俺は装備を整え『冷凍庫』の扉を開ける。古めかしい音を立てながら扉が開く。するとドライアイスに水をぶっかけたような白い冷気の煙が扉から漏れ出てくる。………寒!
そんなことを思いながら中に入っていく。もちろん扉は閉めないで開けたままだ。中は何もなくただただ白い空間が続いているだけだ。しばらく進むと何やらデカい『大剣』が祭られた霜が張り付いた祭殿?があった。…………なんだこれ。『魔眼』で視るに『魔素』は確かにこの『大剣』に吸い込まれているけどこの『大剣』自体にはそれらしき特別な力があるとは『窓』には表示されない、が。この『大剣』どうやら未知の素材でできているらしく材質不明の素材が幾つも視られる。俺はとりあえず『魔眼』で得られたものを脳内HDDに保存しておく。しっかしどこからどう見てもただの鉄の塊なんだけどなぁ。
どうやって『魔素』を吸ってんだろ?……とりあえず『大剣』は置いておくことにして『大剣』が置かれている台座を調べてみることにする。……ふむ。どうやらこの『大剣』は俗に云う『魔剣』みたいだ。元々は此処のオーナーのコレクションの1つらしいが、詳しい事は台座には書かれていなかった。んでこの『魔剣』は水を自在に操り持ち手の敵を屠っていたらしい。でもまぁ何故『魔剣』と呼ばれているのかもどういうリスクがあるのかも台座には書かれていなかった。俺は他に何かないか探したが何もなかった。
此処で考えられる選択肢は2つ、1つはこのまま帰る。もう1つはこの『大剣』を触ってみるということ。前者はかなり後悔しそうだけど危険はない。後者はかなり危険だ。『魔剣』の中には持ち主の意識を奪うタイプの物もあるらしいからな。さて、どうするか。……旅団じゃないけど困ったときはコインで決めるか。
「…………表が出たらこのまま帰る。裏が出たら触ってみる。」
と呟き、手袋を外すし先ほどの1円を取り出す。1円を親指で弾き、左手の甲に乗せ右手で抑える。そして右手をのける。出た面は………裏だ。……まぁ後悔はしなさそうだしいざとなったら右腕自切するしな。俺は自分にそう言い聞かせながら『大剣』の近くまで来る。『大剣』の近くは冷気が凄い感じだ。もうブリザードだな。俺は『大剣』の柄を見る。
「…………ええい!ままよ!南無三!!」
俺は勢いのまま右手で『大剣』の柄を握る。すると、今まで『魔素』を吸っていた『大剣』が急に『魔素』を吸わなくなった。空間が静寂に満ちる。そして次の瞬間!『大剣』全体に黒い『靄』が滲み出てきた。その『靄』は俺の右手に触れると、全ての『靄』が一斉に俺の右手に張り付いてきた!うぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉ!!感触、気持ち悪!そんなことを思っていたら『窓』にこの『靄』の情報が表示される。って俺が浸食されとる!!いかん!このままでは死んでしまう!俺は手を離そうとするが、
「ふんぬ~!!って、は、離れねぇ~!!」
離れねえ!どうしようどうしよう!しかも奥の手の右腕自切も何故か使えないし!うぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉおぉ!このままではこの『大剣』の操り人形に………
「な、舐、め、ん、な!ゴラァ――――――――!!!!!」
俺は自分の全魔力を左腕に集約させる。高密度になった『魔力』は左腕を白く発光させ、『魔力』と大気との摩擦により紫の雷を纏い攻撃性を持つ。俺はその左腕を右腕に憑りついている『靄』に向かって直に殴りつける。すると、俺の右腕に憑いていた『靄』が消滅した。文字どうり完璧に。だが、『靄』は『大剣』からまだ溢れ出てている。俺はそのまま全魔力を集約させた左腕で『大剣』の腹を思いっきり殴りつける。すると『大剣』から溢れていた黒い『靄』が全て完全消滅する。だけではなく、殴りつけたところから『大剣』全体にひびが入っていく。そしてひびが『大剣』全体を覆った時。バァンという炸裂音と閃光とともに『大剣』が砕け散って消滅した。
と思ったが、俺は閃光から回復した目で右手を見てみるとそこにはさっきまで俺を浸食しようとしていた『大剣』ではなく、青く輝く刀身を持つ日本刀?があった。この『日本刀』だいたい太刀と日本刀との間くらいの大きさだ。どっちで呼べば分からんから『日本刀』と呼ぶがこの『日本刀』からはあの黒い『靄』は出ないみたいだ。しかもこの『日本刀』はなんかこう神聖な感じが見て取れる。『魔眼』で調べてみるが意味不明な専門用語っぽいのが出てきて理解不能だ。しかもこの『日本刀』の銘が変な文字でまったくわからん。こりゃ現代の言語じゃないな。おそらく滅んだ国の言葉かな?まいったねぇ。……でも、ま、いっか。この『日本刀』が入手できたんだし。
俺は取り合えす『窓』の情報を脳内HDDに保存した後、他にも危険がないかどうか調べた。が、危険物らしき物は見つからなかった。いやぁ、よかったよかった。しっかしこの『日本刀』何なのかね?そう考えていたとき。急激な立ちくらみが俺を襲う。頭が割れそうに痛くなり、全身に力が入らなくなる。っとっと。いかんな『魔力』を無理に使ったからそのツケが来たか。俺は『日本刀』を持って冷凍庫からでて一階に上がる。
「っと、忘れてた。」
俺は防寒着を脱ぎ作務衣に戻る。そして空中に光に魔法陣を書き亜空間と繋げる。亜空間に防寒着と警棒と『日本刀』を亜空間に放り込み亜空間を閉じる。その後廃ビルの外に出て結界を抜ける。ついでにショベルカーとかダンプカーなどの建設機械および建設用品を丸ごと亜空間に放り込み、認識阻害を自分にかけ【翔封界】で空を飛び、寮へと向かう。俺はその道中ポツリと呟く。
「眠みぃ………。」
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