第15話精霊
―――リスティナ貿易国家:何処かの路地裏―――
突然だがリスティナ貿易国家は大雑把に分けて東西南北の区に分けることができる。そして、それぞれの区をさらに3つの番地に分けることができる。北区と接している東区の番地を1番としてそこから時計回りに2番、3番となっていて全12番地となっている。主に北区に商人や町人が住んでいる住宅街だ。東区は海に接していて港や造船所、貿易品を売る店や露店が集中していて高い買い物や、商品の取引は主に此処で行われる。西区は主に『ワーク』など集中的に建っていて市民の憩いの場である。南区は快楽街とスラム街が一緒にある場所で一番物騒な場所だ。
というのがリスティナの大体の地理だ。そして自分が何処の地区にいるかは都市の中央にある城を見れば一目瞭然なんだそうだが。
「…………見えない。」
そう、見えないんだよ。何故見えないのか。それは俺が何処かの路地裏に迷い込んじまったからだ。え?なんでそんなとこにいるかって?いや実はさぁ、最初は宿を探してたんだけどね何時の間にか路地に入っちゃったんだよ。…………なんでこうなった。orz
……はぁ、いつまでも落ち込んでいられないしな。さっさと表通りに出るか。そう思い俺は歩き出そうとすると路地裏を形成している建物の裏口が勢いよく開き中から人影が飛び出してきた。人影は俺が見えなかったのだろう。俺に勢いよくぶつかって後ろに吹っ飛んで尻もちをついている。
人影をよく見てみるとそれは少女?いや、成人女性か。ボロ布を全身に纏っていて素顔は見えないが体型でおそらく女性であるとわかる。まぁ、本当にかどうかはわからんがな。唯一見えるのは顔の下半分と首、そんで首に付けている南京錠付きの革の首輪?だけだ。
「う、うぅ?……っは!」
とさっきまで尻もちをついた衝撃で呻いていた女性は、漸く俺に気づいたようで尻もちをついた体勢から勢いよく飛び起きて、こちらに対して身構えている。
む、この女性……できるな。俺は女性を観察する(エロい意味ではなく)。女性が身構えた体勢には隙が1つだけある。逆に言うと隙が1つしかない。おそらくは敵がその隙を狙ってきた攻撃に対して反撃して仕留めるのだろうな。だけどなんだ。女性は何かに怯えているような?
とそんなことを考えていると、女性が飛び出てきた扉から、いかにも悪役のような醜悪面の男が出てきた。頭は剥げてつるっつるで陽光が差せば太陽拳が出来そうな程だ。体形はいかにも悪役のようなメタボリックボディーで、顔は飛び出た豚鼻に捩じ曲がった尖った耳。所謂オークだ。
女性はバッ!っと後ろを振り返りオークを一瞥。唇を固く結び、俺に背を見せないようにオークにも対処できるように構えなおしている。
ん~、現状から察するにこの女性はオークから逃げてきた。だが、建物から逃げ出したところで俺とぶつかりオークの仲間ではないかと警戒した。オークが追い付いた。現在。
……ん~、つまりオークが悪役か?でも、これだけで決めつけるのもなぁ~。ってか俺警戒されるほど怪しいかな?……ガスマスクは外した方がいいかな。
とそんなことを考えていたらオークが……
「ブヒヒヒヒ、やっと追いついたブヒよ。お前は高い金を払ってかったブヒからねぇ。逃げられたら困るんだブヒよ。」
うん、前言撤回、こいつ下種だ。てか典型的な悪役だなぁおい。さすがにこんな奴は滅多にいな…………そういやイケメン君の|人助け(フラグ建て)でいたなこんな奴。
「さぁ、殺されたくなければさっさとコッチに来るブヒ。」
と言いながら、赤黒い水晶を取り出して女性に見せびらかしているオーク。女性の方は水晶を見てハッ!と右手で首輪を触ってなんか呆然自失?してその場にへたり込んでいる。
う~ん、話の流れからすると、あの女性は奴隷ってところか。んで、あの水晶と首輪が逃亡防止機構の装置兼奴隷の証ってとこかな。さて、どうしようか。関係ないからそのまま此処を去る。ってのが普通なんだろうけどなぁ。日本人の性か俺の気質か、何故かこういうのは見逃せないんだよなぁ。あれかイケメン君の人助け症候群がうつったかな。……まぁいいや。
俺は目の前の光景を眺める。オークは未だに水晶片手に女性にコッチへ来いと叫んでいて、女性は両手で首輪を触りながら呆然としている。
さて、んじゃ人助けと行きますか。……あ、人じゃないんだったけ。……まぁ、いいか。
俺はまず『魔眼』を発動させて、首輪と水晶を視る。……ほう……これは………なるほど、どうやらあの水晶はリモコンの様で、あれを操作することによって首輪から奴隷に向けて何らかの罰を与えるみたいだ。んで首輪にはなんかスタンガンっぽい機能と自爆機能が付いていた。ふ~む、此処はあの水晶を奪うのが一番なんだろうがなぁ、あの水晶には持ち主を登録してその登録者にしか操作できないみたいなんだよね。水晶を破壊しても首輪は壊れないし、別の水晶で再登録もできるから根本的な解決にはならないしな。
ということは、あの首輪を破壊するしかないかな。幸い『魔眼』で読み取った情報によればあれには魔法が組み込まれていて、その魔法によってあの首輪を維持しているみたいだ。逆に言えばその魔法を破壊すれば首輪も破壊される。ということだ。よし、んじゃやりますかな。
そう思いながら俺は縮地で女性の目の前に移動する。あ、そうそう。俺、縮地使えるんだよ。まぁ最大5m程だけどな。
そんなことを考えながら、俺は女性の首輪を掴む。女性は驚いておそらく反射的に俺を殴るが、余程首輪の事がショックだったのか力が籠ってない。俺は女性のパンチを無視しながら『窓』に映し出されている首輪を形作る魔法を破壊していく。破壊はすぐに終わった。てか首輪に干渉を防ぐファイヤーウォール的なものが全くなかった。予想以上に此処の魔法は発達してないな。まぁいっか。楽だし。
俺は機能を失った首輪を片手で引っ張る。すると首輪は簡単に千切れて砂になった。
「……え?」
と女性は呟きながら自分の首を触り、バッ!と驚いたように此方を見るが今は無視だな。俺はその場で振り返りオークを見る。オークは何やら自分が持っている水晶と俺に視線を何度も行ったり来たりさせている。
ふぅむ、こいつ意外と小心者みたいだな。足が震えてら。……脅せば帰りそうだな。
「おい、そこのオークよ。選べ。このまま此処を去り、二度と俺の目の前に姿を現さず生きるか。此のまま此処で死ぬかだ。」
と殺気を解放しながらオークに宣言する。オークはヒィ!っと悲鳴を上げながら裏口から建物の中にあの体形では考えられないほど速く逃げて行った。
俺は殺気を収めながら女性の方へと振り向く。女性は物凄く怯えたように少し後ずさっている。うわ!メッチャショック!……俺そんなに怯えられるような量の殺気出してたかなぁ?
「えっと、大丈夫か?」
と俺はしゃがみながら女性に声を掛ける。
「っひ、い、いや、……痛。」
と女性が怯えながら後ずさる。が後ずさった後に右手を抑えて呻いている。
うん?怪我したのかな?そう思いながら俺は女性に近づき右手首を手に取る。
「ちょっと失礼。」
「ひ!や、やめ……」
う、物凄く怯えてるよ。だ、だがこれは診るためだ。仕方ない、仕方ない。俺はそう言い聞かせながら女性の手首を見る。
あ~、切れてら。それもパックリ切れてるから血がドクドク出てるよ。こりゃ痛いな。
「ひぐ、痛、う、う、」
あ~あ、恐怖と痛みで涙と鼻水で顔がグシャグシャになってら。はぁ、んじゃ、治療しますかね。
俺は傷口に右手をかざし『言霊』を紡ぐ。
「んじゃ、ちょっと我慢してなぁ~。【聖なる癒しの御手よ。母なる大地の息吹よ。願わくば我が前に横たわりしこの者を、その大いなる慈悲にて救いたまえ>>>・治療】」
俺が『言霊』を紡ぐと、かざしていた右手から白い光が出て傷口を覆った。傷口は時間の経過と共に塞がっていき、数秒後には治療の光と共に傷跡を残さずに綺麗さっぱり消え去った。
「うし、成功だな。」
「え?傷が……。」
と女性は自分の右手首を見て驚いている。
「どうだ?手首は動くか?」
「え?は、はい。大丈夫です。」
「ん、よかった。」
と言い俺は女性の頭を頭のボロ布越しに撫でる。
「は、はい……………………////ふにゃぁ。」
女性は返事をしながらも頭を下げて俺に撫でられている。うん?最後の方に何か言ったような……。まぁいっか。
「さて、これからどうしよ。」
と俺は女性の頭を撫でながら呟く。
此処の位置が分からない今、俺は宿が在ると思わしき東地区にも行けないしな。ほんと、どうしよ。
そんなことを考えていると撫でていた女性が顔を上げて俺を見て。
「あ、あの。」
と声を掛けてきた。
俺は女性の頭から手をどけて中腰、もといヤンキー座りで座り……
「ん?なにかな?」
と声を掛けると、女性は立ち上がって……
「あの、有難うございました。」
と頭を下げてきた。
「いやいや、俺はただ自分の性に従って行動しただけだから、そんな、礼を言われるようなことは……。」
「でも!……あなたは私を助けてくれました。私はあなたに恩を返したいんです。おこがましいのは分かっています。けど、お願いします。」
「……だけどなぁ。」
俺は後頭部を掻きながら立ち上がって呟く。
なんか、今まで誰かを助けて感謝されるような事が無かったから凄い照れくさい。
「はぁ、仕方ない。ちょっと照れくさいが……。いいよ。んじゃ、俺に恩返しをしてみてくれ。」
「は、はい!…………////じゃ、じゃあ、////わ、私と、け、契約してください。」
……………………………契約?
「あ、ごめん。契約って何?」
「え。…………あ、////す、すみません。////じゃ、じゃあ説明しますね。」
「ん。っと、その前に。はいコレ。」
と言いハンカチを渡す。
女性は意味が解らなかったのかハンカチを持ったまま俺を見ている。
「説明する前に顔。拭いた方がいいよ。」
と俺が言うと女性は慌てて顔を触り、慌ててハンカチで吹き始めた。よほど恥ずかしかったのか顔を拭いた後も、顔を赤くして俯く女性。
おお、顔真っ赤だ。う~ん、可愛いなぁ。
「////えっと、じゃあ、説明する前に自己紹介しますね。」
「ん、ああ、よろしく。」
「私の名前はリーディアス。リーディアス・アルクリムスと言います。種族は土精霊の派生精霊の砂漠精霊です。」
「ん、俺の名前はザザ。赤眼のザザだ。種族は人魔族だ。……って、精霊って、あの精霊?」
「はい。おそらくザザさんの考えているのと同じ精霊です。契約についてはまず、精霊という種族について説明します。精霊とは……―――。」
と女性、もといリーディアスさんは精霊と契約について詳しく教えてくれた。多少長かったので簡単に纏めてみるとこういう感じになる。
・精霊とは、主に何かしらの力がある場所(主に神域とか聖域とか)に膨大な『魔素』が集まった際、その『魔素』が精霊になるらしい。そんで、精霊は自分が誕生する時に集まった『魔素』の量がその精霊の寿命になるみたいだ。
精霊の属性というか種族?はその『魔素』の集まる場所で変わるみたいで、大雑把に分けて4つの種族がらしい。火山とかのある場所ならば火精霊、海とかのある場所なら水精霊、風が年中吹いているある場所なら風精霊、荒野などの土だけの場所なら土精霊が誕生するみたいだ。
あ~、あと。ごく稀に精霊と他種族の間で子どもが生まれる場合もあるらしい。けど、本当に極々稀みたいだがな。んで、その子どもは半精霊と呼ばれるみたいだ。まぁ過去の前例は無いみたいだけどな。
・派生精霊とは、先に言った大雑把にまとめた4つの種類の中でさらに細分化した種族の事を派生精霊というみたいだ。まぁ、例を上げるとしたらリーディアスさんの土精霊の派生精霊の砂漠精霊といったところかな。土は砂、石、岩、鉱物などなどいろいろ在るからな。もちろん土だけじゃなく4つ全ての精霊に在るみたいだ。
まぁ、1つの属性じゃなく。2つ以上の属性が組み合わさった派生精霊もいるみたいだけどな。まぁ、今は関係ないか。
・契約とは、精霊が他種族に力を与えるときに用いる儀式らしい。どういう儀式かは教えてくれなかったが、精霊とその他種族の双方の同意のもと行われるみたいで、その精霊の属性を契約相手の他種族の魔法適性に追加、またはその属性の威力を高めるらしい。そのほかにもいろいろ特典があるみたいだがそれは契約しなければ分からないみたいだ。
契約の仕方は、まず双方の真名を交換し、儀式を行う。そうすると契約が完了するみたいだ。他にもいろいろ在るみたいだが省略された。
まぁ以上がだいたいリーディアスさんからの精霊と契約の説明だ。
それよりも説明の最後の方にあった双方の真名の交換だ。……俺、偽名だけど。……ダメだろうなぁ。でも人間って言っちゃうのもなぁ。
「―――……で以上です。」
とリーディアスさんがまだ若干顔を赤くしながら言う。
「お願いします。私と契約してください。」
と俯き加減に言っている。
う~ん。どうしよ。契約っていうぐらいだし、結構重要なんだろうしなぁ。けどなぁ。真名の交換はなぁ~。真名を言っちゃうと種族も言わにゃぁならんし。う~ん。
俺は唸りながらリーディアスさんを見る。
「う、うぅ。」
と手を祈るように胸の前で組み、俺を涙目で見てくる。
……これを無視するのもなぁ。う~う~。どうしよう。
……………………………………………はぁ。俺もつくづくお人よしなのかな?
「はぁ、いいよ。契約しよう。」
「あ、有難うございます!」
と言い頭を下げてくる。
「けど、契約の前に言っておかなきゃならない事がある。」
「はい?何でしょうか?」
俺はフードを脱ぐ。
「今から言うことは絶対に他言無用だ。いいな。」
「は、はい……。」
俺はさらにヘルメットとガスマスクの留め金を外す。
「さっき言った名前なんだがな。実は偽名なんだよ。本当の名前はな。」
「本当の名前は?」
俺は右手でガスマスクを取り外し、左手でヘルメットを取る。
「俺の本当の名前は久我、久我幸助。種族は人間だ。」
と宣言しながら俺はリーディアスさんを見つめる。
すると、ヘルメットに押さえつけられていた黒髪が跳ね起きる。……………関係ないな。
「……………………え?ええええええぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇ!!!!……はぅ。」
とリーディアスさんは大声で絶叫し、そして倒れた。いや気絶か。
……あれ、この状況どうしよ。
感想をお待ちしております?