バナナの皮
この前、会社の花見の時に若い女性社員が珍しく同席する機会があった。以前から少しは話しかけたりしているが、女性社員から話しかけられることはなかった。だから、今日もいつも通り挨拶をして、7割は仕事の気分で緊張していた。
桜の木を見上げながらこの花が一番綺麗なのは晴れの日に枝に花をつけて満開になっている様が良いとオレは思う。特にこだわりはなく、咲いていていいなと思う、それが一般的だろう。
おやつの時間になった。同僚がバナナをたくさん持ってきた。オレはバナナを一本だけ手に持って女性社員に話しかけてみた。
「バナナってさ、三日月みたいだよね」
女性社員は隣で暇そうにしているが、話しかけたオレに気が付かない。スルーされたかなと思って見つめながら、再度声かけをする。
「オレのバナナ食べる?」
女性社員はいかにも心外な反応をした。でも試すようなオレの視線に気がついて、こう言った。
「あなたのバナナが食べたい」
今度はオレが心外な反応をする。でも女性社員はオレをまっすぐ見つめて真剣な表情だった。
「じゃあ」
そう言うとバナナの皮を4つに剥いてあげた。右手で隣の女性社員に見せる。女性社員がバナナに顔を近づけて口を開ける。オレは待った。女性社員がバナナを一口だけ噛み切るのを見届ける。女性社員が微笑んでオレに言う。
「ほいひい」
オレはその食べかけのバナナを一口食べた。オレはうなずきながらこう言った。
「ね」
カラスが鳴きながら頭の上を飛んでいた。瞬間、オレたちを満開で迎えてくれていた花が一斉に散った。風もなく、もちろん雨もない。その桜の木の真下に居たオレたち二人は散った桜の花びらに全身が染まったようにまみれる。
「何だこれ」
二人で顔を見合わせて笑い合った。桜の花びらがトッピングされたバナナがあと一口分残っている。オレが食べようか、女性社員に声かけするかの判断をしようとする。
そして女性社員の方を見ると、さっきと同様にまっすぐ見つめて真剣な表情だった。
「オレのバナナ食べたい?」
女性社員は笑いを堪えられずに楽しそうに声をあげた。そして答えた。
「そうだね。食べたい」
桜の花びらのように少し透けて見えた女性社員の心に負けないようにオレも素直な気持ちになっていた。
オレと彼女が一緒にバナナを食べる時は二人がこの時といつも再会する時。




