お似合いの二人
「西・ロベルティス、東・バロワ。向かいあって礼!」
二人が礼をして剣を構える。
「始め!」
剣が当たる鈍い音が響いた。
身軽な攻撃が得意のアレクはいつも軽くて細身の剣を愛用しているのだけど、模擬戦は学園の用意した刃を潰した剣で戦わねばならないのがハンデだ。
私はハラハラしながら二人の戦いを見つめる。
今日は、王立学園の騎士科の模擬戦。模擬戦とは言え、勝ち抜いた戦績は成績や就職に反映するので、観客席から見ていても皆の熱気がすごい。
広い競技場を四分割して同時に試合をしているので、あっちでもこっちでも熱気で燃え上がりそうだ。
授業中だというのに、観客席にはちらほらと見物客が。試合に出場する騎士科の生徒の婚約者たちだ。推しの騎士に会いに来ただけの人も、こっそり混じっているだろう。
淑女科の可憐な淑女たちの応援は騎士たちの士気を上げる、と先生たちは黙認してくれている。
そう考えると、制服の上に汚れた白衣を羽織っている研究科の私は完全に悪目立ちしている。
チラチラこちらを気にしている淑女たちが、
「誰あれ?」
「ほら、アレク様の研究科にいるという婚約者よ」
とか言っている気がしてならない。
うーん、せめて白衣はやめて、髪もちゃんと整えて来れば良かった……。はっ! これが「恋をすると綺麗になる」ってやつ?
などと考えている間に、アレクが相手の間合いに飛び込んで相手の剣を弾き飛ばした。
放物線をかいて、2.3メートル先の土に剣が突き刺さる。
「勝者、バロワ!」
教師の判定に、私は他の試合の妨げにならないよう小さく拍手した。
はあ、あの麗しいアレクが私の婚約者だなんて、未だに信じられない。
名門のバロワ伯爵家から、領地も持たないなんちゃって子爵家のうちに縁談が申し込まれたのは先月の事。
「えっ? バロワ伯爵家のアレク様と私が? あの顔よし(遠くから見ただけだけど)剣よし(同じく遠くから略)性格よし(もちろん喋った事など無い!)と評判の、騎士科のアイドルのアレク様が私と? 何の間違いか知らないけど、バロワ伯爵が間違いに気づく前に婚約しましょう!」
と、速攻父に縁談を受けさせた。
たとえ陰謀が隠されていて卒業パーティーで婚約破棄されようとも、一瞬でも「アレク様の婚約者」の座に就けた我が人生に悔いなし!、とはしゃぐ私に母だけは「騎士科だなんて。マリィにはもっと大人しい人の方が……」と言ってたけど。
母の心配に反して、顔合わせをすると騎士科のアレク様と研究科農学部で土まみれになって寒さや病気に強い品種作りに励んでいる私、という異種格闘技な私たちは意外にも気が合った。
お互いに自分に無い部分に敬意を持っているからだろう。
「バロワ様が私の研究発表を読んでくれてたんですか?」
「どうか『アレク』と呼び捨てに」
「はっ、はい!」
研究科は試験が無い代わりに、順番が来たらどんなに大きくても小さくても研究結果を掲示板に発表する事が義務づけられている。この前私の番になって掲示したのは……。
「肥料の改良の研究……。え? 肥料の話を読んだのですか?」
「はい。それで驚いてハドソン様の名前を覚えてました」
「あ、私も『マリィ』と呼んでください(婚約者っぽい!)」
えっと、畑に撒く肥料の話ですよ……?
「マ、マリィの研究発表を読むまで、恥ずかしながら土に肥料を与えないと野菜が実らないと知らなくて……。種を蒔けば実がなるものだと思っていたもので、読んでびっくりしました」
マリィは素晴らしい研究をしているのですね、なんて微笑むアレク様を見て、五体投地してこの人を私の婚約者にしてくれた神に感謝を捧げたくなりましたとも!
「マリィ! 見に来てくれたのですね」
「アレク」
アレクが観客席に来てくれました。
戦いの後のアレク。頬が少し上気して、長い水色の髪が乱れて更に麗しい……。
「とても凛々しかったです。アレク」
「ありがとうございます。次も頑張ります。あの……。これは私が勝手に決めた事なのですが、もし、この模擬戦で入賞出来たら、私は騎士になりたいと思ってます」
「はい……」
ってか、そもそも騎士になりたいから騎士科にいるんですよね?
「あなたと結婚しても、あなたの家に入っても騎士は辞めないつもりです」
「はい……」
ん? 何か問題でも?
「いいんですか?」
「はい、全然かまいません」
なぜ驚いてるんだろう?、と思っていたら、アレクは言いにくそうに切り出しました。
「実は……、父がハドソン家に縁談を申し込んだのは、学者の家系に私が入ったら、きっと騎士など野蛮だと辞めさせられるだろうと考えたのです」
なるほど、意外な縁談の謎が解けました。私は少し笑ってしまいます。
「それは目論見が外れましたね。うちは『興味のある事は徹底的に研究しろ』がモットーなんです。祖父の妹なんて、酵母菌にハマってパン屋になりましたよ」
今でも新しい酵母菌を見つけてはパンを焼いているとか。
「なので、アレクが剣の道を極めたいと思うなら、我が家の総力で後押ししますよ。もちろん、私も協力します」
アレクの希望なら、どんとこいです。
「マリィ……。ありがとう」
ほっとしたのか俯いたアレクの右手を、そっと取ります。
「アレクが誇りをかけて戦うのを『勝敗なんてどうでもいい』とは言わない。でも、勝利よりあなたが怪我をせずに帰ってくる事を願っている人がいる事を忘れないで」
アレクの手の甲にキスをします。
アレクのお父さんも、本当はこう言いたかったんだと思いますよ。
「わっ分かりました!」
赤くなってアレクが手を引き抜いてしまった。ちえっ。
「じゃあまた!」
逃げるように去って行くアレクに小さく手を振りました。
「マリウス!」
「やっぱりアレクサンドラ嬢の所にいた! 研究棟にいないと思ったら」
研究科の友人たちに見つかってしまった。
「いいなぁ。アレクサンドラ嬢が婚約者だなんて」
水色の長い髪が遠ざかって行く。すれ違う令嬢たちがうっとりとアレクを見送っている。
「でもさ、最初は意外な組み合わせだと思ったんだけど、二人で話しているのを見たら何かしっくり来る感じだよなぁ」
そういえば母も、最近は「マリィにはもっと大人しい娘の方が……」と言わなくなったな。
「それより! 研究の定時計測の時間だ、戻るぞ!」
「え? いや、せめてアレクのもうひと試合くらい」
「ダメダメ! 正確な記録のためには、時間厳守で的確な測定!」
「誰か代わってくれー!」
「誰が代わるか」
「大丈夫、マリウスがいなくても、アレクサンドラ嬢を応援する人はたくさんいるよ」
「それはそれで嫌だ!」
抵抗虚しく、研究棟に引きずられて行く私だった。
2026年4月20日
日間総合ランキングで11位に
なりましたー!
ありがとうございます!
読む人を引っ掛けてしめしめと笑う快感が
癖になりそうですw




