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第六話 模写

 その絵を最初に見つけたのは、東堂ではなかった。


 未解決係の端末で、古い事件資料をスキャンしていた若い巡査が、首をかしげたのが始まりだった。


「……これ、似すぎてませんか」


 呼ばれて画面を覗き込んだ東堂は、しばらく言葉を失った。


 そこに映っていたのは、十数年前の捜査資料に添付された写真だった。

 押収品。

 被害者の部屋に残されていたスケッチブック。


 白い壁。

 路地。

 灯り。

 構図の取り方。

 余白の置き方。


 ——不知火灯の絵と、ほとんど同じだった。


「作者は?」


「不明です。当時は“落書き”扱いで、深く調べられていません」


 東堂は、喉の奥がひりつくのを感じた。


 模写。

 あるいは——


「コピーじゃない」


 三嶋恒一郎が、低く言った。


「これは、同じ“見方”をしている人間の絵だ」


 その言葉が、重く落ちる。


 同じ未来を見ている人間。

 あるいは、同じ方法で未来を作ろうとしている人間。


 その頃、灯は、知らない番号からのメールを受け取っていた。


『あなたの絵を、見ました』


 短い文面。

 差出人は匿名。


 心臓が、はっきりと一度、強く打った。


『正確ですね』

『でも、足りない』


 灯は、すぐには返信しなかった。

 机の上のスケッチブックを閉じ、部屋の電気を消す。


 暗闇の中で、スマートフォンの画面だけが光っている。


『未来は、もっと整理できる』


 次のメッセージが届いた瞬間、

 灯は確信した。


 ——見られている。


 同時に、描かれている。


 東堂から電話が入った。


『不知火さん、今すぐ確認したいことがあります』


 灯は、匿名のメッセージを伏せたまま答えた。


「……何でしょう」


『過去の事件で、あなたとほぼ同じ絵が見つかりました』


 やはり。


「私以外にも、描ける人がいる、ということですか」


『分かりません。ただ——』


 東堂は言葉を切った。


『“同じ未来”を見ている人間がいる』


 灯は、目を閉じた。


 それは救いではなかった。

 孤独が消える代わりに、恐怖が増える。


「東堂さん」


「はい」


「その人は……

 未来を止めようとしていると思いますか」


 少し、間があった。


『いいえ』


 東堂の声は、はっきりしていた。


『未来を、使おうとしている』


 電話を切ったあと、灯は椅子に座り込んだ。


 机の上に、スケッチブックを置く。

 開く。


 新しいページに、すでに薄い線が浮かび上がっていた。

 描いた覚えはない。


 白い部屋。

 壁一面に貼られた絵。

 その中央に立つ、背中だけの人物。


 人物の足元に、文字のようなものが描かれている。


 ——展示。


 灯は、スケッチブックを閉じた。


 これ以上、描いてはいけない。

 だが、もう始まっている。


 未来は、誰かの手によって、

 複製され、並べられ、意味を与えられようとしていた。

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