31 プロモーション出演依頼
今日も吾輩は平穏な日常生活を過ごしている。
「にゃー。平和が一番である」
『バン!』と大きな音と共に主が部屋に入ってきた。
「やったぞ!じょにー。販売が決まった!」
「なんと、販売第一弾がチャッピーだ!」
「にゃ?」
なんだ?チャッピーって何?
吾輩には主の言っている事が理解出来なかった。
「じょにー。なんだか不思議そうな顔だね。チャッピーとはMR3の商品名だ!」
主はとても嬉しそうに吾輩に説明してくれた。
「らいでんの量産モデルの販売が先だと思ったんだけど、実験で撮ったプロモーション用のビデオでMR3に注目が集まってね。少し意外だったけど結界オーライだ」
「チャッピーの販売後には直ぐ第二弾として、らいでん量産モデルが販売となる」
「いやー。順調順調。絶好調って感じだね」
主は嬉しさ爆発といった様子で興奮冷めやらずである。
「じょにーには、販売用のプロモーションビデオに出演のオファーがあるよ」
「世界のじょにーになっちゃうかもね。はは・・」
「にゃ?」
主はまた理由の分からない事を言っている。
吾輩?なんで?
「実験の映像でじょにーが豪快にMR3を弾き飛ばしているのをお偉いさんが見て気に入ってね。是非、じょにーが豪快にチャッピーを弾き飛ばしている映像を使いたいらしい」
「3日後にプロモーション用の撮影があるからじょにーとらいでんも一緒に行くよ。楽しみにしていてね」
なんだか分からないが、おかしな事になったようだ。らいでんまで一緒に行くのは、更に何かをするのだろうか?考えてもさっぱり分からない。吾輩にとっては楽しみではないのだが。
なるようにしかならないかな・・・。
吾輩は、考える事を諦めた。
「今日はこれから実家に帰るよ。撮影に向けてじょにーをミキに綺麗にしてもらうからね」
その日は急遽、主の実家に帰ることになった。
いつものように主の車で実家に向かう。
「さあ着いたよ」
主に声を掛けられ吾輩は少し気が重くなる。
「私の愛しいじょにー!!会いたかったわ。もう離さない!!」
家に着くと直ぐにママさんに抱き上げられて、熱烈なキス攻撃が吾輩を襲う。
「ハル。今度こそ私のじょにーを勝手に連れて帰らないで。毎日会えない悲しみで私、死んでしまいそうよ」
「何を言っているんだか。そんな事で死ぬ事はないから安心して。そもそもじょにーの飼い主は俺だから。忘れないように」
「それから今日急遽帰ってきたのは、ミキに用があったんだ。試作したロボットの本格的な販売が決まって、プロモーション用の撮影にじょにーが出演するからグルーミングをお願いするつもりだったんだ」
「まあ、素敵。私の愛しのじょにーが世界デビューを果たすのね。じゃあ、貴公子に似合う衣装を用意しなくちゃ」
吾輩はまたおもちゃにされるかもしれないと思うと早く研究所に帰りたかったが、それは無理な願いなのだろう。
ママさんが吾輩をいつ解放してくれるのだろうと考えても、状況を変えることは難しいので諦めるしかなかった。
「吾輩、どうなっちゃうのだろう・・・」
ママさんが解放してくれない時間の最長記録更新である。
「にゃぁ・・・」
とりあえずママさんに訴えてみた。もう開放してほしい。
「あら、じょにーは日向ごっこがしたいのかしら」
「じゃあ、私も貴公子の衣装を用意しなければいけないし、じょにーはお休みしててね」
ようやくママさんは吾輩を開放してくれた。吾輩の心を癒すためにはお昼寝が必要だ。
吾輩は窓際で日の光を浴びながら心地よい休息を取った。
しばらくの時間安らぎを取り戻した吾輩であったが再び囚われの身になろうとしていた。
「じょにー。お待たせ。最高の衣装が出来上がったわ。これで貴公子じょにーが世の女性たちの多くを魅了するわ。じょにーの恋人として鼻が高いわ」
何事かと思い目を覚ますと、何やらとんでもない事を言っているようだ。
やはり吾輩はおもちゃにされる運命であったようだ。
「さあ、どうかしら。絶対に似合うと思うわ。まずは白地のシャツね。首元はゆったりさせておくわね。それからベストは茶色の生地で草花の模様を色とりどりに刺繡したわ。今回の首元は、クラバットではなく白地のリボンスタイルにして、首を絞めすぎないようにゆったりした状態にしておきましょう。そして、深緑色の生地で作成したジュストコールは、袖口に金色のリバーレースをつけて、さらに全体に煌びやかな草花の装飾を施して豪華さを演出するわ。最後にチャコールグレーの生地で作ったひざ丈のキュロットも大事ね。しっかり尻尾用の穴は大きめに開けてあるから大丈夫ね」
吾輩はまた見た目豪華な衣装を着ている。
ママさんは先程から吾輩をジーッと見つめている。そして突然、感極まった様子で叫んだ。
「アンドレー!!素敵だわ。アンドレー・・」
ママさんは吾輩を抱きしめ、猛烈なキス攻撃で襲って来る。
「その名前は・・・またですか。だからアンドレって誰?どこの人ですか?吾輩の頭の中はクエスチョンマークだらけです」
そんな吾輩とは関係なしに、ママさんはとても上機嫌である。
「記念に写真も撮っておきましょう」
ママさんは吾輩をソファーの背もたれと肘掛け部分の間にバランスが崩れないように仁王立ちさせた。
「じょにー。少しだけ我慢してね。すぐ終わるから」
ママさんはニコニコしながら嬉しそうに写真を撮っていた。
「ありがとう。じょにー」
ママさんは大満足と言えるほどに満面の笑みを浮かべている。
そして着ていた衣装を脱がしてくれた。
ようやく今はママさんからの拘束もなく自由を得ている。
すでに吾輩のお疲れ度数はMAXである。
夕食を食べ終わった頃にミキちゃんが帰って来た。
「じょにー。ただいま」
ミキちゃんはしばらく吾輩を抱きしめソファーに座っていた。
「さて、少し休んだからじょにーを綺麗にしてあげるね」
ミキちゃんの慣れた手つきで吾輩はいつものようにお風呂で全身を綺麗に洗ってもらう。今回は毛の長さを調整するようで毛を少しカットした後、再びカットした毛を洗い流す。体を綺麗にした後は丁寧に体を拭いてもらい全身のブラッシングである。耳の掃除、爪を整え、肉球に専用クリームを塗り最後に歯を磨いて吾輩に一連のケアを行ってくれた。
「さあ、バッチリ綺麗になったよ」
ミキちゃんはニコニコして吾輩を抱きしめ、数回のキス攻撃の後に頬ずりをして満足そうである。
「じゃあ、私もお風呂に入るかな」
ミキちゃんはそう言うと吾輩を開放してくれた。しかし、吾輩に安らぎの時間は訪れなかった。
大怪獣のごとく、ママさんが現れた。
吾輩に逃げ場はない。当然のごとく抱きしめられてからの熱烈キス攻撃が始まる。ママさんが満足したかと思っても吾輩の拘束は解かれない。吾輩は囚われの身となっている。
ミキちゃんがお風呂から出てくると、吾輩争奪戦が開戦となる。
「私にはじょにーを離さない使命があるの。この戦い、絶対に負けられないわ」
ママさんがミキちゃんに熱く語っている。
「ママ、いいかけんにして!!」
「いやよ。私とじょにーは愛する者同士、離れてはいけない運命にあるの。二人の愛を壊すなんて神でも許されないわ」
「はー。何を言っているのか私には理解できません。じょにーを離して!」
二人のやり取りはいつまで続くのだろうと見ていると、最後にはやはりお決まりの決め方で勝負をつけるようだ。
「こうなったら、ママ、じゃんけんよ。1回勝負だからね!」
「早く準備して」
「えー」
「ママ!いい加減にして」
「分かったわよ・・・」
ママさんが駄々をこねていたが、じゃんけん勝負が行われた。
そして、結果はいつものような結果となった。
「えー・・・。ずるい」
ママさんはじゃんけんがとても弱いのだ。
「さあ、じょにーを離して」
「えー」
しばらく同じことが続き、ミキちゃんが激怒し始めたところでママさんはようやく諦めた。
ママさんは吾輩を開放する前に最後に超強力なディープキッスの一撃をお見舞してきた。
その後、ミキちゃんが吾輩を抱きしめ、いつものように部屋へ連行される。
吾輩の安らぎの時間は失われたまま、長い時間が過ぎていくのだった。




