10 猫型ロボット CR1
今、吾輩の目の前には猫型のロボットがいる。
大きさは吾輩と同じくらいである。銀色で全身がつやつやしている。
猫型ロボットの名前は、CAT ROBOT 1 を略してCR1というらしい。
主が吾輩に教えてくれた事は、この猫型のロボットは、試作1号で吾輩や他の猫たちの行動パターンをもとプログラムされ動くらしい。そして学習能力が備わっているらしい。しばらくは室内で実験をして性能を調べるようだ。
吾輩がご飯を食べていると、CR1は吾輩の傍でじっと見ている。
なんだか見られ続けているのはとても居心地が悪くやな感じである。吾輩は落ち着いた状態でご飯を食べたいのだが、CR1は、吾輩が何をするのかを観察しているようであった。
吾輩が食事を終えて、床からソファーへ、ソファーから棚へ、棚から窓の縁へジャンプして移動をすると、CR1はジャンプの真似をしているが、少ししか飛ぶことが出来ず、ソファーの下で何度も激突していた。
しばらくすると、あきらめたのか下から吾輩を見ていた。
吾輩は、温かい日の光を浴びながら心地よい状態で毛づくろいをしていると、やはり下からじっとCR1が吾輩を観察している。
吾輩にはCR1を同じ場所に連れてくることは出来ないので、とりあえず昼寝を楽しむことにした。
吾輩が眠りから覚めると、CR1は相変わらず下から吾輩を観察していた。
吾輩が床まで下りて水を飲んでいると、CR1が吾輩の傍に寄ってきて「どうだ。うまいか?」と聞いているような気がした。
吾輩が室内で移動をするとすぐについてくる。しかし、室内にあるキャットタワーには上ることが出来ない。上に飛ぶ準備動作はするが、キャットタワーの1段目にすら届かない。CR1のジャンプ力は2・3cmほどである。つまり吾輩にとっては飛べていないのと同じである。
CR1は吾輩を見続けている。
吾輩は段々、CR1からあこがれを持って見られているような錯覚を感じるようになっていた。
吾輩が猫じゃらし君と格闘していると、CR1はやはりじっと見ている。
吾輩は、CR1に猫じゃらし君レベル1で遊べるようにしてあげてみた。すると、吾輩と猫じゃらし君の戦いを見ていたからなのか、CR1が仁王立ちして猫じゃらし君に猫パンチをお見舞していた。
吾輩にはCR1が楽しそうに見えた。ならばと、レベル2にしてみた。
CR1は全く対応できなくなってしまった。細かい動きがまだ出来ないようだ。
吾輩にはCR1が落ち込んでいるように感じた。
吾輩はCR1が喜んでいるところを見てみたいと思うようになっていた。
しばらく吾輩はどうすれば良いのかを考えた。
「そうだ!」
吾輩は閃いた。CR1に吾輩と同じ景色を見せてあげることにした。窓の縁まではいけなくとも、ソファーの座面なら何とかなるのでは?と考えた。いや、なんとかする。一緒にソファーの座面から同じ景色を眺めるのだ!
CR1のジャンプ力は期待できない。でも、2・3cmでも飛べるならそこをうまく考えれば、たどり着けるかもしれない。吾輩は主の持っている本などを歯で噛んで引きずり、ソファーの座面まで長い距離で階段を作った。一部坂になっている場所もあるが問題はないだろう。
「さあ、CR1いくぞ!ついて来いよ!新しい景色を君に見せてあげる」
吾輩はゆっくりと歩いた。ゆっくりジャンプをしてCR1の様子を伺った。途中まで順調にCR1が吾輩の後をついて来ている。しかし、坂道の箇所ですべってうまく登れないようだった。ならば、少し勢いをつけてみようと動きを早くしてみた。CR1も動きを早くしていた。結果、なんとか坂を上ることが出来た。
「よっし!」目指す先はもうすこし。
吾輩は、ソファーの座面にたどり着いた。そして、CR1も無事にたどり着いた。
吾輩は何とも言えない達成感を感じた。
「CR1、やったな!ここがソファーの座面だ。どうだここからの眺めは?」
「最高だよ!じょにー。ありがとう」
CR1が吾輩の問いに答えたような気がした。とても満足した表情で。
CR1はロボットである。感情が表せるような作りにはなっていない。吾輩の勘違いではあるのだろう。でも、吾輩はCR1と友情を感じることが出来た。それで、満足である。
主が部屋に戻ってくると本が散乱しているので驚いていた。
吾輩は主から少しだけお説教をされたのだが、今日だけは仕方がないと受け入れたのであった。
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