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新たな絆と決意

翌朝、村では普段通りの生活が始まった。しかし、カズマとリーフィアの間には新たな絆が生まれていた。


「おはよう、カズマ」


「おはよう、リーフィア」


二人の挨拶に、村人たちもなんとなく微笑ましそうな表情を浮かべている。


「今日は何を手伝おうか?」


「そうね…森の向こうで薬草を採取したいんだけど、一緒に来てくれる?」


「もちろんだ」


森の中を歩きながら、リーフィアはこの世界の植物について詳しく教えてくれた。どれが薬草で、どれが毒を持っているか。森で生きるための知識を、一つ一つ丁寧に。


「この葉っぱは傷薬になるの。でも似たような葉っぱで毒性のあるものがあるから、気をつけて」


「見分け方は?」


「葉の裏の模様を見て。薬草の方は細かい線が入ってるの」


カズマは真剣にメモを取った。この世界で生きていくために必要な知識だった。


「あなた、本当に真面目なのね」


「そりゃあ、生死に関わることだからな」


「でも、そんなに気負わなくても大丈夫よ。私がついてるから」


その言葉に、カズマは心が温かくなった。


「頼りにしてる」


「えっ?」


「リーフィアのこと、本当に頼りにしてるんだ。俺一人じゃ、この世界では何もできない」


「そんなことないわ。あなたは十分強いもの」


「強い?俺が?」


「肉体的な強さじゃなくて、心の強さよ。大切なものを守ろうとする意志の強さ」


リーフィアの言葉に、カズマは古代魔法のことを思い出した。あの時確かに、ルウを守りたいという強い意志があった。


「古代魔法って、心の力と関係があるのかな?」


「きっとそうよ。昔読んだ本に書いてあったの。古代魔法は使う人の心の在り方で威力が決まるって」


「心の在り方…」


「だからあなたの魔法は強いのよ。守りたいものがたくさんあるから」


カズマは周囲を見回した。美しい森、清らかな空気、そして隣を歩く大切な人。確かに、守りたいものがたくさんあった。


薬草採取を終えて村に戻ると、子供たちが駆け寄ってきた。


「カズマ兄ちゃん!今日も一緒に遊ぼう!」


「今度は何をして遊ぶんだ?」


「森で宝探し!昨日隠した宝物を見つけてよ!」


子供たちの無邪気な笑顔を見ていると、カズマの心は平穏で満たされた。こんな日常がずっと続けばいいのに、と思った。


しかし、現実はそう甘くはなかった。



迫り来る影


夕食の準備をしていた時、見張りのフィンが血相を変えて駆け込んできた。


「大変だ!王国軍の斥候が森の外周で目撃された!」


村人たちの表情が一変した。平和な日常に突然投げ込まれた現実の厳しさに、誰もが動揺していた。


「どのくらいの規模だ?」


エルダー・セレンが冷静に尋ねた。


「今のところは数名程度ですが、本隊がいつ来てもおかしくありません」


カズマは罪悪感に苛まれた。自分がここにいるせいで、村人たちが危険にさらされている。


「俺が出て行けば…」


「何を言ってるの」


リーフィアが遮った。


「あなた一人で行くなんて、絶対にダメ」


「でも、俺がいるせいでみんなが…」


「カズマよ」


エルダー・セレンが口を開いた。


「お前さんがここにいることで、確かに村に危険が及ぶかもしれん。しかし、それはお前さんの責任ではない」


「でも…」


「王国が理不尽なのが悪いのじゃ。お前さんは何も悪くない」


村人たちもうなずいている。


「そうよ、カズマ兄ちゃんは悪くない!」


ルウが駆け寄ってきて、カズマの足に抱きついた。


「僕たちを守ってくれたじゃない!」


他の子供たちも同様にカズマの周りに集まってきた。


「でも、このままじゃみんなが危険に…」


「それなら、私も一緒に行くわ」


リーフィアが毅然として言った。


「え?」


「リーフィア、お前まで…」


エルダー・セレンが驚いた。


「この人を一人にはできない。それに、私も外の世界を見てみたい」


「危険すぎる」


「この村にいても、いずれ王国軍に見つかるかもしれないでしょ?だったら、自分たちの足で歩いた方がいいわ」


村人たちは反対したが、リーフィアの決意は固かった。そして最終的に、村全体でカズマたちの旅立ちを支援することになった。



旅立ちの準備


旅立ちまでの数日間、村人たちは総力を挙げてカズマとリーフィアの準備を手伝った。


「これは魔除けのお守りじゃ」


エルダー・セレンが小さな木彫りの護符を手渡した。


「それから、これは薬草の調合法を書いた本じゃ。外の世界でも役に立つじゃろう」


ミリアは手作りの薬草セットを用意してくれた。


「私たちエルフの薬草は、人間の薬より効果があるわ。大切に使って」


戦士のフィンは武器と防具を準備した。


「カズマには軽い剣を、リーフィアには新しい弓を用意した。それから、この革製の防具も着て行け」


「ありがとう、みんな…」


カズマは感謝の気持ちでいっぱいだった。


「お礼なんていいのよ」


村の女性たちが口々に言った。


「あなたたちは家族なんだから」


最後の夜、カズマは子供たちと一緒に過ごした。


「カズマ兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」


ルウの目に涙が浮かんでいた。


「ああ、でも必ず帰ってくるからな」


「約束だよ」


「約束だ」


カズマは小さな指と指を絡ませて約束をした。



旅立ちの朝


出発の朝、村人たち全員が見送りに来ていた。子供たちは泣き、大人たちは心配そうな表情を浮かべていた。


「必ず生きて帰ってくるのじゃぞ」


エルダー・セレンがカズマの肩を叩いた。


「ありがとうございました。この恩は絶対に忘れません」


「みんな、元気でいて。私たちも必ず帰ってくる」


リーフィアも村人たちと別れの挨拶を交わした。


「リーフィア、くれぐれも気をつけて」


「カズマのことも頼んだぞ」


「分かってるわ」


荷物を背負い、武器を携えて、二人は村を後にした。振り返ると、村人たちが手を振っている。


「必ず帰ろう」


「ええ、約束よ」


森の小道を歩きながら、カズマは新たな決意を固めた。この優しい人たちを守るために、強くならなければならない。古代魔法の謎を解き明かし、この世界に平和をもたらすために。


太陽が森の向こうから昇り、新しい一日が始まった。それは同時に、カズマとリーフィアの新たな冒険の始まりでもあった。


歩きながら、リーフィアが口を開いた。


「あなた、本当に記憶喪失のふりをしてた時、どんな気持ちだった?」


「罪悪感でいっぱいだった。みんなが優しくしてくれるのに、嘘をついてる自分が情けなくて」


「私はそうは思わない」


「え?」


「あなたの心の優しさは、嘘では隠せないもの。きっとみんな、最初から気づいていたのよ」


「そうかな…」


「そうよ。だからこそ、あなたは古代魔法を使えるのかもしれない」


リーフィアの言葉に、カズマは希望を感じた。自分の力を正しく使えば、きっとこの世界をより良いものにできる。そんな確信が心の中に芽生えていた。


二人は森の中の獣道を選んで歩いた。人目につかない道を選び、歩きながら、二人は未来について話した。


「どこを目指そうか?」


「まずは大きな街で情報収集ね。それから、あの古代魔法について調べましょう」


「古代魔法か…俺にも使えるのかな、他の術も」


「きっと使えるわよ。あなたには才能があるもの」


カズマの心に、新たなスキルの感覚が芽生え始めていた。それは薄っすらとした感覚で、まだはっきりとは分からない。しかし、確実に何かが変化していた。


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