最終決戦 - 龍神の血との死闘
「みんな、距離を取って!」カズマが叫んだ瞬間、ドラゴン・ミツルの巨大な爪が地面を抉った。
石畳が粉砕され、建物の基礎まで砕け散る。その威力は人間だった頃のミツルとは比較にならない。体長50メートルの巨体は、ただそこに存在するだけで周囲に破壊をもたらした。
「グオオオオオオ!」
咆哮と共に吐き出された炎は、温度3000度を超える龍炎だった。石造りの建物が一瞬で溶解し、鉄製の装飾が液体となって流れ落ちる。
「【風刃結界】!」
カズマは咄嗟に防御魔法を展開したが、風の刃は龍炎に焼き尽くされてしまう。熱波が襲いかかり、カズマの肌を焼いた。
アクエリアが【浄化の水流】で冷却しようとするが、水は蒸発して効果がない。
「駄目だ…威力が違いすぎる」
セルヴァンが【疾風召喚】で竜巻を起こし、熱気を散らそうとする。しかし、ドラゴンの翼が一振りされただけで、風の魔法は吹き散らされてしまった。
「こんな化け物、どうやって倒すっていうんだ!」
「みんな、散らばって攻撃して!一点集中で倒すしかない!」
カズマの指示で、全員が異なる方向からドラゴンを囲む。
リーフィアが【精霊召喚陣】を発動し、風・水・火の融合攻撃がドラゴンの右翼を襲った。
「やった!」
だが、攻撃が命中した箇所を見て、全員が絶望の表情を浮かべる。鱗に僅かな傷が付いただけで、すぐに再生してしまったのだ。
「嘘だろ…あの威力でも効かないなんて」
ドラゴンの尻尾が振り回される。アクエリアが【水流防壁】で防御を試みるが、水の壁は一瞬で破られ、アクエリアは数十メートル吹き飛ばされた。
「アクエリア!」
イグニスが怒りに燃えて【紅蓮爆炎】を連続発射する。だが、炎は龍の皮膚に触れることすらできない。龍炎の熱量が桁違いで、近づくことができないのだ。
「クソッ!何も効かない!」
【朧影転写】で分身を作り、【時空境界の鎖】で空間を固定化しても、ドラゴンの物理的な力の前では意味がない。鎖は簡単に引きちぎられ、影分身は爪の一撃で消滅する。
「どうすればいいんだ…」
カズマの魔力は既に半分以下まで減っていた。これまでの戦いで消耗していた上に、ドラゴンとの力の差は歴然としている。
その時、精霊女王ミュリエルの声が心に響いた。
『カズマ、あなたにはまだ使っていない力がある』
「まだ使っていない力?」
『古代魔法の真の姿。それは単体の魔法ではなく、すべてを統合した時に現れる』
「統合って…でも、そんなこと可能なのか?」
『危険です。あなたの生命力も消費する。失敗すれば命を落とすかもしれない』
カズマの脳裏に、これまでの戦いが蘇る。魔族の人々の笑顔。リーフィアとの出会い。精霊たちとの絆。そして、今まさに目の前で暴れ狂うかつての仲間。
「やるしかない…みんなを守るために!」
魔族女王の決死行
その時、魔族女王ヴェルザが前に出た。
「カズマ、準備をしなさい。私が時間を稼ぐ」
「ヴェルザ、無茶だ!あの化け物相手に一人では!」
「私は魔族の女王ヴェルザよ。簡単にやられはしない」
ヴェルザが【暗黒魔法・深淵の呪縛】を発動した。闇の触手がドラゴンの四肢に絡みつき、動きを封じようとする。
「今よ、カズマ!」
だが、ドラゴンの力は想像以上だった。触手は引きちぎられ、反撃の炎がヴェルザを襲う。
「ぐあああ!」
ヴェルザが地面に叩きつけられる。彼女の左腕は深い火傷を負い、立ち上がることもできない。
「ヴェルザ!」
カズマが駆け寄ろうとした時、ドラゴンの巨大な足がカズマを踏み潰そうと迫る。間一髪で【空間断絶斬】で足を切りつけるが、鱗を僅かに削るだけで致命傷には程遠い。
「もう…私たちだけじゃ無理なのかしら」
リーフィアの目に涙が浮かぶ。精霊たちも既に魔力を使い果たし、満足に戦えない状態だった。
その時、空から声が響いた。
「リーフィア!諦めてはいけません!」
見上げると、森の長老エルフィネルが現れていた。彼女の周りには十数人のエルフの戦士たちが飛んでいる。
「長老!」
「カズマが古代魔法を準備している間、我々が足止めをします!」
エルフの戦士たちが一斉に【精霊矢】を放つ。光の矢がドラゴンに襲いかかるが、やはり決定打にはならない。それでも、ドラゴンの注意を引くには十分だった。
「リーフィア、あなたも最後の力を振り絞りなさい。森の精霊たちが力を貸してくれる」
長老の言葉と共に、周囲の木々から無数の光の玉が現れる。それは森に住むすべての精霊たちだった。
「みんな…」
リーフィアが【大精霊召喚】を発動する。これまでに契約した精霊だけでなく、森の精霊すべてが彼女に力を貸した。
「いくわよ、みんな!」
リーフィアを中心として、数百の精霊が連携攻撃を開始する。風・水・火・土・光・闇のすべての属性魔法が融合し、巨大な魔法陣を形成した。
「【森羅万象・精霊大連携】!」
虹色の光がドラゴンを包み込む。さすがのドラゴンも、これだけの数の精霊による攻撃には苦戦を見せた。鱗が削られ、傷口から血が流れる。
「効いてる!」
だが、ドラゴンも黙ってはいない。【龍神咆哮】を放ち、音波攻撃で精霊たちを吹き散らす。多くの精霊が消滅し、リーフィアも大きくよろめいた。
「まだ…まだ足りない!」
精霊女王の降臨
カズマが【古代魔法統合術】の準備を進める中、戦場の空に美しい光の粒が舞い始めた。それは雪のようでもあり、星屑のようでもある幻想的な輝きだった。
光の粒は次第に数を増し、やがて戦場全体を神秘的な光で満たしていく。その中心から、一人の女性がゆっくりと現れた。
白銀の衣をまとい、透明感のある美しさを持つ女性。しかし、その美しさの奥に、数万年という時の重みが感じられる。精霊女王ミュリエル。
戦場にいる全ての者が、本能的に彼女の前に膝をついた。それは恐怖ではなく、畏敬の念によるものだった。
「私の愛しい子よ」ミュリエルがカズマに向かって語りかける。「あなたが見込んだ世界ならば、私にも見せてほしい」
カズマの体に温かい光が注がれる。それは純粋な精霊の力、生命エネルギーそのものだった。
「真の共存とは、すべての存在が手を取り合うこと。あなたならばそれを成し遂げられる」
ミュリエルの力により、カズマの魔力が回復し、【古代魔法統合術】の成功率が格段に上昇した。




