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『封雷結界』

カズマ自身も驚いた。頭の中に術式の名前が浮かんだのだ。雷の結界が魔狼たちの動きを完全に封じ込める。電撃に麻痺した魔物たちは、その場に倒れ込んだ。


「今よ!みんな、一斉攻撃!」


リーフィアの声に応じて、村人たちが一気に攻撃を仕掛けた。動きを封じられた魔狼たちは、次々と倒されていく。


戦いが終わると、村は静寂に包まれた。誰もがカズマを見つめている。その視線は最初の頃の警戒心に満ちたものではなく、畏敬の念を含んでいた。


「これは…古の加護じゃ」


エルダー・セレンが震え声で呟いた。


「古代魔法…まさか、そんなものが現代に」


リーフィアの声にも驚きが込められていた。


「古代魔法って何ですか?」


カズマが尋ねると、村人たちはざわめいた。


「数千年前、全種族が共存していた古代文明の遺産だ」


エルダー・セレンが説明した。


「現在の魔法体系とは全く異なり、強い意志と感情によって発動する。しかし、その術式も使いこなせる者も既に失われたと言われていた」


「それを…この人間が?」


ミリアが信じられないといった表情でカズマを見つめている。


「お前さんは特別な力を持っておるのう」


エルダー・セレンがカズマの肩に手を置いた。


「記憶を失っているとはいえ、これほどの力を無意識に発動するとは」


「俺が…古代魔法を?」


カズマは自分の手を見つめた。確かに先ほどは不思議な力が体を駆け巡ったが、今はもう何も感じられない。


「カズマ兄ちゃん、ありがとう!」


ルウが駆け寄ってきて、カズマの足に抱きついた。


「僕を助けてくれて、ありがとう!」


その純粋な感謝の言葉に、カズマの心は温かくなった。


この出来事をきっかけに、カズマは村人たちから完全に受け入れられるようになった。最初は人間に対して敵意を示していた者たちも、今では親しげに話しかけてくる。


「カズマよ、今度は私の畑仕事も手伝ってくれ」


「私の料理も食べていってくれ」


村人たちの態度の変化に、カズマは戸惑いながらも嬉しさを感じていた。しかし同時に、大きな罪悪感も抱いていた。


自分は記憶喪失ではない。異世界からの召喚者で、王国から逃げてきた身なのだ。この優しい人たちに嘘をついている自分が、果たして彼らの信頼に応える資格があるのだろうか。



月夜の告白


ある夜、カズマは一人で村外れの丘に向かった。満月の光が森全体を銀色に照らしている。静寂の中で、自分の心と向き合おうと思ったのだ。


「やっぱりここにいたのね」


背後から声がした。振り返ると、リーフィアが立っていた。月光に照らされた彼女の姿は、まるで森の女神のように美しかった。


「リーフィア…どうしてここに?」


「あなたが一人でいると、なんだか心配になるの」


彼女は隣に座った。二人でしばらく月を見上げていると、カズマの心にある決意が固まった。


「リーフィア、俺にはずっと隠していることがある」


「隠していること?」


「俺は…記憶喪失じゃない。最初から全部覚えてる」


リーフィアの表情が一瞬強張った。しかし、すぐに優しい微笑みを浮かべた。


「やっぱりそうだったのね」


「やっぱり?」


「記憶を失っているはずなのに、料理はできるし、時々現代的な発想をするし。最初から薄々気づいてたの」


カズマは驚いた。てっきり怒られると思っていたのに、リーフィアの反応は意外にも冷静だった。


「怒ってないのか?」


「なにか事情があるのは分かってた。でも、あなたが話したくないなら、無理に聞こうとは思わなかった」


「ありがとう…でも、全部話すよ。もう嘘はつきたくない」


カズマは深呼吸をして、これまでの全てを語り始めた。


異世界からの召喚者であること。他にも三人の日本人が一緒に召喚されたこと。自分だけスキルがなく、処刑されそうになったこと。謎の力で脱出し、森で彼女に助けられたこと。


「そうだったの…」


リーフィアは静かに聞いていた。


「でも、それなら最初に言ってくれれば良かったのに」


「怖かったんだ。人間だってだけで警戒されてるのに、王国から逃げてきた犯罪者だなんて知られたら…」


「バカね」


リーフィアが笑った。


「あなたが王国から逃げてきたって聞いて、私の中であなたへの信頼は揺らぐと思う?」


「え?」


「むしろ安心したわ。王国に従順な人間だったら、私たちとは相容れなかったでしょうね」


カズマは目を見開いた。


「それに、あなたは村のみんなを守ってくれた。それが全てよ」


「それでも俺と一緒にいてくれるのか?」


「当然でしょ。今更一人にできると思ってるの?」


リーフィアの言葉に、カズマの胸の奥で何かが溶けた。これまで抱えていた孤独感や罪悪感が、彼女の優しさに包まれて消えていく。


「ありがとう、リーフィア。本当に…ありがとう」


「きっとあなたには特別な資質があるのね」


「特別って言われても…俺はただの高校生だったんだ。特に優秀でもないし、運動も勉強もそこそこで」


「でも心は誰よりも優しいじゃない」


リーフィアがカズマの手を握った。


「私、あなたの心の奥底を感じるの。とても温かくて、純粋で…だからみんなもあなたを受け入れたのよ」


「リーフィア…」


月明かりの下で、二人は見つめ合った。この瞬間、カズマは確信した。この人のためなら、どんな困難にも立ち向かえると。


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