王の間での最終決戦
ついに王の間にまでミツルが侵入した。
玉座に座る獣人王ガル・バオは、悠然と侵入者を見下ろしている。その周囲には、最後まで王を守ろうとする親衛隊が陣を構えていた。
「ほう、随分と若い人間じゃないか」王が立ち上がる。「俺に何の用だ?」
「獣人王ガル・バオ。王国の名において、貴様を拘束する」ミツルが聖剣を向けた。「大人しく降伏すれば、命だけは助けてやろう」
王は大きく笑った。
「ハハハ!面白い小僧だ。俺が人間ごときに降伏すると思うのか?」
ミツルの表情が一瞬強張った。心の中で、あの屈辱的な敗北が蘇る。
「アイツ…カズマは居ないのか?」
思わず口から出た言葉だった。王は眉をひそめる。
「ああ、あの黒髪の小僧のことか。ちょうどさっき旅立ったところだ。運が良かったな」
その瞬間、ミツルの胸に複雑な感情が湧き上がった。カズマがいないことに、確かにホッとしている自分がいる。あの圧倒的な強さと向き合わなくて済むという安堵感。
(…僕は、怖がっているのか?選ばれし正義の執行者である僕が?)
自分の中にある恐怖と安堵を認めてしまったことに、激しい怒りが湧き上がった。プライドが音を立てて崩れ落ちる。
「思わないな。だから、力づくで連れて行く」
ミツルの声には、先ほどまでとは違う激情が込められていた。
ミツルの聖剣がより一層輝きを増す。その光に、親衛隊の獣人たちが身構えた。
「王様、ここは我々が!」
「いや」王が手を上げて制止する。「面白い。この小僧と俺の一騎打ちだ。お前たちは手を出すな」
「しかし…」
「命令だ」
王の威厳ある声に、親衛隊は渋々武器を下ろした。
玉座の間で、獣人王とミツルが向き合う。
「俺は嫌いだぜ、人間。特に、弱い癖に偉そうにするやつはな」王が拳を構える。「だが、お前は違うようだ。力がある」
「僕は選ばれた存在だからな」ミツルが聖剣を正眼に構える。だが、その手は僅かに震えていた。「神に選ばれし正義の執行者だ」
「神?正義?」王の目が鋭くなる。「くだらん。この世は弱肉強食だ。強い者が正しい。それだけだ」
「その考えが間違っている!」
ミツルの叫びには、自分自身への怒りが混じっていた。カズマへの恐怖を感じてしまった弱い自分への、激しい憎悪が。
「なら、実力で証明してみろ」
二人が同時に動いた。
王の巨大な拳とミツルの聖剣がぶつかり合う。衝撃で玉座の間の石柱が崩れ、床に亀裂が走った。
「【怒涛の拳撃】!」
王の連続攻撃がミツルを襲う。しかし、ミツルは異常なまでの集中力で、聖剣で的確にすべてを受け流していく。彼の内なる怒りが、戦闘能力を押し上げていた。
「【審判の光】!」
光の槍が王に向かって放たれるが、王はそれを素手で叩き落とした。
「そんなもの、俺には効かん!」
王の反撃が始まる。床を蹴り砕いて跳躍し、上空からミツルに襲いかかった。
「【雷鳴砕拳】!」
王の拳に雷が宿り、それがミツルを直撃…したかに見えたが、ミツルは光の障壁でそれを防いでいた。
「やるじゃないか。だが、この程度か?」
だが、今度は王の言葉がミツルの怒りに火を注いだ。
(この程度?僕が?選ばれし存在である僕が?)
「なめるな!」
ミツルの咆哮が響く。その声には、カズマへの屈辱、そして自分の弱さへの憤怒が込められていた。
王も歯を食いしばった。
「面白い。そうこなくちゃな!これが俺の本当の力だ!」
王の攻撃は、先ほどとは比較にならない威力だった。爪の一撃で玉座の間の壁が崩れ、牙の一噛みで石柱が粉砕される。
しかし、ミツルの怒りはそれを上回っていた。内なる激情が彼の力を押し上げ、普段では使えないレベルの技を引き出していく。
「これで終わりだ…」
ミツルの聖剣が、今までとは違う輝きを放ち始めた。それは純粋な光ではなく、どこか暗い、禍々しい光だった。怒りと憎悪に染まった、歪んだ正義の光。
「【殲滅天翔】」
聖剣から放たれた光の波動が、獣化した王を包み込む。それは浄化の光ではなく、存在そのものを消去しようとする恐ろしい力だった。
「ぐあああああ!」
王の絶叫が響く。しかし、彼は倒れなかった。血まみれになりながらも、まだ立っている。
「つ、強い…。アイツ以外にもこんな人間が…」
王の巨体がよろめく。【殲滅天翔】のダメージは致命的だった。
「降伏しろ。次撃たれたら、本当に死ぬぞ」
ミツルの冷たい声には、まだ怒りの余韻が残っていた。
王は膝をついた。
「…参った」
ついに獣人王ガル・バオが降伏した。
しかし、ミツルの心は晴れなかった。勝利したにも関わらず、胸の奥にカズマへの恐怖という暗い影が残り続けていた。




