第三ラウンド:重力魔法の覚醒
カズマは劣勢を痛感していた。古代魔法を駆使しても、王の純粋な戦闘力に押し切られている。
(もっと...もっと強い力が必要だ)
その時、カズマの体に新たな力が宿った。古代魔法の最奥義の一つ、重力を操る力が目覚めたのだ。
「重力制御!」
闘技場の重力が急激に変化した。王の周囲だけ重力が5倍になり、王の動きが鈍くなる。
「な...なんだこれは...体が重い...」
王の膝が砂に触れた。しかし、その野性の本能と鍛え抜かれた肉体は、重力の変化にも適応しようとしていた。
「面白い魔法だ...だが、これしきで俺は止まらん!」
王は気合いで立ち上がり、重力5倍の状況でも前進を続けた。その意志力は常軌を逸していた。
カズマは重力を10倍に増加させた。王の体がより深く沈み込む。
「ぐ...うう...」
王が苦痛に顔を歪める。しかし、それでも王は立ち続けた。
「これでも...まだ立つのか...」
「俺は...獣人王だ...この程度で...倒れはしない...」
王は10倍重力の中でも、ゆっくりと前進した。その姿は、まさに不屈の意志を体現していた。
カズマは重力を逆転させた。王の周囲を無重力状態にしたのだ。
「今度は無重力か!」
王の体が宙に浮く。しかし、王は空中でも爪を振るい、風圧だけでカズマを攻撃してきた。
「空中だろうと関係ない!」
王の爪から放たれる風刃がカズマを襲う。その威力は地上にいた時と変わらなかった。
第四ラウンド:氷の魔法と空間魔法
カズマは【氷結侵食】を発動した。王の周囲の空気を急激に冷却し、王の体温を下げる古代魔法。
「寒い...だと?」
無重力状態の王に氷の結晶が付着し始めた。王の動きが更に鈍くなる。
「体温を下げて動きを鈍らせる作戦か...」
しかし、王は体内の闘気を燃焼させることで体温を維持した。氷の結晶が王の体温で溶けていく。
「甘いな、小僧!」
王は無重力状態でも、空中を蹴って移動した。まるで空中に足場があるかのような動き。
「そんな...空中で加速するなんて...」
王がカズマに肉薄する。カズマは【空間断絶斬】を準備した。空間を切り裂く最大威力の古代魔法。
「空間断絶斬!」
空間を切り裂く斬撃が王に向かう。しかし、王は野生の勘でその危険を察知した。
「危険な魔法だな...だが!」
王は渾身の力で咆哮した。
「ガアアアアア!」
その咆哮の音波が、空間断絶斬と激突した。古代魔法と王の野性の力がぶつかり合い、闘技場に衝撃波が走る。
観客席の人々が耳を押さえて悲鳴を上げた。
第五ラウンド:最後の勝負
咆哮と空間断絶斬が相殺された後、両者は距離を置いて対峙していた。
カズマは肩の傷から血を流し、魔力も半分以上消耗していた。一方の王も、連続した古代魔法の効果で疲労が蓄積していた。
「なかなかやるじゃないか...」王が認めるような口調で言った。
「あなたこそ...」カズマも王の実力を心から認めていた。
「だが、まだ決着はついていない」
王は最後の力を振り絞って、四つ足の構えを取った。今度は今までとは違う構えだった。より低く、より獣に近い姿勢。
「最後の技だ。避けられるものなら避けてみろ」
王が地面を蹴る。今までの比ではない爆発的な速度で、カズマに向かって突進した。
カズマは全ての古代魔法を駆使して対応した。【転移】で位置を変え、【朧影転写】で撹乱し、【重力制御】で王の軌道を変えようとする。
しかし、王の最後の突進は、それら全てを無視して直進してきた。まさに一直線に、カズマの心臓を狙って。
(このままでは...殺される...)
カズマは最後の手段として、新たな古代魔法を発動した。今まで使ったことのない、魔力を全て消費する禁忌の魔法。
「心影結界!」
カズマの周囲に、心の絆を具現化した結界が展開された。それは物理的な防御ではなく、精神的な絆による結界だった。リーフィアへの想い、精霊たちとの約束、そして異種族との共存への願いが形となった防御魔法。
王の爪が結界に触れた瞬間、王の動きが止まった。
「これは...」
王は結界を通して、カズマの心の中を見ていた。憎しみではなく、希望に満ちた心を。
「お前...本当に人間か?」
王の爪がカズマの胸の直前で止まっている。致命傷まであと数センチという距離だった。
「俺は...俺はただ...」
カズマは結界を維持しながら答えた。
「みんなで笑って暮らせる世界が欲しいだけです」
王はゆっくりと爪を引いた。そして、その場に膝をついた。
「俺の負けだ」
観客席が静寂に包まれた。獣人王が負けを認めたのだ。
「俺は間違っていたのかもしれん」王が苦笑いした。「お前のような人間もいるのにな...」
「いえ...あなたは強かった。本当に強かった」
カズマも膝をついた。魔力を使い果たし、もう立っていられなかった。
審判がようやく我に返って宣言した。
「勝者、カズマ!」
観客席は複雑な反応を示した。人間が勝ったことへの驚きと、王が敗れたことへの戸惑い。しかし、徐々に拍手が起こり始めた。それは種族を超えた、純粋な戦いへの賞賛だった。
王との約束
その夜、王はカズマを自室に招いた。そこで王は古い魔導書を手渡した。
「これは重力魔法について記された貴重な書物だ。お前になら使いこなせるだろう」
「ありがとうございます...でも、いいんですか?」
「礼には及ばん。それより、お前の理想とやらを実現してみせろ。この国も含めてな」
王の表情には、今までにない優しさがあった。
「必ず実現してみせます」
カズマは力強く頷いた。長い戦いの末に得た、種族を超えた絆がそこにはあった。
決勝戦は、カズマが古代魔法の新たな力に目覚めながらも、最終的には武力ではなく心の繋がりで王を説得するという結末となった。この戦いを通じて、カズマは自分の力だけでなく、想いの強さこそが真の力であることを証明したのだった。*
翌朝、カズマたちは獣人国を出発した。リーフィアとセルヴァンが心配そうに見つめる中、カズマは新たに得た力を確認していた。
「重力制御か…強力だが、制御が難しいな」
「でも、また一歩前進したわね」リーフィアが微笑んだ。
「ああ。でも、これで満足するわけにはいかない。まだまだ強くなる必要がある」
セルヴァンが風に乗りながら言った。
「それにしても、あの王は強かった。お前もよく勝てたものだ」
「みんなのおかげだ」カズマが振り返る。「一人じゃ絶対に勝てなかった」
三人は次の目的地へと向かった。まだ見ぬ古代魔導書を求めて、新たな冒険が始まろうとしていた。




