武道会のルール
翌日、カズマは武道会の詳細を聞かされた。説明をしてくれたのは、猫の獣人の若い女性だった。
「ルールは簡単よ」彼女は淡々と説明する。「1vs1のトーナメント形式。回復手段なし、魔法使用可。過剰な再生魔法は禁止、それに、相手を殺してしまっても問題なし」
「殺してって…本当に?」
「当然よ」
カズマは唾を飲み込んだ。この世界の価値観は厳しい。だが、古代魔導書のためには戦うしかない。
「4回勝てば優勝よ。まあ、人間が1回でも勝てるとは思わないけれど」
リーフィアが心配そうに見つめていたが、カズマは頷いた。
「やるしかない」
武道会開幕
一週間後、獣人国最大の闘技場は観客で満員だった。石造りの円形闘技場の中央には砂が敷かれ、周囲を高い壁が囲んでいる。観客席からは野次や罵声が飛び交っていた。
「人間が出てるぞ!」
「一回戦で死ぬに決まってる!」
「賭けの倍率は500倍だ!」
カズマは控え室で最終準備をしていた。リーフィアとセルヴァンが付き添っている。
「無理をしないで」リーフィアが手を握った。「命の方が大切よ」
「大丈夫だ」カズマは微笑んだ。「俺にはお前たちがいる」
セルヴァンも珍しく真剣な表情をしていた。
「お前の実力なら大丈夫だと思うが、油断するなよ。獣人は本能で戦う。予測不能な動きをすることがある」
第1戦:ボルダ・ザ・クラッシャー
第1回戦の相手は、猛牛の獣人ボルダ・ザ・クラッシャーだった。身長は3メートルを超え、全身を厚い鎧で覆っている。巨大な戦斧を片手で振り回す姿は、まさに破壊の化身だった。
「グオオオオ!人間の小僧!俺様が叩き潰してやる!」
ボルダが咆哮すると、観客席が沸き立った。
「殺せー!」
「人間をミンチにしろ!」
審判の合図と共に戦闘開始。ボルダが戦斧を振り上げて突進してきた。その速度は巨体からは想像できないほど速い。
カズマは【転移】で回避。ボルダの背後に現れ、【封雷結界】を発動した。
「封雷結界!」
雷の結界がボルダを包み込む。しかし、厚い鎧に阻まれて効果は薄かった。
「グハハハ!そんな雷で俺様の鎧が破れるかよ!」
ボルダが鎧越しに雷を受けながらも、戦斧を振り回してくる。カズマは必死に【転移】で回避を続けた。
(このままじゃ埒が明かない。鎧の隙間を狙うしか…)
カズマは新たな戦術を思いついた。鎧には必ず隙間がある。その隙間から内部を攻撃すれば…
「朧影転写!」
カズマの影が分離し、ボルダの足元に潜り込む。そして影を通じて、鎧の隙間から冷気を送り込んだ。
「なに…?体が…冷たく…」
ボルダの動きが鈍くなる。体内に氷の結晶が生成され、内部から凍結が始まったのだ。
「これで終わりだ!」
カズマは全力で新たな魔法を発動した。
「氷結侵食!」
ボルダの体内で氷の結晶が急速に拡大。鎧を着ていても、内部からの攻撃は防げない。
「グ…ガァ…」
ボルダが膝をつき、そのまま倒れた。
「参った…」
「勝者、カズマ!」
観客席は一瞬静まり返った後、どよめきが起こった。
「マジかよ!」
「人間が勝っちまった!」
カズマは荒い息を整えながら、観客席のリーフィアとセルヴァンを見つめた。二人とも安堵の表情を浮かべている。
第2戦:シェリル(盲目の猫獣人剣士)
第2回戦の相手は、盲目の猫獣人剣士シェリルだった。目は見えないが、その他の感覚は鋭く研ぎ澄まされている。細身の体に二本の剣を携え、優雅な動きで闘技場に現れた。
「人間…」シェリルの声は静かだった。「貴方が第1戦を勝ち上がった者ですね」
「そうだ。君は…」
「私はシェリル。人間を憎みながらも、戦士としての礼儀は忘れません」
シェリルが剣を抜くと、刀身が月光のように輝いた。
「始めましょう」
審判の合図と共に、シェリルが姿を消した。いや、消えたのではない。あまりにも速い動きで、残像が見えないのだ。
カズマは慌てて【風刃結界】を展開した。風の刃が防御結界を形成し、接近してくる敵を迎撃する。
しかし、シェリルはその結界の隙間を縫うように侵入してきた。盲目でありながら、彼女は風の流れを読んで結界の弱点を見抜いていた。
「速い!」
二本の剣がカズマの頬を掠める。血が飛び散った。
「人間よ、何故魔族の味方をする?何故獣人の国にまで来た?」
シェリルが問いかけながら攻撃を続ける。彼女の剣技は美しく、まるで舞踊のようだった。
「俺は…みんなが平和に暮らせる世界を作りたいんだ!」
カズマが【朧影転写】で影を操り、シェリルの死角から攻撃を仕掛ける。しかし、彼女は音で影の動きを察知し、軽やかに回避した。
「綺麗事を…人間は我々を迫害し、殺し、奴隷にしてきた。その贖罪のつもりか?」
「違う!俺は、俺自身がそう信じるからだ!」
カズマの叫びに、シェリルの動きが一瞬止まった。その隙に、カズマは新たに覚えた【氷結侵食】を発動。しかし、シェリルは素早く後退し、氷の魔法を回避した。
「…その眼に嘘はない」シェリルが剣を下ろした。「私の負けです」
「え?」
「戦士として、貴方の覚悟を認めます。私では貴方は倒せない。ならば、潔く敗北を認めましょう」
シェリルは深々と頭を下げた。
「貴方が本当に世界を変えられるなら…我々獣人にも希望はあるのかもしれません」
観客席は再びどよめいた。シェリルは獣人国でも名の知れた剣士だったのだ。




