第7章「正義」
帰還の屈辱
王国の回復室に運び込まれた二人の召喚者が、治癒師たちの懸命な治療を受けていた。白い包帯に巻かれたナギサは小さくすすり泣き、リュウヤは苦痛に顔を歪めながらも怒りを露わにしていた。
「うぅ...痛いよう...なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの...」ナギサの涙声が部屋に響く。普段の清楚な聖女の面影は微塵もなく、ただの傷ついた少女の姿がそこにあった。
リュウヤは拳を握りしめながら声を荒らげた。「クソッ!負けるなんておかしいだろ!俺達は"人類の希望"のはずだろ!?あんな魔族の味方なんて、絶対に間違ってる!」
部屋の隅に立つミツルは、二人の言葉を聞きながらも黙り込んでいた。心の中で渦巻く感情を整理しきれずにいる。
(なんで...なんで魔族なんかをかばう人間がいる!?しかもアイツ...俺達と同等か、それ以上の力を持っているなんて...)
ミツルの脳裏に、あの戦闘での光景が蘇る。カズマが放った空間を切り裂く斬撃。あの一撃でナギサとリュウヤが深手を負った瞬間を思い出すたびに、胸の奥で何かが燃え上がるような感覚があった。
治癒師の一人が心配そうに報告する。「お二人とも命に別状はございませんが、この傷の深さでは完治まで数週間はかかるでしょう。特に神経系へのダメージが深刻で...」
「数週間?」リュウヤが苛立ちを隠そうともせずに言い放つ。「そんなに待てるかよ!あいつを殺すまで俺は休めねえ!」
しかし、立ち上がろうとした途端に激痛が走り、再び倒れ込んでしまう。
ナギサも涙を拭いながら立ち上がろうとしたが、傷の痛みで顔を歪めた。「ミツル...ホントにアイツだったよね...」
ミツルは振り返ると、複雑な表情で答えた。「ああ...間違いない。召喚の儀式の時にいた四人目。スキル判定で何も出なかった男だ」
「だったら尚更許せない」リュウヤの目に狂気じみた光が宿る。「俺達は選ばれた英雄で、あいつは捨てられたゴミのはずだったんだ。それなのに...」
ナギサが震え声で呟く。「ミツル...お願い。私たちの分まで、アイツを...」
ミツルは窓の外を見つめながら、静かに応答した。「分かっている。君たちの仇は必ず取る。僕が一人でも、正義は貫かなければならない」
玉座の間での報告
数日後、ミツル一人が国王レオナール三世の前に立っていた。豪華絢爛な玉座の間には、王を始めとして宰相バルザック、騎士団長ガイウスなどの要人が居並んでいる。
「報告せよ」王の威厳ある声が響く。
ミツルが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。「はい。魔王城にて魔族どもとの戦闘を行いましたが...予想外の事態が発生いたしました」
「予想外とは?」
「魔族に味方する人間が現れました。しかも...」ミツルは一瞬躊躇したが、続けた。「我々と同じ異世界からの召喚者です」
玉座の間にどよめきが起こる。王は眉をひそめ、宰相バルザックは興味深そうに目を細めた。
「魔族に味方する者が現れた? 面白い...まるで、かの"大災"前夜のようだな」宰相の声には不気味な響きがあった。「その者の実力はいかほどか?」
ミツルが悔しそうに答える。「ナギサとリュウヤが束になってもかなわず、私が加勢してやっと互角...いや、むしろ押されていました。二人は重傷を負い、数週間の療養が必要な状態です」
王の表情が険しくなる。「召喚者に匹敵する力を持つ者が魔族の味方に回ったというのか」
「はい」ミツルは拳を握りしめる。「しかし必ずや討伐いたします。あのような正義に反する存在を、この世界に置いておくわけにはいきません」
宰相が王に近づき、小声で何かを囁く。王は何度かうなずいた後、改めてミツルを見据えた。
「魔族と手を組む者—その存在は民の不安になる。早急に対処する必要がある」王の声に冷酷さが滲む。「ナギサとリュウヤの回復を待っていては時間がかかりすぎる。ミツルよ、お前一人でも構わん。どんな手段を使っても排除せよ」
「承知いたしました」ミツルが深々と頭を下げる。
騎士団長ガイウスが前に出る。「陛下、ミツル様だけでは危険すぎるのでは? お二人のケガの回復を待った方が良いのでは」
王が手を振る。「構わん。むしろ好都合だ。ミツルの真の実力を試す機会でもある」
宰相が薄い笑みを浮かべて付け加えた。「それに、我々には新たな『切り札』もございますからな」




