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魂の深淵へ

試練は魂の中で行われる。カズマの意識は深い闇の中に沈んでいく。


気がつくと、彼は真っ白な空間に立っていた。そこは現実とも夢とも違う、精神世界の領域。


「ここは…」


突然、目の前に映像が浮かび上がる。それは王国の神殿で行われた召喚の儀式の場面だった。魔法陣が光り、四人の日本人高校生が現れる。


ミツル、ナギサ、リュウヤ、そして自分。


王や貴族たちが期待に満ちた表情で見つめる中、一人ずつステータスを確認していく場面。他の三人は次々と強力なスキルを発現していく。そして最後に自分の番が来て―――


『スキル欄が空白』


あの絶望的な瞬間が、鮮明によみがえる。


「やめろ…」


カズマは頭を振る。しかし映像は容赦なく続く。地下牢に放り込まれ、翌日の処刑を宣告される場面。他の三人は豪華な部屋で歓待を受けているというのに、自分だけが汚い牢獄で一人震えていた。


「なんで俺だけ…」


封じ込めていた感情が噴出する。あの時の無力感、絶望、そして―――怒り。


「なんで俺だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」


その瞬間、白い空間が一変する。黒い炎が立ち上り、破壊的なエネルギーがカズマを包み込む。


「そうだ。お前は怒っていい」


暗闇の中から、もう一人のカズマが現れる。しかし、その表情は憎悪に歪んでいた。


「この世界を滅ぼしてもいい。俺たちを裏切った奴らを、全部殺してやってもいいんだ」


「違う…俺はそんなことを…」


「嘘をつくな!」


黒いカズマが叫ぶ。


「お前は思っただろう?『この世界なんて滅んでしまえばいい』って。『なんで俺だけがこんな目に遭うんだ』って。その怒りは正しい。使い捨ての道具のように扱われ、殺されそうになったんだ。復讐する権利がある!」


カズマは膝をついた。確かにそう思った瞬間があった。王国への憎しみ、召喚者たちへの嫉妬、この世界そのものへの怒り。


「俺は…俺は…」


「そうだ、認めろ。お前の本性を受け入れろ。そして力を使え。古代魔法の力で、この世界を思い通りに変えてやるんだ!」


黒いカズマの手が、カズマの肩に置かれる。その瞬間、破壊的な力がカズマの体を駆け巡る。これほどの力があれば、確かに世界を変えることができるかもしれない。復讐も、支配も、思いのままに


「ダメだ」


カズマは首を振る。


「それは違う。俺は…俺は復讐のために力を得たんじゃない」


「何を綺麗事を言っている!」


「綺麗事じゃない!」


カズマが立ち上がる。黒いカズマの手を振り払う。


「確かに怒りはある。でも、俺が本当に守りたいのは別のものだ」


その時、暗闇の中に一筋の光が差し込む。


「あなたは、自分のためだけに戦ってきたんじゃない」


リーフィアの声が聞こえる。光の中から、彼女の姿が浮かび上がった。


「今のあなたには『守りたい』ものがあるでしょう?」


カズマの心に、様々な記憶がよみがえる。エルフの村で過ごした穏やかな日々。子供たちの笑顔。村人たちの温かい歓迎。そして、常に自分を支えてくれたリーフィア。精霊との契約。


「そうだ…俺が守りたいのは」


カズマの中で、何かが目覚める。それは破壊の力ではない。守る力、つなぐ力、絆を深める力。


古代魔法が、その真の姿を現す。


「俺は復讐なんかしたくない。ただ、みんなが笑って暮らせる世界を作りたいだけだ」


黒いカズマの表情が変わる。憎悪が消え、代わりに悲しみが浮かぶ。


「でも…辛いだろう?一人で戦うのは」


「一人じゃない」


カズマは微笑む。


「リーフィアがいる。精霊たちがいる。魔族の仲間もいる。俺は一人じゃないんだ」


その瞬間、光が爆発的に広がる。黒いカズマの姿が光に包まれ、やがて穏やかな表情に変わる。


「そうか…ありがとう。やっと、本当の俺の気持ちを思い出せた」


二人のカズマが重なり合い、一つになる。そして、新たな力が宿る。


心の奥底で、古代魔法の鎖が解き放たれる。それは攻撃のためではなく、心を守るための、そして仲間との絆を深めるための力だった。



試練の完成


意識が現実世界に戻る。カズマはゆっくりと目を開けた。


謁見の間にいる全ての者が、固唾を飲んでその瞬間を見守っている。魔結の試練を受ける者の多くは、精神が崩壊して戻ってこない。人間であればなおさらだ。


「カズマ…」


リーフィアが心配そうに声をかける。


「大丈夫だ」


カズマは立ち上がる。体の奥底から、新たな力が湧き上がってくるのを感じた。それは今までの古代魔法とは質が違う。より深く、より本質的な力。


「これは…」


ミュリエルが驚いた表情を見せる。


「人間として初めて、試練に成功した」


その言葉に、魔族たちの間でざわめきが起こる。


「人間が魔結の試練を…」


「そんなことが可能なのか?」


バルログも眉をひそめる。しかし、その表情には先ほどまでの敵意はなかった。


「確かに…この人間からは、先ほどとは違う気配を感じる」


魔族女王ヴェルザがゆっくりと立ち上がる。


「人間にしては…よくやった」


しかし、すぐに表情を引き締める。


「だが忘れるな。我らはまだ、お前を完全には許していない」


カズマは頷く。当然のことだった。一つの試練をクリアしたからといって、長年の憎しみが簡単に消えるわけではない。


「それでも、今日この場で証明されたことは大きい」


ミュリエルが口を開く。


「この人間は、真に種族の壁を越えた共生を願っている。その心に嘘はない」


魔族の長老が杖をつきながら前に出る。


「ならば、我らも一時の休戦を検討するか…」


その時だった。


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