第6章「魔王城への道」
新たな共鳴
森の精霊セルヴァンとの契約を結んでから三日が経った。カズマは洞窟の外で朝の光を浴びながら、【風刃結界】の練習をしていた。風の刃が渦を巻いて彼を包み込み、近づいてくる木の枝を軽やかに切り裂く。
「まだ完全にコントロールできないな」カズマは息を吐きながらつぶやいた。
「当然だ」セルヴァンが木の上から飛び降りてきた。「その魔法は数百年かけて完成された術式だからな。三日で完璧になるほど甘くはない」
リーフィアが果物を持って戻ってきた。「朝食よ。今日はどこへ向かうの?」
カズマは空を見上げた。雲の向こうに何かが見えるような気がした。いや、見えるのではない。感じるのだ。昨夜から続いている、あの微かな共鳴。魔導書が呼んでいる。
「また感じるんだ」カズマは胸に手を当てた。
「どっちの方向?」リーフィアが尋ねた。
カズマは東の方角を指差した。「あっちだ」
セルヴァンの表情が急に真剣になった。「そっちの方向といえば魔王城だな」
リーフィアが果物を落としそうになった。「え?魔王城って、あの?」
「魔族女王ダークネス・ヴェルザが統治する城だ」セルヴァンは腕を組んだ。
カズマは共鳴を感じる方向を見つめた。確実にそこから呼ばれている。まるで何かが彼を待っているかのように。
「でも、古代魔導書がそこにある可能性が高い」カズマは振り返った。「今までの経験からして、この共鳴は間違いない」
リーフィアは不安そうな顔をした。「カズマ、危険すぎるわ。魔族たちは人間を見つけたら問答無用で殺すって聞いているもの」
「精霊がいる限り、ある程度は安全だ」セルヴァンが割り込んだ。「精霊は中立的な存在として扱われる。特に私のような古い精霊ならな」
「本当?」リーフィアの表情が少し明るくなった。
「ただし」セルヴァンは続けた。「絶対に安全とは言えない。魔族の中にも過激派がいるからな。特に人間に家族を殺された者たちは、精霊の存在など関係なく襲いかかってくるだろう」
カズマは長い間考えた。確かに危険だ。しかし、古代魔法を完全に習得するためには、できるだけ多くの魔導書を集める必要がある。王国の召喚者たちとの力の差は歴然としている。このまま逃げ続けるだけでは、いずれ捕まってしまうだろう。
「行こう」カズマは決意を込めて言った。「古代魔導書を手に入れて、本当の力を身につけるんだ。そうしなければ、みんなを守ることはできない」
リーフィアは少し迷ったが、最終的に頷いた。「分かった。でも、絶対に無茶はしないで。約束して」
「約束する」
セルヴァンは肩をすくめた。「面白くなりそうだな。まあ、ここにいても退屈なだけだ。ついて行ってやろう」
険しい道のり
魔王城への道は想像以上に険しかった。人間の領土を抜けると、すぐに荒涼とした大地が広がっていた。
その時、遠くから低いうなり声が聞こえてきた。三人は反射的に身構えた。
「魔物だな」セルヴァンが風を操って周囲を探った。「かなり大型だ。おそらく魔族領の番犬の役割を果たしているのだろう」
岩陰から現れたのは、三頭の犬のような魔物だった。しかし、普通の犬とは比べ物にならない大きさで、それぞれの頭部から紫色の炎が立ち昇っている。
「ケルベロスの亜種か」セルヴァンが呟いた。「厄介だな」
魔物たちはカズマたちを見つけると、一斉に襲いかかってきた。
「リーフィア、後ろに下がって!」カズマは【風刃結界】を展開した。風の刃が彼の周りを旋回し、最初の魔物の爪撃を防ぐ。
リーフィアは木に登りながら弓を構えた。精密な射撃で魔物の目を狙う。
「セルヴァン!」カズマが叫んだ。
「分かっている!」セルヴァンは大きな竜巻を発生させ、魔物たちを宙に巻き上げた。「今だ!」
カズマは【封雷結界】を発動した。雷の結界が魔物たちを包み込み、動きを封じる。その隙にリーフィアの矢が急所を貫いた。
戦闘は十分ほどで終わったが、三人とも息を切らしていた。
「魔族領の魔物は手強いな」カズマは汗を拭った。
「これからもっと強い奴らが出てくるぞ」セルヴァンが警告した。「気を引き締めていけ」




