契約の成立
セルヴァンは祭壇の魔導書を手に取り、カズマに差し出した。
「これは風の古代魔導書。風の力を操る術式が記されている」
カズマが魔導書に触れると、再び文字が浮かび上がった。今度は風を操る複雑な術式の数々。その中でも特に強力な一つの術式に、カズマは強く惹かれた。
「【風刃結界】…これは」
「風の刃で作られる完全防御魔法だ。物理攻撃を防ぎ、同時に接近する敵にダメージを与える」
カズマは術式を理解し、体に魔法の知識が刻み込まれていくのを感じた。
「そして」セルヴァンが微笑んだ。「私も一緒に行こう」
「え?」
「ここにいても退屈なだけだ。お前たちの旅について行ってやろう。きっと面白いものが見られるはずだ」
セルヴァンの体が光に包まれ、縮小していく。やがて彼は手のひらサイズの精霊となり、カズマの肩に止まった。
「この姿の方が旅には便利だろう」
「ありがとう、セルヴァン」
「礼には及ばない。私も久しぶりに外の世界を見たくなった」
こうして、カズマとリーフィアの旅に新たな仲間が加わった。三人…いや、三体のチームが結成された瞬間だった。
新たな力の確認
洞窟を出て夕暮れの森で、カズマは新しく習得した魔法を試してみた。
「【風刃結界】!」
カズマの周囲に、透明な風の結界が形成された。結界の表面は微かに光り、その中で無数の風の刃が回転している。
「すげぇ…」
リーフィアが小石を投げてみると、結界に触れた瞬間に小石は粉々に砕かれた。
「近接戦闘で威力を発揮するな」セルヴァンが解説した。「剣を振るった敵の腕も、この刃で切り落とせる」
「でも魔力消費は?」
「中程度だ。5分間は持続できるだろう」
カズマは結界を解除し、手応えを確認した。確実に強くなっている。しかし、まだまだ王国の召喚者たちには及ばない。
「次の魔導書を探そう」
「ああ。でも今日はここで休もう」
三人は洞窟近くの森で野営の準備を始めた。焚き火を囲んで食事をしながら、セルヴァンが古代魔法について教えてくれる。
「古代魔法は感情と強く結びついている。怒りや憎しみでも発動するが、そうした感情で使った魔法は必ず使用者を蝕む」
「じゃあ、どんな感情がいいんだ?」
「愛、希望、そして守りたいという気持ち。それが最も純粋で強力な力を生む」
カズマはリーフィアを見た。彼女も同じようにカズマを見つめている。
「きっと大丈夫よ」リーフィアが微笑んだ。「あなたにはそれがある」
「ああ…そうだな」
星空の下、三人は明日への希望を胸に眠りについた。新たな力を得て、新たな仲間を得て。
王国の動き
一方その頃、王国では緊急会議が開かれていた。玉座の間に集まった貴族たちの表情は険しい。
「魔族領での偵察で、奇妙な魔力の痕跡が発見されました」
宰相バルザックが報告する。
「どのような?」
「古代魔法に似た性質ですが、記録にない術式です。そして…」
バルザックは一度言葉を切った。
「その魔力から、例の逃亡した召喚者の気配を感じ取れました」
国王レオナール三世の表情が変わった。
「まだ生きていたのか、あの無能が」
「それが、無能どころか相当な実力を身に付けている模様です。このまま放置すれば、将来的に大きな脅威となる可能性があります」
「では、どうする?」
「ミツル殿に捜索を依頼してはいかがでしょう。彼なら確実に始末できるはずです」
国王は頷いた。
「そうしろ。国家機密を知る者を野放しにはできん」
王国の魔の手が、再びカズマたちに迫ろうとしていた。
旅立ちの朝
翌朝、カズマは新たな共鳴を感じていた。それは昨日までよりもはるかに強く、明確な方向を示している。
「今度はどっちだ?」
セルヴァンが尋ねる。
「南東の方角…あれ?なんか複数の方向から感じる」
「ほう。お前の能力が向上したのかもしれんな」
「どういうこと?」
「古代魔法の適性が高まれば、より広範囲の魔導書を感知できるようになる。お前は才能があるのだろう」
リーフィアが荷物をまとめながら提案した。
「一番近い場所から順番に回ってみない?」
「そうだな。でも気をつけよう。きっとまた試練が待ってる」
三人は出発の準備を整えた。カズマの魔力は確実に増している。新しい魔法も覚えた。そして何より、信頼できる仲間がいる。
「よし、行こう!」
朝日を背に受けながら、一行は新たな冒険へと向かった。次の魔導書が待つ場所へ。
森を抜けながら、カズマは昨日見たミツルの戦闘を思い出していた。圧倒的な力。神々しい光。そして、冷酷なまでの殺戮への喜び。
「俺は…あいつらと戦えるのかな」
「一人じゃ無理でも、みんなでなら」リーフィアが答えた。「それに、古代魔法にはまだ秘められた可能性があるはず」
セルヴァンも同意した。
「古代魔法は数で劣る者が、数で勝る者に立ち向かうための叡智でもある。きっと道はある」
カズマは頷いた。確かに、まだ始まったばかりだ。これから多くの魔導書を見つけ、多くの力を身に付けるだろう。そして、いつかは…
「必ず止めてみせる。あいつらの暴走を」
決意を新たに、一行は歩き続けた。次なる試練へ。次なる成長へ。そして、すべての種族が平和に暮らせる世界の実現へ向けて。




