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第5章「森の精霊との契約」

魔導書の共鳴


夜明けの光が森の梢を通り抜け、露に濡れた草原を照らしていた。カズマは焚き火の残り火を眺めながら、胸の奥に感じる微かな振動について考えていた。


「おはよう、カズマ」


リーフィアが起き上がり、エルフらしい優雅な動作で髪を整える。彼女の緑の瞳は、いつものように穏やかで温かい。


「おはよう。よく眠れた?」


「ええ。あなたはどう?なんだか昨夜から落ち着かない様子だったけれど」


カズマは苦笑いを浮かべた。彼女の観察眼はいつも鋭い。隠し事をするのは難しそうだった。


「実は…また感じるんだ。あの感覚を」


「魔導書の共鳴?」


「多分そうだと思う。でも今度はもっとはっきりしてる。まるで何かが俺を呼んでいるみたいに」


リーフィアは真剣な表情になった。彼女もカズマの古代魔法について学習し、その重要性を理解していた。古代魔導書は単なる本ではない。それは失われた文明の叡智であり、種族間の争いを止める可能性を秘めた希望でもある。


「どちらの方向?」


カズマは東の方角を指差した。朝日がちょうどその方向から昇ってきている。


「あっちだ。でも…本当に気のせいかもしれない。確信が持てないんだ」


リーフィアは立ち上がり、カズマの手を取った。


「自分を信じなさい。私もついてる。一緒なら、どんな困難でも乗り越えられるわ」


その言葉に勇気づけられ、カズマは決意を固めた。二人は荷物をまとめ、共鳴の示す方角へ向かって歩き始めた。


森の奥深くへ進むにつれ、空気に焦げた臭いが混じり始めた。鳥のさえずりも次第に少なくなり、不気味な静寂が辺りを支配していく。


「この臭い…」


リーフィアが眉をひそめた。エルフの鋭敏な嗅覚は、人間には感知できない微細な変化も捉える。


「戦闘があったのね。それも大規模な」


二人が丘の上に出ると、眼下に広がる光景に息を呑んだ。平原は黒く焼け焦げ、巨大なクレーターがあちこちに点在している。木々は根こそぎ倒れ、大地には深い亀裂が走っていた。


「すげぇ…一体何があったんだ」


その時、遠くから爆発音が響いた。まだ戦闘が続いているのだ。カズマとリーフィアは身を低くして、慎重に現場へ近づいた。


岩陰から覗くと、そこには信じられない光景があった。一人の青年が、数十体の魔族を相手に圧倒的な戦闘を繰り広げていている。青年の手には光る剣が握られ、その周囲には神々しい光の輪が浮かんでいる。


「あれは…」


カズマの顔が青ざめた。その青年を彼は知っている。同じ日に異世界に召喚された、第一召喚者のミツルだった。


「【審判の光】!」


ミツルが剣を振り上げると、天から光の柱が降り注ぎ、魔族たちを一瞬で消し炭に変えた。その威力は凄まじく、周囲の地形すら変えてしまうほどだった。


「聖なる力よ、悪を滅ぼせ!【聖剣召喚・天翔】!」


新たな魔法と共に、ミツルの手に巨大な光の剣が現れる。それは一振りで魔族の隊列を切り裂き、後方にいた指揮官クラスの魔族まで両断してしまった。


「化け物め…全員始末してやる!」


ミツルの表情は狂気じみていた。召喚直後の無垢で爽やかだった雰囲気とは全く違う。王国で「正義の執行者」として崇められ、それが歪んだ使命感となって彼を支配していた。


残った魔族たちは恐怖に震えながら退却していく。ミツルはそれを追おうとしたが、王国の騎士が止めた。


「ミツル様、深追いは禁物です。本日の作戦は成功です」


「そうだな…まあ、今日はこのくらいにしておいてやろう」


ミツルの声は冷たく、魔族を生き物とも思わない響きがあった。


カズマは拳を握りしめた。同じ日本から来た人間が、なぜここまで変わってしまうのか。そして、自分は果たして彼らと戦えるのだろうか。


「このままじゃ到底敵わない…」


リーフィアがカズマの肩に手を置いた。


「焦る必要はないわ。あなたにはあなたの道がある」


「でも…」


「古代魔法には、あの光の魔法とは違う可能性があるはずよ。魔導書を急いで集めましょう」


カズマは頷いた。彼らが立ち去るのを待ってから、二人は再び旅を続けた。



荒れ果てた洞窟


共鳴はさらに強くなり、今度は明確な方向を示していた。森を抜けると、岩山の中腹に洞窟の入り口が見えた。


「あそこだ」


洞窟の前に立つと、強い魔力の気配が感じられる。それは温かく、どこか懐かしい感覚だった。


「古代魔法の気配ね。でも…」


リーフィアが警戒心を示した。エルフの本能が危険を察知している。


洞窟の入り口には古代文字で警告が刻まれていた。『試練なき者、入るべからず』。


「試練か…」


カズマは【転移】を使っていきなり内部に移動することも考えたが、それは礼儀に反する気がした。古代魔法を学ぶということは、単に力を手に入れることではない。それは古代の叡智を受け継ぐということでもある。


「正面から行こう」


二人は洞窟に足を踏み入れた。内部は想像以上に広く、天井には光る石が埋め込まれて薄明かりを提供している。壁面には古代文字で様々な術式が記されており、カズマには何となくその意味が分かった。


「これは…結界の術式だ」


「古代魔法の知識が自然に理解できるのね」


進むにつれて、洞窟の様子が変わってきた。最初は自然の洞窟だったものが、徐々に人工的な構造に変化していく。石畳の廊下、装飾された柱、そして随所に仕掛けられた魔法の罠。


「気をつけて」


リーフィアが矢を番えた。彼女の森歩きの技で、隠された罠の位置を察知していた。


最初の罠は床に仕掛けられた魔法陣だった。踏むと炎が噴き出す仕組みになっている。二人は慎重にそれを回避し、さらに奥へ進んだ。


次は壁から飛び出すトゲの罠。リーフィアの正確な射撃で作動機構を破壊し、無力化した。


「古代の人たちも、魔導書を守るのに必死だったのね」


「きっと大切なものだったんだろうな」


三番目の罠は、廊下全体に展開される氷の魔法だった。触れるものすべてを凍らせる強力な結界。カズマは【封雷結界】を展開してそれに対抗した。雷と氷がぶつかり合い、激しい蒸気が立ち上る。


「今だ!」


結界の隙間を縫って、二人は最奥部へと到達した。


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