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旅路の終わりと新たな始まり

旅を始めてから三週間が過ぎた頃、二人は大きな街道都市「クロスロード」にたどり着いた。この都市は各地からの道が交差する要所で、情報と物資が集まる場所として知られている。


同時に、王国の監視も厳しい場所でもあった。


「気をつけて」リーフィアが警告する。「この街には王国の密偵がたくさんいる」


「分かってる。でも、ここなら古代魔法についての情報も手に入るかもしれない」


二人は慎重に街を歩き回り、情報収集を開始した。古書店、魔法具店、学者の集まる酒場など、魔法に関する知識が得られそうな場所を訪ね歩く。


そして、ついに重要な手がかりを掴んだ。


夕暮れの石畳が薄紫色に染まる古い商業地区で、カズマは不思議な感覚に包まれていた。胸の奥から湧き上がる、説明のつかない共鳴のような感覚。まるで何かが自分を呼んでいるような、そんな不思議な感覚だった。


「どうしたの?さっきから足が止まってる」


隣を歩くリーフィアが心配そうに声をかける。彼女の緑色の瞳は、夕日に照らされて金色にきらめいていた。


「なんだか分からないけど、この辺りに何かあるような気がするんだ」


カズマは曖昧に答えながら、周囲を見回した。石造りの古い建物が並ぶ、ありふれた商店街。だが、その中に一際古い佇まいの書店があった。控えめな看板には「アーカイヴ書房」と刻まれている。


「あの書店...なんだか特別な感じがする」


リーフィアも同じものを感じたのか、眉をひそめた。


「確かに...普通の本屋さんじゃないわね。魔力の匂いがする」


二人は顔を見合わせると、無言で書店に向かった。



アーカイヴ書房の奥深く


書店の扉を開くと、古い書物の匂いと微かな魔力の気配が鼻腔をくすぐった。店内は思ったより広く、天井まで届く書棚が迷路のように配置されている。奥に向かうほど、置かれている書物が古くなっていくのが分かった。


「いらっしゃい」


落ち着いた声が響く。振り返ると、白髪で背筋の伸びた60代ほどの男性が微笑んでいた。しかし、その佇まいには只者ではない雰囲気があった。まるで長い年月を生き抜いてきた者だけが持つ、深い知恵と静謐な力を感じさせる。


「珍しいお客様ですね」


男性の視線がリーフィアの耳に向けられる。エルフの特徴的な長い耳を隠すため、彼女はフードを深く被っていたが、それでも気づかれてしまったようだ。リーフィアが身を固くする。


「特に...」男性は微笑みを深めた。「エルフのお嬢さん」


リーフィアが咄嗟に身構えようとした瞬間、男性はゆっくりと首を振った。


「長く生きるには、時に耳を隠すことも必要ですね」


そう言いながら、男性は自分のフードを少し下げる。現れたのは、リーフィアと同じような長い耳だった。彼もまた、エルフだった。


「同族...それも」リーフィアが息を呑む。「長齢エルフ...数百年は生きていらっしゃる」


「アーカイヴ・セージです。この街で書店を営んで、もう三十年になりますかね」


男性...セージは穏やかに自己紹介した。


「人間社会に紛れ込んでいるなんて...どうして」


リーフィアの複雑そうな表情に、セージは理解を示すように頷いた。


「生きるため、そして知識を守るためです。古い知恵は、時に危険視される。表に出すぎると、排斥される」


カズマは二人のエルフの会話を聞きながら、胸の奥の共鳴がさらに強くなっているのを感じていた。まるで何かが自分を奥へと誘っているような感覚だった。


「すみません」カズマが口を開いた。「なんだか、この奥の方から何かに呼ばれているような気がするんです」


セージの目が鋭く光った。


「ほう...キミが来たから本が騒がしかったのか」


「本が騒がしい?」


「古い魔導書は、使い手を選ぶ。そして今、一冊の本がキミを呼んでいる」


セージは立ち上がると、奥の扉を指差した。


「ついて来なさい。普通の客には見せない書庫があります」



隠し部屋の魔導書


扉の向こうは、さらに古い書物で満たされた隠し部屋だった。ここに置かれているのは普通の本ではない。どれも微かに光を放ち、魔力を帯びていた。まるで生きているかのように、カズマの接近に反応して光度を増す本もある。


「これは...」リーフィアが息を呑んだ。「全部魔導書ね。こんなに多くの古代魔法の書物を見るのは初めて」


「長い年月をかけて集めたものです。人間たちが『危険思想』として燃やそうとするたびに、私が密かに保護してきました」


セージが本棚の一角を指す。そこで、一冊の革装本がひときわ強く光っていた。


「あの本が...」


カズマが近づくと、本は自動的に開いた。ページに記されているのは見たことのない文字...古代文字で書かれた術式だった。だが、不思議なことに、その意味がカズマには理解できた。


「これは...時間と空間を操る術式?『時空境界の鎖』...」


「そうです」セージが驚きを隠さずに言った。「古代魔法の中でも特に高度な術式。周囲の時間と空間を一時的に固定化する防御系魔法です」


カズマが魔導書に触れていると、部屋の空気が突然変わった。優しい光が満ち、その中に美しい女性の姿が現れる。白銀の衣をまとい、慈愛に満ちた表情を浮かべたその存在は、この世のものとは思えないほど神々しかった。


「精霊女王...ミュリエル様」


リーフィアが思わず跪く。セージも深々と頭を下げた。


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