森での夜の告白
その日の夕方、カズマとリーフィアは森の中で野宿をしていた。いつものように効率的なキャンプサイトを設営し、静かな夕食の時間を迎えている。
しかし、今夜は二人ともどこか落ち着かない様子だった。アルテミアでナギサを見てから、お互いに考えることが多くなっていた。
焚き火の音だけが静寂を破る中、森の奥から魔物の遠吠えが聞こえてきた。二人は反射的に身を寄せ合う。
「大きな魔物じゃないと思うけど、念のため気をつけましょう」
「ああ」
警戒しながらも、二人の距離は先ほどより格段に近くなっていた。お互いの体温を感じられるほどの距離で、肩を寄せ合っている。
魔物の気配が遠ざかったのを確認すると、リーフィアが小さく笑った。
「私たち、まるで恋人同士みたいね」
その言葉に、カズマの心臓が跳ね上がった。
「それは…その…」
「冗談よ」リーフィアが茶目っ気たっぷりに言う。「でも、あながち間違いでもないかもしれない」
「え?」
「だって、お互いのことをこんなに大切に思って、一緒に旅をして、危険も分かち合って…普通の友達以上の関係よね?」
カズマは頭が混乱した。確かに、リーフィアへの気持ちは友情以上のものだった。しかし、それをどう表現していいか分からない。
「俺は…君のことが」
「私も、あなたのことが大好きよ」リーフィアがあっさりと言った。「でも、今はそれで十分。お互いを大切に思う気持ちがあれば、それでいい」
「そう…だな」
「それに、今の私たちには他にやるべきことがある」リーフィアの表情が真剣になる。「この世界を変えること。平和を築くこと」
「ああ。それが一番大切だ」
「でも約束して」リーフィアがカズマの手を取る。「どんなに危険になっても、一人で抱え込まないで。必ず私に相談して」
「約束する。君も同じように約束してくれ」
「もちろん」
二人は手を握り合った。恋人とも友人とも違う、特別な絆で結ばれた関係。それは言葉で表現するのは難しいが、お互いには完璧に理解できるものだった。
その夜、二人は同じ毛布にくるまって眠った。リーフィアの頭がカズマの肩に乗り、彼女の温かい息づかいが首元に当たる。カズマは眠るまで、その幸せな感覚を味わっていた。
翌朝、二人は穏やかな気持ちで目を覚ました。昨夜の会話で、お互いの関係がより深くなったことを実感している。
朝食を終えて出発の準備をしていた時、リーフィアが突然動きを止めた。
「何か来る」
「魔物か?」
「いえ…人間。それも複数」リーフィアの耳がぴくりと動く。「馬に乗っている。まだ遠いけど、こちらに向かってきてる」
カズマの血の気が引いた。
「まさか、王国の追跡部隊?」
「可能性は高い」リーフィアが素早く荷物をまとめる。「すぐに移動しましょう」
二人は急いでキャンプサイトを片付け、森の奥深くへ向かった。しかし、追跡者たちも慣れているらしく、距離は徐々に縮まってくる。
「このままじゃ捕まる」カズマが焦る。
「大丈夫。森なら私の方が有利よ」リーフィアが自信を見せる。「エルフの森歩きを舐めないで」
彼女は獣道ではない、木々の間を縫うように進む隠密ルートを選んだ。普通の人間なら絶対に通れない、枝と枝の間を飛び移るような移動方法だ。
カズマも必死についていく。現代日本では考えられない運動能力を発揮していることに、自分でも驚いていた。
「俺、こんなに身軽だったっけ?」
「この世界に来て、身体能力も向上してるのね」リーフィアが振り返る。「魔力の影響かしら」
追跡者たちの声が遠ざかっていく。どうやら撒くことに成功したようだ。
しかし、安心したのも束の間、新たな問題が発生した。
「道に迷ったわ」リーフィアが困った顔をする。「急いで逃げすぎて、位置が分からなくなった」
周りを見回すが、どれも似たような森の風景で、方向が全く分からない。
「とりあえず、高いところに登って周囲を見渡してみよう」
カズマが提案し、二人は近くの大木に登った。木の上から見渡すと、遠くに煙が立ち上っているのが見えた。
「あそこに街か村があるみたい」
「でも、追跡者がいるかもしれない」
「それでも、このまま森で迷子になるよりマシだ」
二人は煙の方向を目指して歩き始めた。