第二召喚者との遭遇
翌朝、カズマとリーフィアは町を出発した。宿屋の主人や町の人々は盗賊を追い払った二人に感謝し、温かく見送ってくれた。
「本当にありがとうございました」主人が頭を下げる。「あの盗賊どもには長い間悩まされていたんです」
「いえいえ、当然のことをしただけです」カズマが答える。
町を出てしばらく歩いた後、リーフィアが振り返った。
「良い町だったわね。また来ることができるかしら」
「きっと来れるさ。その時は、もう偽名を使わなくてもいい世界になってるといいな」
「そんな日が本当に来るのかしら」
「来させてみせる」カズマの声に、静かな決意が込められていた。
それから数日後、二人は中規模の都市「アルテミア」に到着した。人口は5000人ほどで、商業が発達している。しかし、町の雰囲気がどこか浮き足立っているのを感じた。
「何かあったのかしら?」リーフィアが首をかしげる。
町の人々は皆、興奮した様子で何かについて話し合っている。カズマは近くの商人に話を聞いてみた。
「すみません、何か特別なことでもあったんですか?」
「ああ、あんたも知らないのか!」商人が目を輝かせる。「王国の英雄様がこの町にいらっしゃるんだ!」
カズマの血の気が引く。
「英雄…ですか?」
「そうだ!異世界から召喚された救世主の一人、ナギサ様だ!今、町の中央広場で民衆に挨拶をされているぞ!」
カズマとリーフィアは顔を見合わせた。ナギサ──カズマと一緒に召喚された第二召喚者の名前だった。
「またあいつか」
「見に行ってみる?」リーフィアが小声で聞く。
「正体を隠しながら、な」
二人は人混みに紛れて中央広場へ向かった。そこには数百人の人々が集まり、中央に設けられた台上で一人の少女が演説をしていた。
ナギサだった。
彼女は白い衣装に身を包み、まるで天使のような美しさで民衆を魅了している。日本にいた時とは比べものにならないほど洗練された美貌と、カリスマ性を身に纏っていた。
「皆さん、私たちは必ずこの世界に平和をもたらします!」ナギサの声が広場に響く。
「ナギサ様ー!」
「私たちの救世主よー!」
民衆の歓声が上がる。しかし、カズマは違和感を覚えていた。
確かにナギサの演説は感動的だし、彼女の美しさは人を魅了するものがある。しかし、何かが不自然だった。表情が完璧すぎる。まるで、計算され尽くした演技のような…
「愛する民よ!私は約束します。邪悪な魔族たちを一匹残らず駆逐し、人間の栄光ある未来を築くことを!」
その言葉に、カズマは嫌悪感を覚えた。魔族を「一匹残らず駆逐」──そんな言葉を、よくも平然と口にできるものだ。
演説が終わると、ナギサは民衆に手を振りながら建物の中へ消えていった。しかし、カズマが目撃したのは、建物の入り口付近でのナギサの表情の変化だった。
民衆がいる時の聖女のような微笑みが、一瞬で冷たく計算的な表情に変わったのだ。周囲を見下すような視線を送り、随行している王国の兵士たちに何かを命令している。
「あの子、やっぱり不自然よ」リーフィアが小声で言った。「心から民衆のことを思っているようには見えない」
「俺もそう思う」カズマが頷く。「演技してる。本性を隠してる」
二人は人混みの中で、王国召喚者の実態を目撃していた。
しばらく町で情報収集をした後、カズマたちは衝撃的な事実を知ることになる。ナギサが通った町々では、必ず「魔族の協力者狩り」が行われているという。少しでも魔族に同情的な発言をした住民が捕らえられ、処刑されているのだ。
「なんてことを…」リーフィアの顔が青ざめる。
「あいつは民衆を守ってるんじゃない」カズマの拳が握られる。「自分の地位を守るために、民衆を利用してるんだ」
宿屋で聞いた話では、ナギサの部隊が通った後の町では、住民同士の密告が横行するようになるという。「あいつは魔族に優しい」「魔物を殺すのを嫌がっていた」──そんな些細なことでも通報されれば、処刑の対象となる。
「恐怖政治だ」カズマが呟く。「民衆に愛されているように見えるが、実際は恐怖で支配している」
翌朝、カズマとリーフィアはアルテミアを後にした。接触は避けたものの、王国の召喚者たちの実態を知ることができた。そして、自分たちが進むべき道についても、より明確な信念を持つことができた。
「ナギサたちとは、根本的に考え方が違う」歩きながらカズマが言う。
「どういうこと?」
「あいつらは『勝つため』に戦ってる。俺たちは『守るため』に戦ってる。同じ戦いでも、意味がまったく違うんだ」
「守るため…」リーフィアが反芻する。「確かに、私もあなたも、誰かを守りたくて力を使ってる」
「そうだ。そして、その違いが最終的に勝敗を決めると思う」
道の先には、新たな町が見えてきた。二人の旅はまだまだ続く。