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広場の空気が、龍の翼の音と共に轟いた。


雌龍が地面に降り立つと、その巨体の前でイビットの姿は一層小さく見えた。培養容器を両手で抱えるゴブリンの影が、ドラゴンの鱗に映り込む。


「人間の代わりに、これを」イビットは声を震わせながらも、培養容器を掲げた。


雌龍は首を低く下ろし、その巨大な瞳でイビットを見つめた。熱気を帯びた吐息が、二人を包む。


「ゴブリン」ドラゴンの声が響く。「お前が我らの取り決めを覆そうというのか」


「違います」リックが一歩前に出た。「イビットは、むしろより良い提案を...」


「黙れ、人間」雌龍が噴出した蒸気が、リックの言葉を遮った。「小さき者よ、語れ」


イビットは培養容器の中の組織を示した。「生きた肉です。培養で、毎日、新鮮な...」


ドラゴンの鼻先が培養容器に近づいた。鋭い嗅覚で内容物を確かめている。


「興味深い」雌龍が呟いた。上空では、雄龍も旋回を狭め、状況を注視していた。


「幼竜の餌として、人間を求めたのは、その生命力ゆえ」雌龍は説明した。「古の魔力を宿した存在の肉でなければ、我らの子は育たぬ」


イビットは小さく頷いた。「だから、これを見てください」


彼は培養容器に手を当て、その中の組織が僅かに脈動する様子を示した。「生きています。成長し、再生する力を持つ」


雌龍は再び匂いを嗅ぎ、今度は長く、慎重に。その眼に、科学者のような分析的な光が宿る。


「確かに、これは...」雌龍は考え込むような仕草を見せた。「生命の息吹が感じられる。だが、量はどうする?」


「研究所があります」イビットは町の方を指さした。「大規模な培養が可能です。毎日、必要な量を...」


「見せよ」


その一言に、イビットとリックは顔を見合わせた。


「こちらへ」イビットが案内を始めようとした時、雌龍が首を振った。


「否。お前が乗れ」


巨大な爪が地面を掻いた。雌龍は、イビットを背に乗せようとしているのだ。


「イビット...」リックが心配そうに呼びかけた。


「大丈夫」イビットは小さく答えた。「僕の研究を、信じてる」


雌龍の背に乗ったイビットは、想像以上に冷静さを保っていた。ドラゴンの鱗は、温かく、不思議と心地良い。


研究所に到着すると、イビットは培養設備の詳細な説明を始めた。温度管理システム、栄養供給装置、そして大規模培養槽。それは、まるで同じ研究者に語りかけるかのような口調だった。


雌龍は時折、鋭い質問を投げかける。培養過程の安定性、生命力の維持、供給量の確実性。それらの質問の一つ一つに、イビットは誠実に答えていった。


「面白い」ついに雌龍が言った。「お前の技術は、予想以上だ」


イビットの心臓が高鳴る。


「条件を出そう」雌龍は続けた。「まず、三日分の培養肉を用意せよ。我らがその質を確かめる。そして...」


雌龍はイビットをじっと見つめた。


「お前自身も、この三年、我らの下で研究を続けること。幼竜の成長に合わせ、培養肉の調整が必要となろう」


イビットは大きく頷いた。「はい。僕の研究は、ドラゴンの幼竜のためにもなる」


「警告しておく」雌龍の声が低く響いた。「もし培養肉が期待に満たなければ、我らは即座に元の取り決めに戻る。その時は、お前から餌として頂くことになろう」


「分かっています」イビットの声は小さいが、確かだった。「必ず、成功させます」


夜空に、雌龍の大きな笑みが浮かんだ。「小さな研究者よ。お前の挑戦、楽しみにしているぞ」

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