七
緊急集会の喧騒の中、小さな声が響いた。
「新鮮な肉があれば...いいんでしょう?」
広間の隅で、ローブを纏った小柄なゴブリンが口を開いた。イビットだ。彼の言葉に、パニックに陥っていた議場が静まり返る。
「何だと?」アルバート町長が振り返った。
「ドラゴンが求めているのは、生きた人間ではなく...」イビットは自分の培養器具を見つめながら続けた。「新鮮な肉。それだけ、かもしれない」
「イビット」リックが前に進み出た。「お前の培養技術で、何かできるのか?」
「わからない。でも...」イビットは自信なさげに言葉を選んでいた。「私の培養技術なら、大量の組織を育てることができる。新鮮な肉を、毎日」
会場がざわめいた。イビットの培養技術は、これまで傷の治療や組織の再生に使われてきた。だが、確かにその技術は、生きた組織を育て上げることができる。
「だが、ドラゴンが納得するかどうかは分からんぞ」ガレス衛兵長が懸念を示した。「奴らは生きた人間を求めているんだ」
「交渉する必要がある」イビットは小さな声で、しかし確かな意志を込めて言った。「私の培養した肉を、見せる」
「危険すぎる」複数の声が上がった。「ドラゴンが怒れば、町全体が...」
「でも、試さないと」リックが声を上げた。「このまま毎日一人ずつ差し出すよりは、可能性に賭けるべきだ」
アルバートは深いため息をついた。太陽は既に地平線に近づいていた。最初の「選択」まで、あと30分もない。
「イビット」アルバートが問いかけた。「準備はできているのか?」
イビットは培養容器を取り出した。中には、既に成長させていた筋組織のサンプルが入っている。「これを、見せる。そして...」彼は自分の研究所を指さした。「大規模培養の準備も、できる」
重苦しい沈黙が広がった。
「私が同行します」リックが申し出た。「イビットの通訳として」
アルバートは窓の外を見た。丘の上空では、二頭のドラゴンが今も旋回を続けている。町の未来は、この小さなゴブリンの技術と、ドラゴンの判断に委ねられることになる。
「承認する」ついにアルバートは決断を下した。「だが、万が一の場合は...」
「分かっています」リックは頷いた。「その時は、私が身代わりになります」
イビットは自分の培養器具を丁寧に確認した。その小さな手が、わずかに震えている。これまで彼の研究は人々を救うために使われてきた。今度は、町全体の命運がその技術に懸かっている。
「行こう、イビット」リックが声をかけた。「お前の技術を、ドラゴンに見せるんだ」
二人は、夕暮れの広場へと歩み出た。上空では、巨大な影が彼らの動きを見守っていた。




